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覚悟のあるベーシストは常に万全である。

 俺たちは、ひたすら練習にのめり込んでいった。

気がつけば、音楽フェスまで──あと5日。


演奏技術が本当に上がっているのか、自分ではよく分からなかった。

だけど少なくとも、前よりは確実に――安定して、フレーズやギターソロが弾けるようになってきた気がする。


それは、俺だけじゃない。みんなもだ。


葉山は、最初こそバッキングギター中心で、

ギターソロの一部フレーズは飛ばしながら演奏していた。

だが今では、そのパートも妥協せず、完全コピーで弾き切るまでに成長していた。

しかも、ただ弾けるだけじゃない――ソロの入りから終わりまで、安定感がある。


正直言って、今一番急成長しているのは、葉山だった。


戸塚も、ついに歌詞を飛ばさず、ほぼ完璧に歌いきれるようになっていた。

彼なりの“自分の声”をようやく掴みはじめてきている。


材木座は……まだベースラインに不安定さは残る。


でも藤沢のマンツーマン指導で、少しずつではあるが着実に前進している。


全員がそれぞれの課題に向き合って、乗り越えようとしていた。

その姿は、まるで少しずつ形になっていく“バンド”そのものだった。


一方その頃、奉仕部ではTwitterやInstagramなどのSNSを活用して、音楽フェスの参加者を他校へ向けて募集していた。

その結果――なんと、約10校ものバンドから参加希望の声が寄せられた。練習期間が2週間切った状態で、よく集まった方である。


また、今日もいつものようにスタジオに集まる。


藤沢「おい、材木座! そろそろ自分のベース買ってもいいんじゃねぇのか?」


材木座「ふむ。我には金がないのでござる!」


……こいつ、いつも金欠だな。


材木座は今のところ、藤沢の父親が昔使っていたベースを借りている。でも正直、チューニングは狂いやすいし、音もイマイチだ。


比企谷「材木座、だったらさ。一番安くてもいいから、新品買おうぜ。せめてまともなやつにしろよ。」


材木座「ふむ……では、おすすめの安いベースとやらを教えてくれぬか!」


葉山「BacchusバッカスとかPLAYTECHプレイテックあたりなら、1万円台で買えるし初心者には結構おすすめだよ。」


戸塚「葉山くん、ギターだけじゃなくてベースにも詳しいんだね。」


葉山「そうか? 最近ちょっとベースにも興味湧いてきてさ……」


藤沢「え、お前ベースも気になってんのか?」


葉山「いや、まだギターの方が楽しいよ? でもベースってさ、目立たないけど音楽の土台を支える、すごく大事なパートなんだ。だから、材木座にもその役割をちゃんと担ってもらいたいんだ。」


材木座「うむ、我に任せるのだ! いざ、剣豪将軍のごとく――!」


藤沢「お前さ、絶対歴史上の誰か意識してキャラ作ってるだろ?」


比企谷・葉山「いや、今更!?」


藤沢「え、なに? お前ら最初から気づいてたの?」


比企谷「気づくもなにも、あのセリフ回し聞いてりゃわかるだろ。てか、こいつの名前も義輝だから、“足利義輝”が元ネタだぞ。」


藤沢「え、誰それ?」


比企谷「お前、ひょっとして歴史まともに習ってないのか?」


葉山「いや、藤沢って中学の時、社会の授業だけガチで寝てたんだよ。テストの点数も社会だけ2点とかだったけど、他の教科はなぜか全部9割近く取ってるんだよな。」


比企谷「極端すぎるだろ!」


戸塚「でも八幡も、確かこの前のテスト数学2点だったような……」


比企谷「おい、それは言わなくていいだろ!?」


葉山「え、比企谷お前、数学苦手だったのか?」


比企谷「いやいやいや、苦手ってわけじゃなくてだな……」


葉山・藤沢・戸塚・材木座「(爆笑)」


藤沢「それよりさ、材木座! ベースどうすんだよ?」


材木座「うむ、では誰か、楽器屋まで我を導いてくれ!」


比企谷「はいはい。不安だから誰かについてきてほしいってことな。」


藤沢「すげー、通じ合ってんじゃん! あれだな、“以心伝心”ってやつ?」


葉山「なんでいちいち四字熟語使いたがるんだよ!」


藤沢「いや最近さ、日常の出来事から四字熟語考えるのにハマってんだよな!」


葉山「なんだそれ、変な趣味……」


藤沢「変な趣味とはなんだ! これは“知識欲”ってやつだよ!」


葉山「はいはい、わかったからもう!」


(葉山:こいつたまに変なことにハマるんだよな……でもハマるのが勉強系だから、なんやかんやでテストの点はちゃんと取れてるんだよな。)


雑談をしながら軽くバンド練習を終えた俺たちは、スタジオの終了時間が近づいたため、機材を片付けてスタジオを後にしようとしていた。


──ドンッ!


ギターケースが何かにぶつかったような鈍い音が響いた。


???「おっと、すまない!」


比企谷「あっ、すみません……」


振り返ると、ガタイがよく、身長は170センチ後半はありそうな外国人が立っていた。少し髭を蓄えていて、声も低め。どう見ても30代のイケおじにしか見えない。


???「あれ? 君、総武高校の生徒か?」


比企谷「はい、そうですけど……」(日本語、普通にうまいな)


???「そうか! 君たちも、あの海浜で開かれる音楽フェスの準備中ってわけか?」


比企谷「ああ、まぁ……そんな感じです」


???「おお、ってことは俺たちのライバルってわけだな!」


(おいおい、マジかよ……こいつ、高校生なのか?)


???「ああ、自己紹介が遅れたな。俺はノア(Noah)・武蔵! パートはベースだ。よろしく!」


比企谷「比企谷です。ギター担当です……」(なんか、めっちゃ名前強そうだな)


ノア「一緒に演奏できるの、楽しみにしてるぜ!」


比企谷「あ、はい。よろしくお願いします……!」


(ノア……か。とんでもない奴に出会っちまったな……。こいつらと、フェスで戦うのか……)


その後、ノアは一足先にスタジオを後にした。俺も機材をまとめて、スタジオの外へ出る。


藤沢「おう、ちょっと遅かったな。何かあったのか?」


比企谷「……お前ら、ノア・武蔵ってやつ、知ってるか?」


葉山「ノア・武蔵? いや、聞いたことないな」


藤沢「おいおい、マジか! お前、ノアに会ったのか!?」


比企谷「ああ、さっきスタジオで偶然な……。知ってるのか?」


藤沢「知ってるどころか、めちゃくちゃ有名人だぞ!

あいつ、**『蒼刃 -Soujin-』**ってバンドで武道館ライブした実績のある、伝説級のベーシストなんだぜ!」


比企谷(……マジかよ!どうりで貫禄がエグかったわけだ)


葉山「マジか……比企谷、とんでもないやつに遭遇したな」


藤沢「くっそ〜! なんで教えてくれなかったんだよ! サイン欲しかったわ!」


比企谷「いや、てかそれより……あいつ、『海浜のフェスに出る』って言ってたんだけど」


藤沢・葉山「えっ!?」


藤沢「ちょ、待て待て……冗談だろ……!?」


戸塚「ってことは、僕たち……その伝説級のバンドと戦わなきゃいけないの!?」


藤沢「おいおい、マジかよ……こりゃ優勝、ますます遠のいたな……」


思いがけない強敵の出現に、俺たちは固まっていた。


いきなり伝説級のバンドが相手かよ……。


フェスの優勝なんて、夢のまた夢……いや、正直、めちゃくちゃ自信ない!

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