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55 年度末パーティー

 公爵家で用意された私のドレスは『青』を基調としたものだった。

 胸元を隠してきっちりと閉じられた服。一応は清楚系だろうか。

 肌の露出が控え目なドレスよ。


 確か原作の悪役令嬢は、赤いド派手なドレスを着ていたはずだ。

 まったく違う運命を辿っているから、放っておくと私の着るドレスが変化するのね。

 今世の容姿を考えると、あの赤くて派手なドレスも悪くないと思う。


 胸元バーン! 金の装飾ギラッギラ! 大きい薔薇の装飾ドギャーン!

 ……な、如何にも『悪女』な見た目になれるドレスなのだ。

 普通に今、私用のドレスクローゼットに現物がある。

 前世の価値観的にいうと、むしろそういうスタイルの方が格好いいんじゃない?

 せっかくそれが似合う容姿なんだし。


 ちなみに、本来は私が悪役で、原作のメイン読者層は女性。

 即ち、今の私には女性読者に嫌われる要素が詰まっている。

 そう。今世の私はスタイルが抜群で胸が大きいのだ。

 なので、そういったドレスが似合う容姿となっている。

 読者目線に立つとアレだが、その体型の当事者的には少し優越感を覚えなくもないわ。

 まぁ、普段は気にしてないけどね。

 とにかく私は悪女ドレスが似合う容姿なのだ。


「せっかくの機会だから、ギラッギラの悪女風に仕立ててもらおうかしら」

「着替えている時間はもうございません、マリアンヌお嬢様」

「あら、残念」


 あえなく悪女ドレスへの衣装チェンジはお預けとなった。

 仕方ない。またの機会に悪女になるとしよう。


 準備を終えた私は外で待たせている馬車へ向かう。

 そこにはフィリップ様が居た。

 従者枠で公爵家に出入りが許されているとはいえ、彼も今日はパーティーの参加者だ。

 それでも私をエスコートするという約束を守るつもりらしい。

 国王陛下に宣告されているので大変な役割ねぇ。


「お嬢様、会場までお連れ致します」

「ええ、お願いするわね、フィリップ様」

「……少し驚きました」

「うん?」

「いつもとは印象が違うので」

「ふふ、似合わないわよねぇ」

「そんなことはありません。とてもよくお似合いです、お嬢様」

「まぁ、ありがとう」


 流石は攻略対象。女性のドレスを褒めるのはお手のものね。

 ヘレンさん的には、こんな風に攻略対象六人全員から褒められたかったんだろうなぁ。

 ……正直、あんまり羨ましくない絵面だわ。

 アレクシス殿下たちに対する好感度が低いせいかしら。


「行きましょうか、フィリップ様」

「はい、お嬢様」


 私たちは二人で馬車に乗り、パーティー会場へ向かう。



 道中、この一年間のことを感慨深く思い返そうとしたんだけど。

 別に原作イベントで困ったこととか思い出になかった。

 ほとんどのイベントを総スルーしてきたからなぁ。

 反面、ヘレンさんは大忙しだった。特に序盤はね。


 あくせくと攻略に勤しむヘレンさんを遠くから見ながら『今日も頑張っているなぁ』なんて思ってたっけ。

 彼女なりにフィリップ様を攻略する労力とかもあったから『せっかく苦労したのに!』と現状に怒っているのかしら。


『いよいよなのね!』という感覚はない。

 結末がどうなるのか、それが楽しみだなぁ、と思っているだけ。

 物理的に暴れ回られる可能性以外は、ほぼ安全席から高見の見物だ。


「そういえば、フィリップ様。アレクシス殿下やヘレンさんの説得はどうだったの?」

「……申し訳ございません。改心なさる様子はありませんでした」

「そっか」


 まぁ、そうだと思ってた。

 あとは本当に『ゲームが終わった後』に目を覚ますかどうかね。


「ちなみに私のことはどう断罪する予定?」

「……彼らが今日、何をするかについては教えていただけませんでした」

「あら、そうなの?」

「はい。ただし、何かを彼らが企んでいるのは間違いありません」

「まぁ……。それって」


 フィリップ様、彼らに裏切者だと思われている?


「フィリップ様、お可哀想に……」

「……何故、今、哀れまれなければならないのでしょうか」

「彼らから信頼されなくなって悲しいのではない?」

「流石に現状の彼らにそのような感情は抱きません。むしろ、私が彼らを哀れむ立場です」

「まぁ、そうね」

「監視が付いていると分かっているはずなのですが……」

「その監視が目に見えていないから『ここなら話しても大丈夫だろう』とか思っているんじゃない? 彼ら的には隠れて企んでいるつもりなのよ、きっと」

「それは浅はか過ぎるのでは」

「正義感が暴走しているのよ、きっと」


 でなければ、本職の人間に任せずに自らの手で罰してやろう! とかならないと思うのよね。

 例えば私がヘレンさんに暴漢を差し向けたとする。そんなの、パーティーで断罪する暇があるなら憲兵に出てもらうべきよ。

 だって、普通に犯罪なんだもの。

 証拠もあるなら尚のことパーティーまで待つ必要がない。


「……そろそろ着きますね」

「ええ」


 パーティー会場は王都にある。

 ちなみに三年生たちの卒業パーティーは既に終わった後よ。

 この年度末パーティーに参加するのは、あくまで私たちの同学年がメインね。

 そうなるとシルヴァン様だけ参加しないのか? というとそうでもない。

 参加者の家族も事前に申請していれば参加OKなのだ。

 実はけっこうユルいパーティーだったりする。

 基本的には楽しめればOK、来年度も頑張りましょうね、という催しだ。



 馬車が停まる。

 フィリップ様が先に降りて、私に手を差し伸べる。


「お嬢様、お手を」

「ええ、ありがとう」


 彼に手を引かれて馬車を降りて、共にパーティー会場へ。


 ドレスでも制服でもいいパーティー。

 これで他の皆が制服だったらどうしよう? すごく恥ずかしいわね、それ。

 なんて少し不安になったけれど、会場内に入ればドレス・タキシード率は高め。

 これなら私の姿が浮くことはない。一安心だ。


 会場内を見渡した私は、シルフィーネ様とセドリック皇子を見つけて、そちらへ。


「シルフィーネ様、セイン卿、ごきげんよう」

「マリアンヌ様、ラビス侯爵令息」


 私たちは軽く挨拶を交わし、雑談へ。

 どうやらアレクシス殿下たちはまだ来ていないみたい。


「シルフィーネ様、シルヴァン様は?」

「お兄様は……あ、来ましたね」


 シルフィーネ様は会場入り口に視線を向ける。

 私もそれに釣られて視線を移した。


「あら」


 シルヴァン様がエスコートしている女性は、ドレスで着飾ったミリアーナ・ベルジュ子爵令嬢だわ。

 まさか、本当にあの二人が?

 確かにちょっと考えていたことだけど。


 ミリアーナさん、例の冬イベントから絵画の描き手としての需要が増えて困っていらしたから、実は私がパトロンになっていたの。

 ほら、絵って個人でそんなに沢山描くとなると画材など用意するのに困るじゃない?


 あと、あくまで趣味の範疇というか、彼女が今後も芸術家として活動していくのか? というとかなり微妙なところなので、その辺の対応が柔軟に出来る私が支援した方がいいと思ったの。

 別に絵のプロになんかならなくていいのよ、と。

 ミリアーナさんが好きで描くことが重要で、今は需要があるから、それを満たすための支援をさせてほしい、とね。


 そんな風に私が彼女を支援していることは、すぐに噂になった。

 そうするとめでたく? ミリアーナさんは公爵家派閥の令嬢だ。

 元々の優秀さに合わせて、かなり優良物件のはず。

 私的には多分、相性もいいのではと思うし。


「まだ何も決まっていないんです。でも、彼女のエスコートなら……今ですと、そんなに嫉妬もされないですからね」

「あら、何かあるの?」

「何かって。マリアンヌ様のせいでしょう。彼女の描く絵は今、とても求められていて……一部にかなりの敬意を抱かれ、崇拝? されているんです。そんな彼女であればお兄様のエスコートを受けていても『仕方ないわ』と。そう思われますから」


 もしかしてミリアーナさん、一部の層からカリスマ扱いされているのかしら。

 前世でも、もちろん絵師で尊敬を集める方は居たと思うけど、そこまでの扱いをされている『先生』は……。

 有名漫画家クラスがレジェンド枠として扱われるぐらい?


 今世の場合、もちろん絵画を描く芸術家は居る。

 でも、このジャンルの開拓者? 的な人になるから……。

 私が思っているよりも影響力がある状態なのかもしれない。

 子爵令嬢と小侯爵の身分差を埋めるほど?



「なんだか凄いわねぇ」

「自覚がないですね……」

「誰のせいだと……」


 シルフィーネ様やフィリップ様が呆れたようにしている。

 誰のせいかというと、ミリアーナさんの腕前のせいよね。


 そんなミリアーナさんとシルヴァン様が周りに挨拶しながら、ゆっくりとこちらへやってくる。


「そういえばセイン卿、エドワード様は?」

「うん? ああ、流石に今日は誤解したまま、どこかの令嬢に期待させるのは申し訳ないからね。不参加にしてもらったよ」

「ああ、なるほど」


 セドリック皇子の従者、エドワード様は表向きバロウ皇国の伯爵令息だ。

 縁談を望む令嬢も居るだろうから、会場内に居ると声を掛けられる。

 しかし、それは偽りの身分であるため、エドワード様と縁を結ばんとする令嬢の期待を裏切り、騙すことになる。

 だから、そうなることを避けたのだろう。


「オードファラン公女」

「ミリアーナさん、ごきげんよう」


 ミリアーナさんがシルヴァン様にエスコートされつつ、恐縮したように私に挨拶をする。

 けっこう緊張しているわねぇ。


「驚きましたわ。シルヴァン様にエスコートされていらっしゃるなんて」

「は、はい。私も、その。はい……」


 これ、事前に打ち合わせせずに電撃エスコートして連れてきているんじゃないかしら?

 私はシルヴァン様やシルフィーネ様の表情を窺う。

 ドレスのサイズぐらいは、レイト侯爵家ならどうとでも調べられるだろう。

 制服参加のつもりのミリアーナさんに、急にドレスを贈って、急に小侯爵のパートナーに据えられたのでは。


 何それ、面白い。ふふふ。


「よく似合っていてよ、ミリアーナさん」

「あ、あ、ありがとうございます……」


 初々しい反応。シルヴァン様もそれを楽しんでいらっしゃるわね。

 まぁ、なるようになるんじゃないかしら。うんうん。知らないけど。


 そして、私たちが周りに注目されつつ、雑談に興じていた時。


 とうとう、会場にアレクシス殿下たちが現れた。


 アレクシス殿下のエスコートでヘレンさんが。

 二人の後ろを守るようにルドルフ様とロッツォさんが続く。

 別に全員がパートナーを連れてくる必要はないパーティーなので、ルドルフ様たちがパートナーなしであっても不思議ではない。


 アレクシス殿下も、ヘレンさんもすぐに私たちの集まりに気付いた。

 彼らは複雑な表情を浮かべ、私だけでなく、私の周りの皆さんにも視線を向ける。

 さて。どのタイミングで仕掛けてくるか。


 まぁ、そのタイミングもスケジュールがあるから、こちらで誘導させてもらうのだけど。



「国王陛下、王妃様の入場です!」


 響き渡る入場宣言。

 会場内に居たパーティー参加者たちが驚愕する。


 このパーティーは、所詮は一年生の年度末パーティーだ。

 卒業し、大人になる三年生の卒業パーティーなどでもない。

 制服参加まで許されるユルいパーティー。

 そんな催しに国王夫妻が参加する驚愕。


 でも、あり得なくはないだろう。

 何せこのパーティーには彼らの息子であるアレクシス殿下が居るのだ。


 国王夫妻は、パーティー会場を見下ろせる高い位置に。

 私はアレクシス殿下たちの様子を窺う。

 驚いているわね。


 陛下たちのパーティー参加は、本当に最後の引き返す機会。

 私に対する何かしらの言い掛かりを付けるだとか、婚約破棄宣言するだとかを思い止まることの出来るラストチャンスだ。


 アレクシス殿下は──


「皆、聞いてほしいことがある!」


 ヘレンさんの肩を抱き寄せて。


「マリアンヌ・オードファラン公爵令嬢! 前に出てこい! 今日、ここでお前の罪を明らかにする!!」


 ……踏み止まらなかった。


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― 新着の感想 ―
陛下のいる場でやってしまうのか…w
アレ:この女の罪は、王族を使って事実無根の噂を流し、金稼ぎに悪用した事である!!! ……とかだったら言い逃れできねぇですわ!w
あらー、どんまい
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