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第一話 ホムラとムメイと始まりと


side_____




世界…その定義は実に曖昧なものだ

いいや、只俺が深く考えすぎているのかもしれないな

だが、それは仕方が無いことだ

なぜならそれは俺という人物がまず世界の定義、「生きているモノは必ず死滅する」という定義から離れているからだ

まぁ、厳密に言うと…そうではないんだが…



sideout




彼自身、それは自覚している

蒼穹が広がる小高い丘には青年が独りで佇んでいた

草原が微かに揺れた


青年は箱を抱えていた

また、草原が揺れた

木の葉は重力によって地面に落ちた


─────箱がドクンと揺れた


青年はそれを無視して先程の奇跡を思い返す

彼の頭上には、雲ひとつ無く…果て無く続く空だけが広がっていた














ざぁざぁと雨が地に叩きつけられていた

地面を打つ音は静寂にしっかりと響いていた

青年は傘をさして、歩いていた

と言っても本屋から帰る道だ、脇には「初回限定版特典!!」と書かれた宝箱の様な箱とその中に入れられているだろう本が抱えられていた

この悪天候だ、周囲に人影はない

青年の服装は制服であった

茶色の制服に茶色いズボン、顔はそれなりのイケメンで髪型は安っぽい美容雑誌に乗ってそうな髪型であった…唯一の特徴といえば、頭の天辺にあるつんつんとした一房の髪か

話を戻そう

彼自身、この雨には心を翳らせていた


(少し…雨宿りするか)


少し離れた所に寂れた公園と休憩所のような屋根のついたオンボロ建家があった

丁度いい、と彼は歩を進めた

水溜りに革靴を湿らせるが彼は気にせずにばしゃばしゃと速い歩調で歩いた


だが、10m程歩いた時に、自慢の視力は人影を捉えた

薄暗い闇に咲く白銀の長い髪を、困った表情を浮かべる美しい顔を

だが、

関係ないか、と彼は更に歩く


そして、重ねて言うが小学校からずっとAの自慢の視力はもう一人の人影を捉えた

今度は逆であった

闇に溶け込む黒い髪、痩せこけた頬


それでも関係ないと半ば自棄になって歩を進める

どうせなら間に入って女性のほうと会話をしよう、と気楽そうな考えを脳裏に浮かべ遂に雨漏りが少しする屋根の下に傘を下げて水を払って入る

女性の右側、そこに無言で陣取り中央の木に体を任せて箱を開ける


そこにはどこにでもありそうな本が入っていた

それの梱包を破き本を広げる


それと同時だ、男が入ってきたのは

ちらっと顔を上げる





ぞくりと背筋をある種の悪寒が駆け抜けた


虚ろな目、揺れる瞳孔、口から涎…そして




彼は本を閉じて箱に勢い良く入れる

箱が床に叩きつけられ衝撃で箱が閉まる



銀色の輝きは雨の煌きに紛れて女性はまだ気付かない

ただ、近寄ってくる男を見て少しの恐怖と…既視感を覚えたようだ

青年と男性の距離は5m程

固められ、雨に濡れて湿ったコンクリートを革靴が無理な運動を行使し、靴底のゴムが焼け焦げる



「お前が悪いんだお前が悪いんだお前が」


呪詛は耳に飛び込んできた

どう考えても殺す気の動きだ

ナイフは女性の心臓を狙って強く突き込まれる

そこでようやく女性は命を刈り取るであろう異物に気付いた

悲鳴をあげる余裕すらない、只目を瞑り恐怖を頭から締め出そうと努力する


彼は別に正義感の強い性格ではないし、女性主義フェミニストでもない

だが、目の前の狂人が彼女を殺した後どう動くかの予想はたった


故に彼は動く

打算的だが合理的な動きでまずは


「くたばれ狂人んんんんんんんん!!!!!!!!!」


最初から初対面の野郎を狂人呼ばわりして右拳でナイフの刀身をぶん殴る


ナイフを殴るという暴挙は彼自身も代償を受けた

右拳が切れている

肉が削がれ、白い何かが見えているが構わない

気にせず追撃に入った


「なんだぁ、お前ぇ」


鈍い声が彼に向けられたが構わない

恐怖は最初からない、向けられる鋭い切っ先に突っ込む気で突進する

狙いは最初と同じようにナイフの腹を右手の手の平で払い、左の裏拳を奴の顔面にぶち込む

正当防衛は成り立ってる筈だ、女性に襲いかかったあっちが悪い


勝手に納得したところで行動に移す


まずは右手で腹を打ち払う

決して美しくない動きで右手を伸ばす


が、それは空振りに終わった


「んな!?」


驚愕は彼の喉からだ


真相の原因はナイフの使い方を正しく分かっていない素人の行動であった

ナイフというのは切り裂くには適していない

骨などが邪魔したりなどで致命傷に至らせることが難しいからだ

だが、目の前の男は大上段に振り上げた

既に意識は混沌の様相を示しているだろう

今脳波の検査をしたらマグマのように赤く活性化の一途を辿ってることがよくわかるだろう


彼の脳内も大変だった

恐怖がどっと戻ってきたのだ

今まで楽観的だった思考も円卓会議が漸く開かれ、慌ただしく脳内妄想美少女騎士達が話し合っている



「どうするべきですか」


「もうだめでしょ」


円卓会議が強制終了された

ついでに上からアーサー王とランスロットだ


「終わった…」


大上段に振り上げられたナイフは機敏な動きで脳天をかちわろうと振り下ろされた

彼は諦めた

脳内円卓会議が不甲斐ないこともあったし自身も不甲斐ない


溜息一つ吐いて崩れた体勢からぐだぐだな前転の動きを始動した


彼は素人だ

格闘技の心得もないし、何かしらの心構えもない

ただ、動体視力は昔から良い方だった


そして、自慢の目はナイフの軌跡をしっかりと捉えていた


「死ねやあああああああああああああ!!!!」


殺意満々な雄叫びは震えている女性の鼓膜を打つ

それで余計に震えは強くなった

なんか叫びたくなった

無性に


「断る!!」


__________(つーか、何やってんだ俺。ただ本買って帰ってきてこんな修羅場…笑えねえよ)


これだから現実は困る

切実に思いながら泥だらけの雨だらけの外に飛び出した


雨に濡れた猫と目があった


どしゃりと地面を背中に感じる

顎を上げて男が居るところを見るが居ない


顎を引くとにへらって笑った男が居た


「キモイなお前」


短く言い放って男の股を蹴る

割と本気でおもいっきし


この状況の始まりは彼は知らない

恐らくはあそこの女性とここの男の恋縺れだろうとふんでる

だが、無性に腹がたった


悶絶し、膝から倒れる男の顎を寝っ転がりながら左足で蹴り抜く

その勢いで立って距離を取る

白地のTシャツは砂漠迷彩みたいになってしまったし、前面に至っては女性が着れば扇情的な場面になるだろうと容易に想像できた

だが青春真っ盛りの男が着たって意味が無い

脱ぐのも億劫だからいいやと雨の音にかき消される小声で言う




震えている女性に向かって歩き出す


一歩、二歩、三歩

震える女性の肩に手をかける




どんっ!


瞬間、目の前のしなやかな腕が胸に刺さっていた

厳密に言えば右肺を刃渡り10cmのナイフで刺されていた


「ブルータス、おまえもか…」


こんな時でもこんな事しか言えない俺に絶望しといて女性の目を見る


「えっ?」


「えっ?」


女性の戸惑いの声が響く

その後に、俺の後ろを見る

そこに映るのは悶絶し倒れている男の末路…股間がソフトボール大に膨らんでいた

立派なものをお持ちで


「嘘…そんな…」


「勘違い?」


「え?」


「なら、気にしないで」


「でも」


泣き目になる女性をみるとじわりと広がる血の色も忘れられそうだった

絶世の美女に殺されるなら本望だ


「さよな…ら」


力が抜け、彼は背中から倒れる

重い音が周囲に響き、雨が地を叩く音がまた周囲を支配する





主人公DEAD END












「ん?夢か…」


彼はベンチに座り、中央のわびさびとも言えぬ柱に寄りかかっていた

体を起こし、周囲をきょろきょろと見回す

随分とリアルな夢だ、と呟いて彼は宝箱を持ち上げる

心なしか少し重い気がする


雨は既に止んでいたようだ、曇天の様相を見せる空に溜息を吐いて水溜りを蹴り上げる








「眠い…」


いつの間にか家についていたようだ、彼は火村と書いてある表札を掲げている家に入る

玄関は和の心を重んじた板張り廊下が突き当たりまで続き、入って直ぐに障子がある、俗に言う平屋建てであった

静寂の全て包んだ家に無言で入り、一人暮らしには広すぎる家に飽き飽きする


彼はすたすたと他の部屋よりも風通しが良い一室に入る

そして、仏壇に飾られてある赤色の髪をした美女とさわやかそうなイケメンの写真に手を合わせる


彼の毎日の習慣をもはや動作にしてしまった日常に恨みを持ちながら彼は休日の昼間を堪能しようと居間に向かう


廊下の突き当たり…鏡がある所を左に曲がり、縁側と一心同体となった居間に置いてある緑のソファーに腰掛ける

彼が読んでいる小説はどこにでもありそうな普通の冒険系小説だ

それに深く心を奪われすぎたのだろう

招かざる来客に気付くことができなかった

そして、その客も深く息を殺し、小説に没頭している少年に気付くことができなかった


障子を客が開ける

それに気付き、彼は目線を障子に向ける


「誰だお前」


一言客に吐き捨てる


「俺だよ、俺。火村無命ひむらむめい様は俺の事を忘れたのか?」


「最近はやりの詐欺商法が遂に電話越しではなく対面式になったみたいだな。進化とは無限の可能性を秘めているな、おい」


髪を腰まで伸ばし、それを折り返して頭に結いつけてもう一度下ろすという奇怪な髪型をした人物を彼…火村無命はこう評価する


「つかお前暇人すぎるな」


「言うな、お前も一緒であろうに」


「その芝居がかった口調をやめて卑屈に成れ、今直ぐに」


「ほんとすいませんしたっ!」


「誇り《プライド》はどうした?」


「んなもんありませんっ!」


黒髪に一房二房金髪と茶髪を混ぜている卑屈友人(笑)の存在意義レゾンテートルを確認したところで本に栞を挟んで立ち上がる


「何しに来たんだよ」


「いや、なんか暇だったから」


「迷惑すぎるな…生ごみとして処理してもらおう」


「ゴメンナサイイキテウマレタボクヲユルシテクダサイ」


「そこで一生謝ってろ。百回謝ったら遊んでやる」


後ろで謝り百回記録を伸ばす努力を始めた馬鹿の名前を頭の中で確認する


(確か…武藤腎人ムトウジントだっけな…記憶が曖昧だな…)


先程の夢から何かオカシイと彼は無意識下で決めつけてさっきの夢を忘れるため、玄関から引っ張り出した金だらいを持って、友人ジントの元に向かった



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