16 フィリップ・ラビス
「何か御用ですか、フィリップ様」
「ええ」
フィリップ・ラビス侯爵令息。
彼はルドルフ様と対になるアレクシス殿下の側近キャラだ。
頭脳派、真面目、堅物。将来は宰相候補。
悪く言うならば、頭でっかち。
青色の髪で癖のないストレートの長髪。そして眼鏡を掛けている。
サラサラの長髪でも、それが似合っている系男子。当然、美男子である。
アレクシス殿下とは幼い頃からの友人だ。
タイプの違うルドルフ様とは仲があまりよろしくない。
またシルヴァン様と同じで、まだ婚約者が居ない。現実でもだ。
将来安泰だろうに何故? とも思う。現実的に考えればどう考えても優良物件だから。
まぁ、だからこそ彼はまだ相手を選ぶ余地があった。
なので保留していたのかもしれない。
女性側の優良物件もどんどんなくなっていくものだけど……。
それもゲーム補正で最終的にヒロインと結ばれるための布石?
だったらやっぱりアレクシス殿下やルドルフ様も同じでいいだろうに。
この辺は現実だと派閥問題とかもあるから、フィリップ様は調整役でもあるのかもしれない。
「昨日、パーティーに参加されたそうですね、マリアンヌ様」
「ええ、はい」
「そこでアレクシス殿下とのファーストダンスを断ったとか」
断ったというか押し付けたというか。
「貴方には、第一王子殿下の婚約者という自覚が足りないのではありませんか」
眼鏡、クイ。
「昨日はフィリップ様は、あの会場に来られていたのですか?」
「いいえ、昨日は参加しておりませんでした」
まぁ、昨日のパーティーは、パートナーが居る人前提みたいなところがあったものね。
それこそフィリップ様がヘレンさんをエスコートしていれば何の問題もなかったのだけど。
ロッツォさんは招待されていたか怪しいかしら。
「それでフィリップ様の耳に入ったのは、私がアレクシス殿下とのファーストダンスを断ったことだけだと」
「……ええ、そうですが?」
眼鏡、クイー。
「なるほど」
さて。どうしたものだろう。
自覚があるかないかというか、殿下との婚約に乗り気かどうかという点で、私はこういうことを言われても仕方ない面はある。
特に学園に入ってからこっち、没交渉だもの。
それがようやく一緒のパーティーに出掛けたところ、ファーストダンスすら踊らないとはどういう了見だ、と。
いつものように煙に巻いて逃げてもいい。でも、ここは。
「残念です、フィリップ様」
「……はい?」
眼鏡、クイッ。
「その叱責をするには、情報収集が不十分でしょう」
「……どういう意味ですか」
「私に心構えを説きたいならば、きっちり何が起きたかまで把握してからいらして。その時は、きちんと私も貴方の言葉に耳を傾けますわ。それが叱責であっても素直に聞き入れましょう。でも、半端な情報で軽率に動くならば、貴方の言葉を聞いても仕方ありません」
「何ですって?」
「ですから残念と言ったのです。せっかく正当に私を糾弾する点がありますのに。きちんと何が起きたか把握し、殿下たちの言い分も聞いてきた上で、私の言い分も聞くまでしていれば良かったのに。フィリップ様は意外とルドルフ様と同じように短絡的で、調査さえおざなりにする人なのかしら? あーあ、ルドルフ様と同じなんて」
「……彼と一緒にするのはやめていただきたい」
眼鏡、クイクイ。
「ふふ、一緒にされたくないなら、きちんと調査を。あのメンバーで貴方がその労力を惜しんでいたら他の誰も動きませんよ?」
「……それは本来、貴方の役割では……」
「そうかしら? そうかもね。まだ将来は決まっていないし、重要な役職を決めるのは陛下や、将来の王となる人。でも、あえて言うなら宰相も王妃も、王へ意見をするだけの根拠は出せるようにしておきたいものよね」
「……何かあったのですか?」
「何かというか。そもそも貴方たち、いつまでそうなの? 私、正直に言って驚いているんですけど」
「何を……」
「これ以上は語らないわ。すべて貴方たち次第。私はずっと待っているのですから。だけど、今回はちょっと思うところが出来たの。だから、何かは起きるかもしれないわね」
私はフィリップ様に微笑んであげた。
明確な答えは口にしない。自分で調べて、知って、考えなきゃね。
はたして逆ハーレムルートで一度でもヒロインに捕まった攻略対象は、蜘蛛の網から逃れられないのか。
シルヴァン様のように最初から捕まっていなければ、まともでいられるのか。
婚約者が居ない分、まだフィリップ様には救いがあるわよね。
少なくとも誰かを蔑ろにしたワケじゃあないもの。
「ふふふ、頑張ってね、フィリップ様」
私は、ただ笑って彼とはお別れした。
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