44 下見、そしてイベント開催!
私は、冬イベントに向けてコンテンツを充実させるべく活動していた。
その間も薔薇の会はフィリップ様やセドリック皇子にやんや、やんやと声を掛け続けている。
のらりくらりと彼らは躱しているが、その度に周囲へネタの提供をしていた。
なので私が油を注ぎ込まずとも、情熱は冷めることはなかった。
シルヴァン様はお役御免というか、そもそも基本は卒業生であり、普段は仕事があるので学園に居ない。
ただ、偶に顔を見せてはセドリック皇子たち留学生組と交流していく。
その様子を見る限り、シルフィーネ様とセドリック皇子の縁組は成立しそうだと思う。
まぁ、結局は私がとやかく言うことではない案件だから、これ以上の口出しはしないけどね。
あくまで私は、そういう縁もあると提案しただけだ。
特に提案を断っても彼らにペナルティはないし、私との関係が悪化することもない。
良縁になれば『その節はどうも』と言ってくれれば幸い。
この辺、あまり貴族らしくはないかもしれないわ。
でも、まぁシルフィーネ様と私の関係って、だいたいそういう緩い関係だし、私はそれを良しとしている。
シルフィーネ様曰く、『何故、マリアンヌ様が縁を結ばないのですか?』と。
アレクシス殿下との婚約解消が視野に入っているのなら、セドリック皇子との縁組は間違いなく良縁だ。
暴走モードに入っていないことは確かめているし、魅了系にも掛かっていなさそうだし。
別に私も嫌いとは思っていない。
ただ『今の私』が、この時代の婚姻関係に縛られてやっていけるかというと……。
いえ、やってはいけるけど、それで満足出来ない気がするのだ。
だから、この時代、この国における『普通の縁談』というのを忌避してしまっている。
今、自由に活動しているのが楽しいのよねぇ。
カフェみたいに上手く回っているのもあるし。
公爵令嬢の無駄遣いのようにも思えるし、この立場だからこそ沢山のことがやれるのでもある。
一番いいのはこうして自由に活動しながら王国の発展に貢献する生活スタイルだ。
結婚するならそんな私を支えてくれる人がいいのだが……そんな人物、このご時世に居ないだろう。
いや、公爵家との繋がりを求める人なら居ると思うけど。
それでも、そういうきっちりとした人は、私に貴族夫人としての役割を求めるだろう。
なので、まぁ……そう。
私、今世の結婚というものは、やんわりと諦めているのだ。
だいたい相手に迷惑をかける人間にしかならない。
アレクシス殿下との婚約解消を引き延ばしたのは、そういう面もあるかもしれない。
場合によっては好きにさせてくれるパートナーになってくれるかもしれない、と。
そんな風に思ったのかもしれないわ。知らないけど。
それでも人生には楽しみがあるから、それでいいだろう。
領民や国にはどうにかして還元していくとして。
以前までは我関せずの立場を貫いていた私だけど、フィリップ様を弟子入りさせたことで、薔薇の会は私への攻撃的な態度を隠さないようになっていった。
ヘレンさんはどうやら何か焦っているように見えるわね。
別にアレクシス殿下とルドルフ様、ロッツォさんはきちんと攻略出来ているので、何をそんなに焦ることがあるのか謎だ。
こちらから彼女に嫌がらせをしているワケでもないし、周りの生徒たちもそんなことをしている様子はない。
美形の男性が周りに三人も居れば充分じゃないのだろうか。
そもそも逆ハーレムルートを成功させてどうしたいのかしらね、彼女。
とりあえずそんなことも置いておいて。
私はフィリップ様を連れてイベント会場の下見に来ている。
運営スタッフが出入りしていて、イベント当日の動きを事前チェック中だ。
全体の総責任者は、学生の身ながら私になる。
この辺り、流石は公爵家の身分といったところ。
「ここが展示会の会場ですか」
「ええ、残念ながら思ったような会場ではないのだけど」
「お嬢様の思うような会場とはどのような?」
それはもう。コンクリート打ちっぱなしのだだっ広いスペース内に、所狭しと机が整然と並べられ、各クリエイターたちが持ち寄った創作物を手に売り買いし、一喜一憂するというアレだ。
「ふふ、それはおいおいね」
現段階であの状態には至らないため、メインコンテンツは『絵画の展示』として、そのための会場を用意して、他のコンテンツを付随させるスタイル。
店舗入り口付近にはカフェ『マリーゴールド』の出張店を設置しているわ。
「フィリップ様も前にスムージーを飲んだけれど。出来る工程も見ていく?」
「……後学のために」
さて、スムージーの肝となる『手動ミキサー』だけど。
電動部品はないし、私の知っているミキサーとは工業製品だけだ。
そんな中でどうやってミキサーを再現したのか。
構造はとてもシンプルで、見た目的には前世の工場製ミキサーとは別ものだ。
まず容器はガラス製品ではないし、プラスチック製品でもなく、透明ではない。
思い浮かべると、どちらかと言えば下部に刃があり、モーターなども底部分にあるのがミキサーの印象。
でも、この『手動ミキサー』は、どちらかといえば『かき氷製造機』みたいな作りだ。
穴も刃もない、上部だけ開いたシンプルなただの容器を用意し、上部の蓋を閉める。
その蓋に『回転刃』と連動した『ハンドル』が付いているのだ。
蓋を閉じて、上部にあるハンドルを手動で回すと、それに連動して中の刃が回転する仕組み。
手動のかき氷製造機みたいにシャカシャカと手で回して、容器に入れた果物や野菜を切り刻む。
現在は、この中で使う回転刃の研究中でもある。
もちろん、どの果物をどのぐらい配分するかも研究中。
カフェで使用する場合は、やっぱり衛生面が怖いので煮沸消毒を徹底するようにしている。
あとは忙しさでパンクして、そういった面を疎かにしないように数量限定にしているわ。
まだまだ商品のレアさで注目されているからね。
部品も構造もシンプルにしてメンテナンスがしやすいように配慮したつもり。
「という仕組みなの、シンプルでしょう?」
「そうですね。ですが、これを考え付くというのも中々……」
アイデア出しはしても結局、この部品を作るのは職人さんなんだけどね。
やはり人脈と資本はなければ何も出来ない。
特殊なスキル持ちでも何でもないし、知識も別に専門家ではないため、ふわっとしているわ。
「こっちが以前言っていたスポーツドリンク」
「こちらは……?」
「これもシンプルに水と砂糖と塩とレモンの配合を研究して、混ぜただけの飲み物よ」
「要するにレモンを混ぜた水ですか?」
「そうとも言うわね。砂糖や塩だけでなくレモン、ライム、ハチミツ、ハーブなど、何を混ぜるかは今後の研究課題」
こっちも知識がふわっとしているのよねー。
なので研究していかないとダメという。
とはいえ、これに関してはどの世界、どの国だろうと研究開発は継続しないとダメなものだろう。
「運動する人に向けたドリンクだから運動中や、運動後に飲むのがいいわ」
「……爽やかな風味ですね。飲みやすいと思います」
ちなみに科学的な根拠の説明は出来ない。
なので売り出し文句は今、フィリップ様が言ったように爽やかな味わいとか、そういうものになる。
あとは実際に必要となる現場でウケがいいか否かね。
今の段階なら、珍しさと飲みやすさを売りにしてカフェで提供出来る。
熱気で脱水症状とか怖いからね!
出張店とはいえ、衛生管理を厳重にチェックするように意識させている。
オーナー権限かつ、身分パワーのお陰で未成年な私でもきちんと言うことを聞いてくれるわ。
「……ルドルフが好みそうに思いますが」
「別に彼にだって飲ませていいわよ? しばらくは『マリーゴールド』のオーナーだって明かす気はないし。そこそこ注目されて人気も出てきているから、ヘレンさんを誘って飲みにくるか、もう飲みに来ているかもね」
スムージーやスポーツドリンクが並ぶカフェに気付いたヘレンさんが騒ぐかもしれないわね。
「そして、入口から入って会場内を自由に見回ることが出来るように」
展示物に触れられないようにガラスケースを用意させている。
あとはロープでの仕切りね。完全に美術品の扱いだ。
展示内容にジャンルの偏りがあるけど。
「当日、フィリップ様が居るとどう見られるか分からないから参加するかはお任せよ」
「……ひとまず、展示品の確認をさせていただいても?」
「ええ」
なまものオンリーイベント。
まぁ、まだまだ漫画を描く文化はないので、色々と展示物は拙いけれど。
今後に繋がる種を撒くことが第一の目的だ。
「随分と……、簡略化というか、いや、これはむしろ美化なのか……? 見ないタイプの絵画ですね」
「苦労したのよー。絵師には絵師の画風の矜持があるから、ある程度の再現ねー」
「……アレクシス殿下に、ルドルフ、ロッツォ……どうやって描いたのですか? 彼らがモデルを引き受けるとは」
「元となる絵は取り寄せたわ」
「は?」
「これらの絵は参考資料を元に描かれた絵ね」
「どうやって……」
「そんなの国王陛下たちや宰相閣下が味方な上に、こちとら公爵家なのだから余裕よ」
どこの家にも家族の肖像画が置かれているような時代だ。
まぁ、それらは持ち出せないにしても。
特徴を捉えた模写ぐらい描く人は居る。
大まかな特徴さえ掴めば、まぁ本人から掛け離れていても……大丈夫。うん。
むしろ多くの人の絵柄が集まる方がいいだろう。
「権力の無駄遣い……」
「安心して。興行的に黒字になったら、その分はきちんと寄付する予定だから。入口で大々的に告知するようにしているわ」
「そういう問題でしょうか」
だいたい寄付していれば、文句は出ないものよ。
ライフハックね。
学生向けの芸術鑑賞、文化交流、文化体験、そしてチャリティーイベントだ。
なんて貴族らしい、高尚な嗜みだろう。うんうん。
「こちらは……? 香水? まぁ、女性に向けたイベントらしいですから」
「これはイメージフレグランスね」
「……何ですか?」
「アレクシスモデル、ルドルフモデル、ロッツォモデルの彼らをイメージしたフレグランス、香水ね」
「香水……していましたっけ? 殿下はともかく、他の二人は」
「あくまでイメージよ。殿下が使っている香水でもないわ」
「それは受け入れられるんですか? 同じ香水ならともかく」
「さぁ?」
「さぁって」
「この国で、この文化が根付くかは未知数なのよねー。とりあえず健康には害がないように気を使っているわ。これはどこの香水でも一緒ね。自分で使うタイプと、部屋に匂いを満たすタイプがあるわ」
「売れるんでしょうか、このようなものが」
「さぁ? やってみないと何とも」
あとは系統としては似たような品があるわ。
それぞれのイメージを基にした物販品ね。
ちょっとやっつけ仕事になるけど、イメージカラーの飾り紐なんかもあるの。
「ベルジュ嬢が何か絵を描いているそうですが……」
「ええ、彼女にも参考資料を見せているわ。今、私たちと関係があるって思われると絡まれそうだから秘密裏にね」
「どうなのですか、彼女は」
「逸材ね。彼女は、この道の先駆者になりえるわ。たぶん」
「令嬢一人の人生がお嬢様に左右されているのですね……」
「高位貴族とはそういうものだわ」
「それは意味合いがかなり違うのでは……」
「そうかしら」
「……派閥に囲うなら、彼女の縁談をお嬢様が世話をするなど期待されているのでは?」
「まぁ、そうよね。でも、私の派閥に入ったところで将来性があるかというと怪しいのよねぇ」
どの道、私が王子妃になることはない。
ある程度の支援はするけど、どうするのが彼女にとって最善かしらね。
「フィリップ様は? 貴方も婚約者は居ないわよね」
「私は……」
「まぁ、まだヘレンさんのことを吹っ切れないかもしれないけど」
攻略対象たちの好みは基本、ヘレンさんだ。
以前もちらりと話したように天真爛漫な彼女が好きなのだろう。
とはいえ、転生者の性悪さを感じ取ってか、シルヴァン様のように好感度が稼げなくなってしまうパターンもある。
フィリップ様はヘレンさんに惹かれていたので、彼の好みもそちらだ。
でも、シルフィーネ様やミリアーナさんならば相性がいいのではないかと思う。
だって逆ハーレムルート以外のことを考えるとだ。
ヘレンさんは攻略ルートの攻略対象、ヒーローと結ばれる。
そうなると余る攻略対象が出てくる。
そうしたらヒロインの友人やライバルポジションの彼女たちと余った攻略対象が結ばれるのって割と自然な気がするわ。
ちなみに悪役令嬢はどのルートだろうと破滅する。
定番の国外追放、処刑、修道院行き、悪辣貴族への後妻入りなどなどだ。
逆ハーレムルートでも特にお許しはなく、断罪されるのみである。
まぁ、この世界だとそれらの末路はなさそうだけどね。
「……ベルジュ嬢と縁を結ぶのは考えていません」
「そう? そうしたらシルヴァン様にでも紹介しようかしら」
「子爵令嬢を? 次期侯爵と決まっている人にですか?」
「賢さは評価出来るし、若い年代をと考えると悪くはないんじゃない? まぁ、婚活中な令嬢はまだ居るから決断するのはシルヴァン様やレイト侯爵だけどね」
何もネームドキャラ同士で必ずしも結ばれる必要はない。
ゲーム上ではモブキャラクターでも現実では、きちんとしたただの人間だ。
令嬢に余っている人も居れば、令息に余っている人も居るので、彼女が望む相手と結ばれるように支援するのもいいだろう。
「シルヴァン殿は、狩猟祭でお嬢様に獲物を贈りました。彼はお嬢様と縁を結びたいのでは?」
「うーん……」
そうなると結局、侯爵夫人になることが確定するワケだ。
しかし、私が縁を結ぶということはどういうことか、という話に戻ってくる。
この辺り、無責任と言われてしまうかもしれないが、どうしてもねぇ。
正しく身分の高い立場を求めるならば、アレクシス殿下を調教して王子妃ないし、臣籍降下で新たな公爵位を勝ち取るとか。そういう路線もアリなんだけど。
「王子妃や侯爵夫人にはなりたくないのですか? お嬢様」
「どちらかといえば『相応しくない』と思っているわ」
「……我が家には」
「うん?」
「ラビス侯爵家には私よりも三歳年下の弟が居ます。弟も優秀で、次代の侯爵だって継げる才覚を持っていますよ」
「そうだったっけ?」
「知らなかったんですか……」
いやぁ、攻略対象の血縁関係ってちょっとねぇ。
目立って分かっているのは、ルドルフ様に兄が居ることと、悪役令嬢に兄が居ることぐらいだ。
シルフィーネ様たちも分かっているわね。
今世知識として把握はしているはずだけど……意識がゲームに引っ張られているところがあるかも。
でも、ラビス家にフィリップ様以外の令息が居るのはなんとなく分かる。
彼は本来、次代の宰相となることが確定しているキャラクターだから。
当代の宰相閣下のように両立させるか、或いは息子のどちらかを宰相、どちらかを侯爵という風に据えるのもアリなのだろう。
ゲーム上だとフィリップ様って宰相的な仕事しかしている様子もないからね。
もしかしたら、最初から彼の弟が侯爵になる予定だったのかもしれない。
「その弟くんとミリアーナさんの縁談を薦めるの?」
「いえ、そういうワケではなく、お嬢様が……」
「私と? 弟くんに侯爵位を継がせるつもりなら結局、侯爵夫人よね。フィリップ様は宰相を目指すとして……」
「私は宰相にはなりませんよ」
「あら、本当に諦めたの? そんな必要ないと思うわ」
「アレクシス殿下がああですから」
「私に弟子入りして、柔軟さを学んだ後なら第二王子殿下と縁を繋ぐといいわ。それぐらいは支援するわよ」
「……そうですか」
まぁ、そんな風に雑談を交わしつつ、下見を続けた。
イベント当日までに空いた期間で私は公爵家に届いた稲わらを使って編み物をしてみる。
例の『ござ』作りである。
何故、ござなのかというと……。
そもそも、この世界に『日本』のような文化を持つ国があるか、或いはこれから生まれるかは未知数だ。
となると現在、私は『日本人最後の生き残り』とも言える状態になる。
ヘレンさんも日本人っぽいけど、そこは割愛するとして。
なので、私が和風文化を生み出さない限り、この世界には前世の記憶に残るあれらの文化は今後も生まれないかもしれない。
それはちょっと寂しいじゃない?
悪役令嬢あるあるではなく転生者あるあるだけど。
ほら、卵かけ醤油かけご飯を躍起になって作るとか、そういうのと同じやつよ。
今世の私の命題として『和風文化』の構築も趣味として進めていきたいなーと考えている。
私が再現したいのは『和食』ではなく『和風文化』だ。卵かけご飯にも醤油にも拘りはない。
もちろんやってもいいけど。
卵の管理はともかく、醤油作りが専門知識なしでは不可能に近いと思うのよね。
それなら分かる範囲のふわっと感でも研究次第でどうにか再現出来そうなものを詰めていきたい。
この国ではウケないかもしれなくても、そこはご愛敬。
何もすべての活動を利益に繋げるつもりなどないのだ。
趣味と、実利の伴う活動、両方ともやっていくつもり。
和風文化の構築は、趣味活動の方ね。
だって、和風文化がないと……ほら。あれよ。
着物を着て、名前の付いた刀たちを擬人化して乱舞するジャンルとか、刀を持つ隊士たちのジャンルとか生まれないし。
いえ、刀作りはかなり無理ゲーな気がするけど。
後者のジャンルは、騎士団に『何番隊隊長』を名乗る文化を植え付けるとか、特務部隊を編成するのもアリかもしれない。
小目標としては、ござからどうにか畳造りをして、和室を作って……と。
着物はどうかしらねぇ。ウケるか否かの問題過ぎるから。流行は諦めた方がいいわ。
木造建築は釘を使わず、木材だけで組み立てる手法の研究をしてもらう。
あれ、伝わるかしら? 当然、専門知識はないのだけど。
何のために釘を使わないの?? と思われそうだわ。
いつか和風建築が出来たら、私のような転生者が現れた時にそれを見て涙するかもしれない。
でも、後世にまで文化や資料を残す場合って……。
石碑とか作らないとだめかしら? 一番、後世にまで残るのはやはり石だという説が濃厚よね。
歯車技術やら何やらは、この時代には花咲かなくても後世には役立つかもしれない。
なので石碑で資料作り案件ね。時代の先取りより、むしろ時代を逆行している気がするわ。
後世の天才や発明家にバトンパスが出来たらいいなと思う。
「出来た、ござ!」
流石は今世、編み物系の修得は必須なご時世。
草を編むという何とも言えない作業でもお手のもの。
まだまだ雰囲気のみの再現だけど悪くないのでは?
使用したのは、イ草ではないので、雰囲気再現ね。
この世界に『和』が生まれた瞬間だ。
そうして、とうとうイベント当日がやってきた。
あくまで知る人ぞ知る参加者のみが来るイベント。
静かなイベントになるかとも思ったのだけど……。
「あらぁ」
「……酷い侵食具合ですね」
フィリップ様も当日、一応は会場に同行する。
中々の混雑具合を見て『侵食』と表現するのは如何なものかと。
「想定以上の盛況ぶりだわ。まぁ、護衛も連れてきていいとしたから人数が余計に多そうな……」
参加者となるのは主に学生、貴族令嬢たちが大半だ。
なので護衛なしとするには問題だろうと、少数の護衛の同伴は認めている。
でも、内々で楽しみたい人も居るだろうから、そこの判断はお任せだ。
会場警備もきちんとしてもらっているが、参加者同士のトラブルが起きなければいいなぁ。
「「「「きゃああああああ!!」」」」
会場内では、少しはしゃいだような黄色い声が聞こえてくる。
助けを求めるような悲鳴ではないので……まぁ、大丈夫だろう。たぶん。