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17 作戦会議とイベント

 ドレスについてのその後。

 あれから案の定というか、私用に仕立てられたドレスは発見された。


「やっぱりヘレンさんのドレスは複製だったのね」

「そのようだ」


 パーティーの日を思い出しつつ、今目の前にあるドレスを見る。


「微妙にデザインが違うわね、こうして見ると」

「そうか?」


 お父様はヘレンさんのドレスを覚えていないのか、それとも興味がなかったのか、首を傾げる。


「ええ」


 色の組み合わせ、布の重ね方などパッと見は確かに同じだ。

 でも私の記憶通りなら細部が異なっている。


「これで言い訳も通るワケね。似ているだけだって」

「……調べさせているが、ドレスを盗んだ者はまだはっきりとしていない」

「そう」


 やっていることは随分と最低だし、バカにしているとは思う。でも、問題はその点だ。

 アレクシス殿下が動かした勢力は優秀なのだ。


「それでなんであの噂は放置されているのかしら?」


 そこが私も分からない。


「マリアンヌが広めたのだろうに」


 お父様が呆れたように言う。そうだけどね。


「耳に入っていないのか、聞いていてもバカなことをと軽んじて何もしないのか。何か言い訳すると余計に悪化するから何もしないのか。はたまた噂を逆に利用しているつもりか」


 まぁ、実際? 気付いていて黙っているならば噂を利用しているのだろう。

 なにせ、その噂を放置していれば愛しのヘレンさんと一緒に居ても誰も文句を言わないのだから。

 立場は違うけど私と同じような考え方だ。

 どう言われていようと最終的に『他の男』を排除さえすれば、そんな噂は否定出来るものね。


 ルドルフ様はたぶん分かっていないだろう。

 フィリップ様も多分、あの様子では分かっていない。

 でも、アレクシス殿下は……どうかしら?


 噂によって私は、私の立場を守っている。

 少なくとも私を見下す目や言動は学生たちから受けていない。

 でも、それだけだ。彼らへの攻撃にはなっていない。たぶん。


「噂を知っていて、利用するつもりで放置しているなら……」

「マリアンヌが不干渉である以上は『このまま』で一向に構わないと?」

「そういうこともありますよね」


 互いの思惑と立場から現状維持こそが理想だと。

 天秤はどちらにも傾いていない。

 でも、このドレスの一件はラインを越えている。明確な私への攻撃だろう。


「ドレスとパーティーの一件は、あちらも『そろそろ一石を投じておくか』と思ったのかしら」

「小娘の方がなんぞ言い募ったのやもしれん」

「それはありそうなんですよねぇ」


 今回の件、どう転んでいたとしてもこれだけで私たちの婚約が解消になるには至らない。

 たとえ、私たちに正義があると認められたところで、まずは殿下に反省を促されるだけだ。


「いつでも王家に抗議をするぞ、マリアンヌ」

「お父様のご判断ならば否やは言い辛いですが……しかし、それをしますとせっかくの平穏が崩されるのですよねぇ」

「マリアンヌ、お前な……」


 そう、問題はだ。

 婚約者としての立場を軽んじるな、といった類の抗議は、私のこれまでのスタンスとあの噂の否定に繋がりかねないこと。


 私はニコニコと彼らの『叶わない恋』を見守ってきたのだ。

 殿下がどう決断するのかを静かに待っていた。

 そこには別に王子妃という立場への執着など見せなかったワケで。

 野心と取られかねないそれをチラつかせてしまい、それが上手くいっていないとなると困る。


『アレクシス殿下に相手されなくて惨めな女』に陥ってしまうのはよろしくない。

 それをすると天秤が一気にあちらに傾くだろう。

『やっぱりヘレンさんこそ愛されているのでは?』と。


 今の平穏を守るためにはアレクシス殿下に干渉せず、やんわりと『次の相手を探している』とか。

 或いは、恋愛沙汰には興味もありませんし、今のままの貴方でもよろしくてよ? 私は政に関われればそれで満足ですもの、というスタンスを貫くかである。


「確たる証拠に至らず、かといって苛烈な抗議には値しない。難しいですわねぇ。面倒くさいから何もしたくもなく、でも泣き寝入りというのも癪に障るという」


 まだ私の気持ちは怒りに偏っていないと思う。


「まぁ、それはマリアンヌだからで、私からパーティーで娘を迎えに来ない、最初からエスコートをする気がない、ということを抗議出来るがな」


 お父様が私の考えを配慮せず、抗議することは可能ね。それはお父様の権利だ。

 そもそも陛下とアレクシス殿下も考えが違うでしょうし、陛下は怒るかもしれない。

 突く部分はあるものの、現状維持のためには大きく動けないもどかしさがある。


「「はぁ……」」


 私たちは深く溜息を吐く。


「実際、アレクシス殿下はどうしたいのであろうな」

「……今回の件に悪意があり、主導者が殿下ならば……まぁ、私を陥れて殿下は立場そのままにヘレンさんを伴侶にしたいのでしょうか?」


 ヒーローとヒロインだし?

 王子ルートで『俺、王子やめっから! だから結婚してくれ、ヒロインちゃん!』するのは珍しかろう。


 せっかく身分ある立場なのにそれを投げ捨ててくんじゃねーよ、ヒロインの立場を上げろ、と読者に言われそうだ。

 王子を降りてもハイスペックで不安を抱かせないエピソードがあり、駆け落ちでも未来が明るそうなら話は別だけど。


「上手くいくとは思えん。いや、上手くいかせてなるものか。オードファランを愚弄している」

「うーん……。そうして王子という立場を追いやられることそのものを目指している可能性も?」

「それは……どうだろうな」


 責任ある立場なんてやってられないから、わざと自ら破滅へ向かっている可能性だ。

 その場合でも学園に居る間は自由に過ごしたいだろう。故にああだと。

 それもあるあるパターンよね。


『国のことはマリアンヌに任せるよ』と、どこか憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔で王宮を去っていくアレクシス殿下エンド。


 私『私は貴方とは違います、この国を守っていくことこそ私の幸せですわ!』


 ……とかね。あるある。

 まぁ、もしそれが殿下の目的だったら、まず私に相談しろと言いたいが。

 あと、それは第二王子が私に惚れてるパターンじゃないと許されないだろう。


「結局、あちらの目的がよく分からんな」

「そうですねぇ。ただ、今回はフィリップ様を焚き付けてみましたので。それであちらの陣営にどのような動きがあるか」

「そうか」

「ところで王家は何も動きませんの? 流石に把握していますわよね」

「だろうな。しかし、静観している」

「何故でしょう?」

「……マリアンヌや私が抗議してないからだろ」

「あ、はい」


 逆に王家側、陛下たちも『マリアンヌもオードファランも何も言ってこないけど……何を考えてるの?』と私たちの動きを待っていると。


「だいたいマリアンヌのせいではないか?」


 そんなバカな。

 王家が静観を貫いている原因が私ですって?

 薔薇の噂を蒔いただけなのに。

 マリアンヌ・オードファランは静かに暮らしたい。


「で、マリアンヌはどうしたいのだ? 婚約を解消したいか? そもそもアレクシス殿下に執心はなさそうだ」

「まぁ、それは、はい」


 このやり方。

 大前提として『私がそこまで殿下との関係に執着していない』から成立している。

 だって、殿下のことが大好きな『私』だったら無理なやり方だろう。

 ヘレンさんにだって嫉妬したはず。


 そういったものがなく、ただ被害を避けられたらいいな、何やら上手く解決すればいいなぁ、という考えの上での手段なのだ。


「婚約は解消しても構いません。家としてはどうかと思うのですが」

「まぁ……オードファランはどうにでもなるがな」


 ですよね。

 私が表舞台から去っても後継はお兄様が居る。

 家門としては余程の問題が起きない限り、殿下と私が破談したところで『残念だったなぁ』と思うばかりのはずだ。


「今回の件のようなことを仕出かして、私を陥れようとする人たちを返り討ちにし、諦めさせるのが私の目的ですかね……? あとはまぁ家の支援さえあって自由に生きられれば……?」


 パーティーの件以外は特に何かされたワケではない。

 いや、最近は気にしていなかったけど、本来ならば『婚約者に相手にされない哀れな公爵令嬢』扱いだったので、何もされていないのとは違うか。

 現状、そのダメージが全くないだけである。


「そうか。ラビスの小倅に投じた一石がどうなるか次第だが……まずは降り掛かる火の粉を払うだけか?」

「ええ、基本は」

「では、他に何か奴らが仕出かす危険はありそうか? 警護や調査、欲しいものがあれば頼れよ、マリアンヌ」

「はい、ありがとうございます、お父様」


 ならば、そろそろゲーム知識を活かすとしましょうか。

 パーティーとドレスの件はゲームにはないエピソードだった。

 でも、ゲームにあるエピソード、即ち『イベント』もある。


「では、お父様。今度の『狩猟祭』についてですが──」


 そこで罠でも張ってみようと思う。

 ドレスの意趣返しに、ね。


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― 新着の感想 ―
>薔薇の噂を蒔いただけなのに。 薔薇の噂を飛ばしただけで何やら思わぬ方向へ行く。これがバタフライエフェクトならぬバラフライエフェクトか…
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