葉山と藤沢の過去編(番外編)
この話は、葉山隼人と藤沢克樹がどのようにして知り合って、どのようにして意気投合したかを描いた作品である。本編とも関連してるためぜひ呼んでほしい!
俺の中学時代。
俺は、いつも通り“クラスで一番モテる男”だった。
だけど、バレンタインの日は地獄だ。女子が集まりすぎて、一人でもチョコを受け取れば、そこから嫉妬と争いが始まってしまう。
俺は雪ノ下にしたような過ちは、もう二度と繰り返したくなかった。だから、チョコは一切受け取らないと決めていた。
……だけど、放課後の帰り道。俺は不良に絡まれる。
同じ中学の一つ上の先輩――藤沢克樹だった。
藤沢:「てめぇ、なに調子こいたことしてくれてんだよ! 女子が必死に作ったチョコを受け取らねぇって、どういう神経してんだよ、葉山隼人!!」
俺は最初、藤沢とそこまで面識はなかった。ただ、顔と名前くらいは知っていた。
葉山:「あなたに何がわかるっていうんですか……! 放っておいてください!」
藤沢:「そいつは無理な相談だなぁ。悪いけど、力づくでも……お前の“本性”、暴かせてもらうぜ!」
葉山:「は? これ以上付きまとったら、警察にだって訴えますよ!」
藤沢:「上等だぁ! 好きにしろやぁ!!」
そのときだった。藤沢の拳が俺の顔のすぐ横を、かすめて通り過ぎた。
――拳は一瞬にして俺の頬を通り過ぎた。こいつ、只者じゃない。
葉山:「わっ……!?」
俺は思わず、尻餅をついた。
藤沢:「……俺にはな、好きな女子がいたんだよ!ずっと片想いしててさぁ…
やっと仲良くなれて、バレンタインの日、そいつがこう言ったんだ。
“隼人くんにチョコを渡したいんだけど、勇気が出ない”って……」
藤沢:「……ムカついたよ。なんでお前なんだって。でも、好きな子の願いくらいは叶えてやりたくてさ。俺はそいつの背中を押した。
『大丈夫、ちゃんと渡してこい』って。……なのに、お前はチョコを受け取ろうともしなかった。
なあ、なんでだよ……!」
葉山:「……すみません。その子には、本当に申し訳ないことをしたと思っています。
でも……俺にも、理由があるんです」
葉山:「俺、小学生のときから女子にモテてました。
ある年のバレンタイン、ある女の子からチョコをもらったんです。
そしたら、他の女子たちから酷いいじめを受けるようになって……。
俺、そんなこと望んでなかった。誰かを傷つけるくらいなら、最初から“全員断る”って決めたんです」
藤沢:「……随分とムカつく言い分だな。
でも……筋は通ってる。納得は、する」
藤沢:「だったらさ、せめて人目のつかないところでチョコ受け取ってやれよ。
俺が女子が来ないよう見張っといてやるから。あいつにも、お前の事情はちゃんと伝える」
葉山:「え……」
藤沢:「あとは人気のない場所探してチョコを受け取れ。すぐ隠せば誰にもバレねぇよ」
葉山:「……はい、お願いします!」
この時、俺は初めて“人の温かさ”ってものに触れた気がした。
こんなふうに、自分に向き合ってくれる人がいるなんて思わなかった。
そして――俺は、藤沢の好きだった女の子を傷つけることなく、無事にチョコを受け取ることができた。
今思えば、あれが“藤沢との出会い”だったよな。
それから、俺と藤沢は学校でも自然と話すようになっていた。
藤沢:「なあ、お前さ。好きな音楽とかあんの?」
葉山:「流行りの曲はよく聴くけど……実は、ハードロックとかの方が好みなんです」
藤沢:「マジかよ!? お前、意外と骨あるな!
今度“Gun's and Sword”ってバンドのライブあるんだけど、行こうぜ!」
葉山:「え?はい、喜んで!」
それから、俺たちは本当の意味で“意気投合”した。
年上の先輩だったけど、気づけばタメ口で話せるほどの仲になっていた。
そして、俺は高校生になった。
藤沢とは別々の高校になったけど……今でも、あいつは俺にとって大事な親友だ。
高校に入ってからも、俺は一人でガンソーのライブに通っていた。
いつしか、その影響で……こっそりギターを買ってしまっていた。
家でガンソーの曲を弾いてみるのが、最近のささやかな日課だ。
もちろん、このことはクラスの誰にも言っていない。
自分がこういうのにハマってるって、バレるのが正直嫌だった。
……いや、怖かったのかもしれない。
「葉山隼人」って偶像が崩れてしまうのが。
文化祭では、ライブ演奏の機会があった。
三浦や戸部たちとバンドを組んで、いくつかの曲を披露した。
みんなで演奏するのは、正直……楽しかった。
けど――ジャンルがポップ寄りだったのが、どこか物足りなかった。
俺が本当にやりたかったのは、あの頃藤沢と語り合った、あの“音”だった。
やっぱり、あいつといた時間は、俺にとって――特別だったんだ。
唯一、本当の自分でいられる場所だった。