41 登校対策
現在、色々と活動中な私は、学園に登校していない日がちらほらある。
学生生活も大事なのだけど、ちょっと解放された感じ。
アレクシス殿下が盛大にやらかした影響で、私の行動は陛下に自由を保障されていることもあって、やりたい放題だ。
この辺りはお父様も含めて大人たちが寛容なお陰だろう。
やりたいことを思い付いては、ある程度の形にまとめて記録しておき、実現可能なアイデアは人に動いてもらう。
『ガラスの温室』プロジェクトは、この国でも許容される可能性が高い。
まずは高貴な者の道楽的な温室になりそうだけど。
ビニールハウスみたいなものが農業で利用されるのが最終形だとしても、今世ならまずは貴族からよね。
ガラス張りで一区画作っちゃおう! とか、流石に一般市民がやり始めるのは冒険過ぎるもの。
余裕のある者が、運用データを蓄積していかなくてはね。
強度が不安だから、構造的な欠陥がないかのチェックをしっかりして、デザイン性よりも実用性、頑丈さやメンテナンス性重視で建築してもらいたい。
まずは実験的なものからだ。
それで問題点を改善したら王家にプレゼンするのもいいし、農家で利用してもらってもいい。
農業系は既に他のアイデア出しをした後なので、まずはそっちが上手くいくかを見守りたいわね。
「学生とは……」
「なぁに、弟子1号」
「あまりにも自由過ぎませんか? 学生は学業が本分ですよ」
「また、そんな真面目なことを」
「常識です」
まぁ、普通は確かにきちんと学生生活をしているべきなのだ。
ただ、ちょっと今は色々と活動的になっていたので遠ざかっていただけ。
授業に付いていけないんじゃないか? という点は心配ない。
今世、ハイスペック悪役令嬢の知性があるので、授業に出なくても試験で平均点ぐらいは取れるわ、たぶん。
フィリップ様も頭脳派なので多少の休学は問題なし。
とはいえ、目的は学園をサボることではないので、ちゃんと登校もしないとね。
「あー……」
「何か?」
「久しぶりに登校すると、彼らに絡まれると思うわ」
「……殿下たちですか」
「そうそう。私の予想では、アレクシス殿下、ルドルフ様、ロッツォさん、ヘレンさんの四人の内の誰かか、或いは四人全員で私やフィリップ様のところへ突撃してくると思う。パターンとしては、暴言を吐いてきた上で、アレクシス殿下かルドルフ様が私の腕を掴み上げてギリィッとしてくるわね」
「暴力じゃないですか。流石に殿下たちでもそんな真似しないのでは……」
えー? でも、やってきそうじゃない? 特にルドルフ様とか。
「というか、今の状況だとフィリップ様も同じ危険があるわよ。校舎の裏に呼び出されて説得という名の一方的な暴言を吐かれた上に、何故か正義の味方面をして殴られるの。彼らの思い通りにならない行動も、悪役令嬢な私の側に付くのも、酷い裏切りだと考えるから」
「…………」
フィリップ様の呼び出しをするところまでは笑い話で済むけど、殴る蹴るとか、そこまでいくと笑えないのよねぇ。
でも、殿下の態度から、かなりキている様子みたいだし。攻略対象が陥る末期症状ね。
ちょっとシリアスな空気は、私が作りたい学園の空気と合わないのよね。
どうやって、その展開を避けたものか。
「やり過ごすのは問題ないけど、単に私たちと彼らが対立している! ってなるのはちょっとねぇ。それも暴力込みでとなると、皆さんの情熱が冷めてしまうかも」
「あくまで、あの噂を広める方針なのですね……」
「そりゃあ、せっかくここまできたのだし」
彼らは、どうしても自分たちの噂に気付かないらしい。
まぁ、お互いに見えているもの違うでしょうけど。
「影が監視すると伝えているはずですが」
「そうね。でも……」
「何か懸念が?」
「監視されていると分かっていても、いいえ、分かっていないか、受け入れていないかも? 殿下が陛下に抗議したのだから、当然のように監視はされなくなったはずだ、と。そう思い込み、監視されている前提では考えないとか」
「……いや、まさか」
「今までも、ずっとそんな感じじゃない? 常識がなくなっているような。だから、フィリップ様も彼らへの説得を断念しているのでしょう?」
「…………」
「ありえそうよねぇ。殿下の願いは必ず叶うはず症候群。それでいてヘレンさんの望むことも、必ず叶い、それを邪魔する奴は悪者だ症候群。マリアンヌは全てにおいて悪であるはずだ症候群」
未だ攻略された状態から抜け出せない彼ら。
陛下たちが見限っているのなら、現時点でも彼らを処理は出来る。
問題は、それをしたところで彼らが改心するとは思えないところ。
結局、断罪パーティーで彼らがやらかしたところを潰されるのが、一番効果がありそうな気がする。
出来れば『真実の愛を〜』の台詞も彼らからいただきたいわね。
そこで、それを聞いた陛下がそう望むならば叶えてやろう……と。そうね。
「『薔薇』の他にも『真実の愛』を隠語として広めておこうかしら?」
「はい?」
彼らが自らその言葉を口にした時、周りが『そういう意味』と認識するようにしておくのだ。
アレクシス殿下『私は真実の愛を貫くつもりだ!』
→殿下の中では『ヘレンとの愛を選ぶ! きゃっ、俺様の宣言、チョー格好いい! ヘレンもメロメロ!』な台詞。
→皆の認識『きゃー! 真実の愛ですって! やっぱり殿下は、男色の道を貫かれるのね!! マーベラス! ベーコンレタス!』
こうなる感じで。
真実の愛という言葉を彼らが思い付くか、耳にして気に入るか。
これは中々面白そうだわ。
ぜひとも断罪パーティーでアレクシス殿下自ら口にしてほしい。
「アレクシス殿下たちの『オチ』を決めたわ」
「今の話の流れで?」
「ええ、そうよ」
「オチとは?」
「結末、末路、終幕的な意味?」
「絶対に途中から話が変わっていますよね、お嬢様」
「そういう可能性もあるわね、弟子1号」
「はぁ……。今は殿下たちの暴力的な対策を取る時でしょう」
「そうね、真面目に考えましょう。それはそれとして彼らの末路はだいたい決めたけど」
「……アレクシス殿下たちもお可哀想に……」
あらまぁ、どういう意味で言っているのかしら、この弟子1号は。
それにしても従者キャラが板に付いているわねぇ。
「普通に王家の影に表立って同行してもらう?」
「その日の内に声を掛けてくるでしょうか。彼らに注目が向かうのは良くはないかと」
「久しぶりの登校だし、今か今かと殿下たちは待っている気がするのよねぇ。だから、すぐに呼び出すか突撃かはしてくると思う」
「必ず?」
「そのぐらいの気持ちで」
「……でしたら、こちらが逆に『待ち伏せ』するのは如何でしょうか」
「あら」
それは斬新な発想ね。
悪役令嬢あるある、攻略対象たちに突撃されて絡まれて、嫌味を言われたり、暴言を吐かれたりするパターンの裏をかいているわ。
悪役令嬢が逆にそのタイミングで、彼らを待ち伏せするのは知らないわね。
いえ、本来の悪役令嬢なら、むしろ彼らを出待ちして突撃するのでは?? 高貴なストーカーこそ、悪役令嬢本来の役割なのだ。
つまり、待ち伏せ作戦は、逆の逆?
「面白いから採用ね」
「判断基準……」
「なぁに、弟子1号」
「何でもありません、お嬢様」
というワケで私たちは、久しぶりに登校する際は、早めに登校してアレクシス殿下たちを待ち伏せする作戦に出ることにした。
「せっかくだから主要人物は全員巻き込んでおきましょう」
「何がせっかくなのか……」
宰相閣下を通して陛下たちに懸念点と対策案を提出しないとねー。
というワケで私とフィリップ様、久しぶりの登校日。
私、シルフィーネ様、フィリップ様、シルヴァン様、セドリック皇子、エドワード卿に加えて、王家の影ではなく王宮騎士に同行してもらう。
改めて、陛下から私たちへ監視と護衛が付いていることを告知するため、という名目ね。
シルヴァン様の同行はそれが目的。
とうとう二陣営に分かれてしまった主要キャラクターたちが全員、勢揃いだ。
ん? でも、まだ誰か足りないような……。
「あ」
「どうしました、お嬢様」
「一人、忘れていたわぁ、と思って。でも今はいいかな」
「そうですか」
原作には、まだ主要な登場人物が居た。
ヘレンさんの攻略の大部分を放置していて、不干渉を貫いていたから失念していたわ。
そして、ヘレンさんも同じように存在を忘れているキャラクターが居る。
彼女が関わっていないからこそ私も忘れていたのだ。
本来ならば、攻略対象ではなくも、それなりに出番のあるはずのキャラクター。
それは即ち……『ヒロインの友人』である。
ヒロインの攻略サポートをしてくれる女性キャラだ。
はたして現実の彼女は、どの立場かしらね?




