大切な裏切り者へ、このオルゴールを
「三池さん、この曲知っていますか?」
介護士の福沢由衣が持ってきたオルゴールのネジを回すと、懐かしい曲が聞こえてきた。
三池敏夫は、頭をよぎった記憶に人知れず眉をひそめるが、あえて明るい声で「お」と声を上げる。
「『ゴンドラの唄』だ。懐かしいな」
「かなり昔の曲なんですよね?確か、大正時代の」
「そうだよ。若いのによく知ってるね」
「思い出の曲なんです。昔、とても仲の良かった方が好きな曲で」
後ろを向いた由衣は薬の準備をしているらしく、パチパチと錠剤を出す音が聞こえる。
この曲を知っているという事は、かなり高齢の方なのだろうか。
それとも、懐かしい曲を好む若者なのだろうか。
「そうかい……その人は、今も元気なのか?」
「いえ、かなり前に亡くなりました。享年12歳です」
「そうか……そんな若さで……」
敏夫が19歳の時にも、12歳で亡くなった少女がいる。
敏夫はその少女に思いを馳せて目を閉じた。
「殺されたんです」
敏夫はどきりとして、由衣を見た。
「『殺された』というより……追いかけられて、足を滑らせて転落死したんです」
敏夫が知るその少女も、山で男に追いかけられて、崖から足を滑らせて亡くなった。
少女と同じ年齢で、よく似た死に方をした人物がいるのか、と敏夫は嫌に心拍数が上がる。
「とても上品で、優しい方だったんですよ。名前の通り『桜』がよく似合う方でした」
「そ、そうか……『桜』っていうのか……」
敏夫の知っている少女も『桜』という名前で、優しくて品のあるお嬢様だった。
桜も、当時流行っていた『ゴンドラの唄』が好きで、2歳年上の使用人・鈴子とピアノを弾きながらよく歌っていた。
「でも、屋敷に強盗が入って──全員、殺されました」
「屋敷……?」
「ええ、屋敷で働いていた青年が手引きして」
父が資産家だった桜も大きな洋館に住んでいたが、夜中に窃盗団が侵入して皆殺しにされたのだ。
青年──敏夫の手引きによって。
これは、本当に由衣の知り合いの話なのか?
もしや、敏夫の若い頃の罪について話しているのではないか?
だとすると、どこで知った?
未だにオルゴールが鳴り続ける中、敏夫の額から嫌な汗が流れ落ちる。
「一体、誰の話をしている……?」
おぞましいものを見るような目で、敏夫は由衣に尋ねた。
「あんた……何者だ……」
由衣は手を止めると、ゆっくりと振り向いて綺麗に笑う。
「お久しぶりです。あなたに槍で刺し殺された、中本鈴子ですよ」
前世の記憶を持った少女が、(偶然ですが)裏切り者の元へやってくる話です。
某復讐サスペンスドラマを放送している最中に「これを投稿して良いものか……」と悩みました。
由衣は「名前の通り『桜』が似合う」と言っただけで、「『桜』という名前だった」とは言っていません。
桜子だったかもしれませんし、桜乃だったかもしれません。




