Pattern 1
幽霊列車の清掃員みたいな感じで書いた即席小説です。あまり文章は良くありませんので注意して下さい。地元の方ならば奏橋=???が分かる筈です。また、一話完結で終わり方に2つのパターンがあります。2話目も序盤の内容は同じです。
「間もなく、2番線に快速 奏橋行きが到着します。黄色い線の内側まで、お下がりください」
ほぼ一日の終わりに近い午後11時14分。広大な13番線まであるホームの中で端にの方に位置する、2番線のスピーカーから静かに機械的な音声が流れる。その声はほぼ一定の決まったトーンで、疲労の色もなく。古き良き時代を払拭するように。
「停車駅は刻秋、羽目島、緋虎、白夜郷、八海山幻、竜路、白庄、終点 奏橋の順に停車します。尚、この列車が奏橋方面最終列車です」
自分こと布道 槙重の帰る駅は終着駅、奏橋だ。大学に通っていて今日はバイトで夜遅くまで勤務していた為に、今から乗る最終列車で帰るのであった。
「ふぁ~今日も疲れたな……」
短い勤務時間でも内容の濃いバイトに勤めているので、疲労は既にピークに達し欠伸が出てしまう。この状態だと家に帰ったら風呂に入ってさっさと就寝だろう。その他考え事など出来たもんじゃない。最終列車の中だってウトウトするのは明白だった。
ガタンゴトン……。
そんなことをぼやいている間に列車がホームに入線してきた。車両はこの地域固定で統一されたステンレス製の銀車体に、オレンジ色のラインが二本入った313系。もう嫌と言う程に見かけるお馴染みの車両である。そして流れていく列車に目を向ければ、客がほとんどいない蛍光灯を灯した車内が見えた。こんな時間に街中に足を踏み入れる人など少ないのだろう。
プシュー――――!!
列車は寸分の狂いもなく停車位置に止まる。自分がいる場所は最後尾から2番目の車両の為、車掌が運転台のドアを開けて先に降り安全を確認してから乗客用の両開きドアを開けた。
ドアが開くとホームに描かれたラインに沿って並んでいた乗客が先ず、中央を開けて降りる客を優先させる。降りたのは僅かに2人。当然か。こんな都会の真ん中に家を構える人なんて早々いない。大多数は周辺の市街地のベッドタウンから通勤しているだろう。
彼はそんなことを心の中で呟きながら、ほぼ空車の車内に足を踏み入れた。座席は沢山空いているので自由に決められる。だから夜景が幾分ましな海側の席に座った。この車両には自分しかいない。静かな貸切状態だ。
「この列車は快速 奏橋行きです。刻秋、羽目島、緋虎、白夜郷、八海山幻、竜路、白庄、奏橋の順に停車します」
車掌のアナウンスが静寂の車内に響く。聞こえてくる声は何故かどんよりとしている気がする。多分自分が疲れているせいだろう。普段は聴こえない床下の機械の音すら、はっきりと耳に入るのは除いてだけど。
「間もなく発車します。ドアが締まりますので、ご注意下さい」
少し時間が経つと、短めの発車メロディと機械的アナウンスが列車の外のホームスピーカーから流れる。そして空気が抜かれるような音と開閉する音楽と共にドアが閉じられた。通勤時に多い駆け込み乗車がないので、そのまま車掌が先頭車両の運転士に合図ブザーを鳴らす。
ブレーキが解除される力が抜けるような乾いた音が窓の外から響くと、列車は動力をフル回転させて発車した。蛍光灯が灯るホームが車窓から消え、夜の灯り以外は暗闇の景色が映し出される。
ガタンゴトン……。
その一定に保たれた線路を走る音に疲労していた思考を預けると、すぐに意識が遠ざかっていく。目が徐々に細くなっていき、しまいには横一線になって眠りこけてしまう。この座り慣れた座席シートが心地いい。左右に揺れるこの振動もまた、眠りへと誘っていく……。
このまま終着駅まで眠ってしまおう。俺はそう思った。どうせ寝ても終着駅に着けば車掌が起こしてくれる。それまでゆっくりと……。
「ん……あれっ?」
しばらくして再び目が覚める。どうやら何かの拍子に起きるきっかけがあったらしい。そして目を擦り視線を“誰もいない”筈の前を見た。そして俺は前にいるものに眠っていた神経が一気に冴えてしまう。
目の前にはいつの間にか少女が席をこちらに向けて座っていたのだ。しかも美少女な為に少しの間だけ視線が彼女に固定される。思わず息を呑んだ。
一方、向こうの視線は俺を見据えて何かを楽しんでいるかのように小さく笑っていた。これには流石に感性の鈍い俺でも寝顔を見られたのだと気づき、赤面する。
「あっ……えっと……」
「あ……すいません。面白かったので、つい」
俺は突然のことに言葉に詰まったが、向こうから凛とした綺麗な声が出る。そしてペコリと小さく謝ってきた。それに釣られてこちらも返してしまう。
歳は見た目18歳前後で背は自分より低い160cm程度。髪は黒のロングストレートで、瞳の色は外人とのハーフだろうか濃いサファイアブルーだった。高校生の着る黒い制服を着込んでいるのだが、防寒具はない。付け加えれば隣の座席にはこじんまりした学生鞄がある。そして何よりも特徴的なのは……。
「あの……それ麦わら帽子……ですよね?」
何故か頭にベージュの麦わら帽子を被っているのだ。何かの私服との組み合わせならば首を傾げはしないだろう。だが制服とセットにすると服にセンスのない俺でも違和感全開に思える。
「ええ……そうですけど、どうかしましたか?」
「いや、何でもないです。変なことを聞いてすいません」
その絶望的な衣服センスの自覚がないのか、きょとんとして彼女は首を傾げる。どうやら説得の余地はないらしい。いやいやそれよりも……。
「どうしてこの席に?空き席ならそこら中にある筈ですよね?」
念の為に周囲を見渡すが、乗ったときと変わらずがら空き状態だった。つまり今この車両には俺と彼女しか乗っていない。そしてドアの上の電光掲示板には「次は 竜路」という表示。加えて列車の音が静かに車内に流れている。
「はい。ちょっと誰かと話がしたかったので、相席を取らせて貰いました」
「はぁ……そうですか」
今どき見ず知らずの他人に、しかも異性に話し掛けてくる高校生なんて珍しい。普通の人なら余裕で無視するのに。
「因みにどちらまで?」
「終着駅の奏橋までです」
自分と同じか。でもこんな時間まで彼女は何をしていたのだろうか?親は心配しているだろうに。疑問が湧いたがそれを尋ねるのは何だか気が引けた。相手は他人。いきなりそこまで掘り下げるのは良くない。
「同じですね。僕もそうなんですよ」
「なんか偶然って凄いですね」
聞きたいことを胸の内に押し込め、そうしてお互いに小さく笑い会う。若干年上の俺は彼女には失礼ながらも見とれた。こんなに可愛い少女が自分に話し掛けて来るなんて……夢のようだ。
「えっと……どんな話を振れば?」
向こうが会話を望んでいるのだ。こちらは彼女になるべく合わせなければ……。俺は出される提案に身構えた。
「どんな話でも構いませんよ。私は出来れば貴方の話が聞きたいです」
「僕の話……ですか」
意外な提案だった。てっきりここ最近の話とかのハードルの高い話題を求めてくると思ったのだが自分のことについてか……。
「はい。是非とも」
少女は目を輝かせてこちらに頼んできた。俺は普段の話のネタなどあまり持ち合わせていないが、仕方ない。彼女の為にも期待に答えよう。
「ここ最近のことだけど……」
俺と列車の中でいつの間にか出会った彼女は一緒に終着駅に着くまで、様々な話題で語り合った。その中でつまらないネタも出してしまったが、向こうはそれほど意に介すこともなく普通に聞いてくれた。
ここまで会話をして笑ったのはいつの日以来だろうか?次第に話をすることが楽しくなり、疲れもそれに反比例するかのように薄れていく。夜の車内に二人の笑い声が響き渡った。
「間もなく終点 奏橋です。降り口は右側5番線に到着します。車内にお忘れ物のございませんようにお気をつけ下さい」
話のネタが尽きかけた頃。そんな丁度良いタイミングで車内アナウンスが流れる。そろそろこの楽しい時間ももうおしまいのようだった。列車は緩やかにスピードを落とし始める。
終着駅 奏橋。そこは自分の県の端にある田舎街であり、この路線の優等列車発着駅でもある。またそれより以東は普通列車しか走っていない。新幹線は停まるには停まるが、精々こだまが一時間に二本、ひかりが二時間に一本といったところか。
列車は蜘蛛の巣の如く構内に張り巡らされたポイントを渡り、奏橋駅の5番線に静かに滑り込む。しばらく停車位置の調整の為にゆっくりとホーム内を進むが、最後には甲高いブレーキを掛けて止まった。止まったときの慣性で車内は少し揺れる。
そしてドアが一斉に開かれた。暖房が効いた車内にいたせいで外からの風が寒く感じる。しかしもう降りなくてはいけない。
「私達も降りましょう」
俺は自分の荷物を纏めると席を立ち上がり、近くのドアからホームの上に降り立つ。外の空気に触れると神経が研ぎ澄まされていく。眠気や疲れが一時的に消える。少女も同じく自分の後に続いて列車を降りた。
奏橋駅はホームが8つ存在するが、今は乗ってきた列車以外車両はなく、殺風景な光景だった。8番線よりも外にある電車区には灯りを落とした車両が静かに眠っている。
「なんか名残惜しいですね……」
少女はホームの上で持っていた学生鞄を両手で前に下げながら、どこか寂しそうに言った。さっきまでの明るい表情からは一変して暗くなる。それは同時に自分との会話が楽しかったという証拠でもあった。
「楽しい時間は早く過ぎるものだよ。ほら、そろそろ改札を出ないと駅員に怒られるぞ」
しかし、少女はゆっくりと首を横に振った。
「私は出ることは出来ません」
悲しげな顔をして断言する。青い瞳は真剣そうに。冷たい風がホームに吹き彼女の長い黒髪がカーテンのように靡いた。
「でも、この先列車はないんですよ」
先述の通り、今まで乗ってきた列車は最終列車だ。そしてここが終着駅とあってこの先の列車などもうない。彼女は何を考えているのだろう?
「あります。このホームの反対側に」
彼女は横に顔を向けて左手で乗ってきた列車のホームとは反対のホーム、すなわち何も存在しない6番線を指した。俺はまさかと思いながらも示された方向に視線を移す。そして目の前に映る光景に驚愕した。
「っ!!」
さっきまでは何も停まっていなかった6番線には、いつの間にか列車が出現していた。何のアナウンスもなく、車両が線路の上を走る音すら立てずに。車内は真っ暗のまま、二つしかないドアを全開にして。
しかも車両はいつも乗るものではない。今目の前に停まっている車両は自分が子供時代によく見掛け、数年前に全車廃車となって線路の上から消えた形式のものだった。
クリーム色の塗色の上にオレンジ色の細い線が入った元国鉄形車両、その名前は117系と呼ばれていた。
「なっ……!!」
それがここに、しかも唐突に現れるなんて……もしかしてあれは……。いや、もしそれが正しいのであれば今ここにいる彼女の正体は……。
全身が一気に冷えていくのを感じた。俺はハッとして少女に視線を戻す。しかしそこにはもう、今まで自分と会話していた少女はいなかった。何の音もなく。そして数秒前まで存在していた6番線の列車もまた、幻だったかのようになくなっている。目を擦り再度確認するが結果は変わらなかった。
「お客さん、もう改札を閉めますので早めに出てください」
背後から駅員の声が掛かり、自分の周りにはいつもと変わらない現実が戻ってきた。その声に俺は我に返ると、さっきまでのことを頭の片隅に仕舞い急いで改札に向かってホームの階段を駆け上がる。
ただ、走っている最中に耳に微かな列車の汽笛の音が、ホームから聴こえたような気がした。幻聴かもしれない。
その後俺は帰路についた。何故か知らないが足取りは軽くなっている。理由は分からない。少なくとも取り憑かれてはいないようだ。その証拠に夜の眠りは深く心地よいものだった。
しかし、自分と終着駅まで会話を交わした少女は恐らく幽霊だったのだろう。でなければあの違和感のある服装の説明がつかない。それに思い返せば彼女の姿は列車の窓には映っていなかった。別れ際にも影すら……。
また、自分の前に一瞬だけ姿を現した6番線の列車も幽霊列車だと確信した。そして彼女はあの列車に乗って行ったと俺は思う。改札を出ることが出来ないならば、列車に乗り続け鉄路をずっと走っていくしかないのだから……。
もしかしたら、自分が会った少女は鉄路の上を旅する旅人なのかもしれない。幽霊として永久に……。
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パターン2はまた別の終わり方になる予定です。なお、この小説は長編には出来ません。