恵方巻で告白!?
「よっしゃ勝った!」
「やった!」
「うぇ~い!」
「うぇ~い!」
シーズン最終戦。
応援していた地元サッカークラブがホームゲームで勝利し、夢川さんとハイタッチからのハグをした。
別に彼女と付き合っているわけではないぞ。高校生になって出会い、お互いに同じサッカークラブの熱烈なファンだって知って、性格的な相性も良かったので一緒にスタジアムに応援に行く仲というだけのこと。
それでも普段はハグまではやらない。今日やってしまったのは、推しチームが最終戦でリーグ昇格を決めたからだ。こんなん全力で喜ぶに決まってるだろ。周囲も涙を流して喜ぶ人がいるほど熱狂してるし、ハグくらい全く気にならない。
嘘です。
あまりにも嬉しくて反射的にハグしちゃって、少し、いや結構恥ずかしい。だって夢川さんのこと好きだから。
「やったね曽良君……嬉しい……」
頬を赤らめ涙目で喜ぶ夢川さんが超可愛くて愛おしい。
推しチームのリーグ昇格が決まって超嬉しい。
二つのとてつもない『超』が重なって、情緒がぶっ壊れてしまいそうだ。
夢川さんは俺のことどう思ってるのかな。ハグしちゃったこと何とも思って無さそうだけど……
告白するべきか、しないべきか。
成功したらサッカー以外でもデートするようになり、男女の関係を具体的に意識するようになる。サッカー観戦中もこれまで以上に気にせずスキンシップして喜びあえるようになるだろう。
失敗したら気まずい関係になって最悪サッカー観戦も行かなくなる。今の関係が最高に心地良いからこそ、絶対にこうなりたくはない。
ネガティブな結果を恐れて行動出来ず、今がそれなりに幸せだからそれで良いやと思ってしまう。
これからしばらくはサッカーがオフシーズン。その間に夢川さんとの関係を改めて考えようかな。
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なんてことを考えていたはずなのに、気付けばもう二月ですよ。次のシーズンが始まってしまう。
「なぁなぁ夢川さん、この前のプレシーズンマッチの結果見た? 予定が入って無ければ行きたかったんだけどなぁ」
「う、うん。見、見たよ?」
「そ、そっか…………」
「…………」
しかも何故か最近夢川さんが挙動不審だ。いつものように話しかけても自然に会話が出来ない。困ってるような感じがするし、気付かないうちに嫌われることしちゃったのかな……
このままじゃ今年は一緒にサッカー観戦に行けない。それどころかサッカーの話をすることも出来なくなってしまうかもしれない。
「よ~っす、お二人さん。今日も仲良いねぇ」
そんな俺達のぎくしゃくに気付いていないのか、クラスのイベント好き女子が元気に話しかけて来た。
「サッカーも良いけど、今日のイベントも忘れてないよね?」
「ああ、購買の恵方巻を皆で食べるってやつだろ。だから弁当は持って来てないよ」
「う、うう、うん。お、おお、覚え、てる……よ?」
「夢川さん?」
なんかいきなり顔を赤くして超挙動不審になったんだけど。
ただ恵方巻の話をしただけなのにどうしてだ。
「そっかそっか~、覚えてるなら良いんだよ。じゃ、頑張ってね」
「何をだ?」
「気にしないで、こっちのこと」
「???」
すげぇ意味深なにやけ顔をしながらどっか行きやがった。
おそらくは俺じゃなくて夢川さんに残した言葉なのだろうが……
「うう…………」
顔を真っ赤にして俯いている今の彼女に聞いても答えてはくれなさそうだ。
その時になれば分かるだろうし、今は放置かな。あ~あ、プレシーズンマッチの話したかったんだけどなぁ。
そんなこんなでお昼休み。
大混雑している購買に向かい、恵方巻を購入する。人の量が凄かったけれど、予約してあるし恵方巻の列が別に用意してあったので割とスムーズにゲット出来た。
「うちの学校の恵方巻って安くて美味いんだってな。どんな味か楽しみだぜ」
「う、うん、そう……だね」
相変わらず挙動不審な夢川さん。でも俺から逃げる訳じゃなく、一緒に行動してくれているということは嫌われてはいないのか。というか、いつもよりも傍に居る時間が長い気がする。
教室に戻ると大半の生徒が恵方巻を手にしていた。イベント大好き女子に唆された連中だ。中には購買で買ったものではなく、自分で作って持って来た猛者もいるらしい。
「よ~し、皆準備できたかな。今年の方角は南南東だからあっちだね」
彼女の指示に従い一斉に同じ方向を向き、恵方巻を口元へ持ってゆく。
「ぶはっ、シュールすぎるだろっこれ」
「面白すぎて食べられないよ~」
「動画撮って良いかな?」
「ちょっと皆、そんなんで大丈夫? お願いごとしながら無言で食べるんだよ?」
いやだってこの人数で同じ方向を向いて恵方巻咥える図とか、怪しい宗教のようにしか見えなくて笑っちまうよ。ほら、参加しなかった生徒が腹抱えて笑ってるじゃないか。
「はいは~い。皆我慢してね」
それから何回かストップがかかり、慣れた所で今度こそ恵方巻皆で食べようの会が開始された。
さて俺も食べ……あれ?
「夢川さん、南南東はあっちだぞ」
隣に立っている夢川さんが、何故か一人だけ違う方向を向いていた。
だから正しい方向を指さして教えてあげたけれど、彼女はそちらを向こうとしない。
俺の方を向いたままだ。
試しに少しだけ横に移動したら、彼女はその動きに合わせて俺の方を向き続ける。
「…………」
「…………」
夢川さんは恵方巻を少し齧っただけで、二口目へ進もうとしない。
顔を真っ赤にして、恵方巻を持つ手を小さく震えさせ、薄目で見上げるように恐々と俺を見ている。
恵方っていうのは、その年の幸福や金運をつかさどる神様がいる方向だったはず。彼女が俺の方を見ているということは、俺の事を神様だと思ってあやかろうとしているのだろうか。
なんてことはありえない。
だって彼女の頬を染める様子は明らかに……
彼女にとって恵方、つまり恵まれた方向は俺。
それなら俺にとっての恵方はどの向きだ。
俺は手に持った恵方巻を口元へ持って行き、夢川さんの方を向こうとした。
「!?」
だがそこで気付いてしまった。
集団の中で明らかに浮いている俺達の行動を、周囲の生徒達が気付いていないはずがないと。
「こいつらっ……!」
今になって嵌められたことに気付いた。
誰も彼もがニヤニヤしながら俺達の動向を見守っていたからだ。
これまで何度も言われたことがある。
『お前ら付き合ってるんだよな?』
『さっさと付き合えよ』
『それで付き合ってないとか言うの無理じゃね?』
夢川さんが誰かに相談したのか。あるいは唆されたのか。
どちらにしろ、今日の恵方巻イベントは夢川さんへ機会を与えることが目的だったんだ。
それが分かったところで何が変わるのだろうか。
俺の答えは変わらない。
だが恵方巻を食べ終わったこいつらに全力で揶揄われること間違いなしということが分かった。
きっかけを作ってくれたことには感謝するが、そんなくそ恥ずかしいことやってられっか。夢川さんと一緒に即座にここを離脱して、人がいないところでゆっくり話をするんだ。
そのためには、俺と夢川さんが周囲の連中よりも恵方巻を早く食べ終わらなければならない。食べずに逃げても良いが、幸運イベントを途中で止めると悪いことが起こりそうだからやりたくはない。
だが俺はともかく、夢川さんに早く食べろというのは酷だ。緊張しているだろうし、食べるのは遅い方では無いが運動部の男子とかには敵わないからだ。
ならどうする。
諦めて弄られるか?
いや、一つだけこの状況を乗り越える方法がある。
人より早く食べ終わり、俺の想いをしっかりと伝え、更にはクラスメイトに見せつける最高に恥ずかしい方法が。
「!?」
夢川さんの目が驚きで見開かれた。
そして顔の赤さが更に増した。
だが拒否されることも、逃げられることも無い。
それなら全力でこのまま進めよう。
夢川さんの恵方巻を逆から食べ進めるんだ。
つまりはポッキーゲームの要領だ。それを恵方巻でやってみる。
俺にとっての恵方が夢川さんだと答えながら、こうしたいくらい好きだという気持ちを籠めて。
この場から脱出したい気持ちを糧に一気に食べ進め、恵方巻が一気に短くなってゆく。
そしてもう巻物としての形を保てない程の長さになったので、俺はそれを全部一気に口の中に放り込む。
その瞬間、柔らかい感触があった。
だが口の中が米で一杯な俺は、それをじっくりと味わうことなく夢川さんの手を取って教室から脱出したのであった。なお、俺の分の恵方巻は後で夢川さんに食べて貰った。だって夢川さんの恵方巻は俺が大半食べちゃったからな。
「やったああああ!」
「勝った!勝ったよ!」
「これで残留確定だぜ!」
「嬉しい!嬉しい!」
晴れて付き合った俺達は、これまで通りサッカー観戦を楽しんでいる。もちろん恋人らしいことも何度もしていて、周囲からはバカップルだと揶揄されている。俺としてはそんなことは無いと思うのだけれど、一年の中で唯一そう思う日がある。
二月三日。
人とは全く違う恵方巻の食べ方は、間違いなくバカップルらしい行動なのだから。




