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39 オーナー

 さて。

 私は今、いくつかの事業提案をし、今世悪役令嬢の優秀な頭脳と学んだ知識を活かして事業企画書なるものを作成し、お父様に提案している。

 事業として成立するかは流石に遊びではないので厳しい審査をしてもらいつつも、最大限に娘としての可愛さ特権で便宜を図ってもらっている。

 農業系の提案は時間が掛かるため、経過観察中よ。

 私自身は門外漢なので研究班にお任せだ。

 で、今はそんな事業の一つである『カフェ』の営業を見にきていた。

 もう開店している。仕事が速いわぁ。


「カフェとは、どこからくる発想なのでしょうか、お嬢様」

「思い付きねー」

「また思い付き……」


 工場製品の知識しかないものの、原理はそう難しくないものであれば、専門家に工夫してもらえれば作れるのでは? と考えて手動ミキサーを作ってもらっている。試作品ね。

 最も注意すべき衛生面は、きちんとさせているわ。


 文化圏が日本と違うだけでなく、絶妙に不便さが残るご時世。

 なので、何をやるにしてもまだ斬新と感じられる部分もある。

 今世主体の記憶と人格もあるので、殊更に『不便よ、不便だわー!』とは思わない。

 むしろ、不便な部分は商売チャンスと見るべし。


 というワケで、スムージーをメイン商品に据えたカフェを王都の適した土地に開業。

 あとは広告も打たせてもらった。初日から、きちんとお客様が入るようにね。

 ふふふ、商品の価値というより『立地の力』で売ってやるという殿様商売よ。

 こんな場所にあるんならそりゃあ利用するわ! という場所をゲット。

 でも、人通りが多過ぎる場所からは、そこそこに離しておくのも忘れない。『いい感じの場所』だ。

 素人が思い付きで始めるにしては、圧倒的な資本力で殴っていくスタイル。

 名家なだけではなく、きちんと裕福な家門なのよ、オードファランは。


 一応、飲食店経営者を雇用し、対談の形で私の要望を伝え、どうすれば手堅く商売として成立し、持続させていけるか?

 予想される客の動きとその対策は? などなど、詰めてはいる。

 警備面と周辺の治安の調査などもきちんとして。至れり尽くせりねぇ。


「という私が『オーナー』なカフェが、あそこなのだけど」

「カフェ『マリーゴールド』ですか、安直な名前ですね」

「別にいいのよ、そこは」


 私が店のオーナーであることは秘匿事項だ。

『悪役令嬢が経営!?』と聞くと邪魔しにきそうな人たちが居るからね。

 でも、ちょっと私を匂わせようかな? と思い、マリアンヌ……マリーなんちゃら……マリーゴールド! と思い付いて店名を決めた。

 そんなカフェ『マリーゴールド』だけど。


「順調に客入りがある様子ですね」

「ええ、そうみたい。ひとまず良かったわ。入ってみましょう。あちらに並んでいるわねぇ」

「わざわざ並んで入るのですか?」

「もちろん」


 ちなみに今日の私は市井に出歩く深窓のお嬢様スタイルだ。

 具体的に言うとローブを身に纏い、フードを被っている。

 悪役令嬢がこれやると魔女っぽいわぁ。

 フィリップ様だけでなく、護衛騎士と侍女も同行、四人組ね。

 市井の民に混じって待機列に並ぶなんて当然、何とも思わないのが転生悪役令嬢だ。

 フィリップ様もそんな私に驚きつつ、素直に従ってくれている。


「……思うのですが」

「なぁに?」

「今のお嬢様の姿を見せていれば、殿下は貴女に惹かれていたのではないかと」


 どうしてそうなる。

 いや、待って。それはアレかしら。


「天真爛漫で、嬉々とした態度で平民らしく、微笑ましく振る舞う女性に惹かれちゃうってやつね?」

「……はい」


 まぁ、確かに中身が庶民派となった今の私にも、その素養はあるのだろう。でも。


「流石にもう手遅れじゃない?」

「…………」


 何故か庶民派に恋焦がれてしまう王子様あるある。

 古くはシンデレラとかの系譜かもしれない。

 それをやるなら、もっと前からアピールしてないと効果がないわ。

 今の殿下はかなり拗らせている様子らしいから、私が何をしても憎く思いそう。


 順番が来て店内に入る。

 それなりの広さ、清潔感、爽やかなカフェの雰囲気。

 王都に合っているだろう。

 お客様たちの笑顔と弾んだ声も聞こえる。


 スムージーは、美味しいと評価されているみたい。

 うんうん、出足好調だわ。

 これが持続するかはこの先次第ではあるけど。

 世の中のカフェ経営者たちは沢山の苦労をしているんだなぁ、と多少は関わってみて痛感した。

 今世だから上手くいきそうだけど、前世で同じことをやろうとしたって上手くいかなかったに違いない。


 ここからはアレか。

 定番の商品の構築だけでなく、季節のメニューなども新商品開発のループが待っているのね。

 まず三ヶ月は経営を保たせたいわ。

 ゆくゆくは一年、そして二年、三年と続いていくといいな。


「あとは経過観察ねぇ。どれだけ対策したって問題は起きるものでしょうし」

「他にも何か斬新な飲み物を考えていらっしゃいましたよね?」

「うん、今はスポーツドリンクの開発中」

「すぽーつドリンク」


 フワッとした前世知識を元に、今世の専門家に相談して開発してもらっているところ。

 現状、スポーツドリンクらしき飲み物はこの国にはなさそうなので勝算はある。上手く開発出来ればねぇ。

 他にも何か良いドリンク案ってあったかしら?

 私にとっては常識、身近なものだけど、この世界にとっては斬新なものがいいわ。


「美味しい? 弟子1号」

「……はい、美味しいです」

「ふふ」


 真面目な顔してスムージーを飲む無造作ヘアになった眼鏡ヒーロー。可愛らしいこと。見る人にとっては眼福だろう。


 美味しいドリンクは開発に成功したんだもの。

 ここから同業者に真似されたって、それはそれ。

 むしろ、手動ミキサーの道具を販売してもいいかもしれない。まだご家庭用には早いわね。

 王国経済が活発になるならいいことだわ。

 個人的なお金稼ぎがしたいワケではないもの。

 もちろん、商売が上手くいくのにこしたことはないけれど。


「今回の件は、カフェだけでなく広告関連の業者にも伝手が出来たのは大きいわね」

「何か別の事業を考えているのですか?」

「ふふふ、冬よ」

「はい?」

「冬イベントが待っているわ」

「冬イベント」


 流石に前世と同等規模の催しは難しいし、創作者の数も足りまい。

 なので種を蒔くような、今後のイベントの先駆けになるようなイベントを準備中。

 幸い、演劇や小説での文化は認知されているので、それ関連の催しだと言い、それ用の絵画の展示やグッズがあればいいかな? と思っている。


 アクリルキーは流石に無理だから……今世にフォーカスしたキャラグッズ。

 あとは推しの一枚絵が描かれた絵画、もといポスターの展示など。

 さらに可能であれば、彼女たちに『自ら創作する』という発想を植え付けるのよ。


 アングラな『刺さる人には刺さる』、そんなイベントを冬に開催出来るように準備中だ。

 やがて、この文化が根付き、夏と冬で最大の盛り上がりを見せるようになっていくかもしれない。

 失敗しても特に私の心は痛まないからね!


 これから徐々に、この特別な『催し』が冬に開かれるのだと広めていく。

 密やかに、彼らに気付かれないように。



 やがて、その第一弾の『広告』が出来上がった。

 本格開催はまだだけれど、先んじて『お披露目』をすることにし、『そっち系』令嬢たちを集めたお茶会を開き、ある絵画を見てもらう。


「こ、これは……!?」

「まさか!?」

「そんなことって!?」


 そこには適度に人体をデフォルメ化というか、漫画チックというか、まぁ前世現代日本風な絵柄に描き起こされた……アレクシス殿下とルドルフ様、ロッツォさんの三人をモデルにしたイケメンが、胸元をはだけさせた姿で、蠱惑的な潤んだ視線をこっちに向けてくる絵が描かれていた。

 露骨に卑猥なのではなく、胸元をはだけている程度の絵だが、刺激は強め。

 前世の一般庶民より貞操観念が強い貴族令嬢たち相手なので余計にそうだろうと思う。


「こういった絵を展示し、関連した商品を販売するバザーのようなイベントを考えておりますの。可能であれば数を揃えますが、まったく同じモノを量産するのはまだ難しく……。今後に続く文化の発展を見据えた、小規模な催しですわ。展示だけを見ていただくもよし。参加料金として少しだけ支払いをしていただく、という形を取り、ゆくゆくは市井に広がることを見据えております。皆様も『参加』していただけますと幸いです」

「「「絶対に参加します!!!」」」


 凄い食い付きだった。

 とりあえず絵柄はこの路線で良かったらしい。

 異世界にまた新たな文化が生まれてしまったわ。


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― 新着の感想 ―
最初は公民館のホールのようなところから始まったのだし、オンリー全盛期は都内のあらゆる場所に行ったのでそういうところで行われる催しには懐かしさでいっぱいです…。ハンクラアイテムで自主製作はすでにやってる…
暇な時間使って汚染を広げていくの草ァ!
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