輝くギタリストには秘密がある
しばらくして俺たちは、練習を続けた。練習で疲れ果てた後、俺たちはしばらく休憩することにした。そこで俺は、今まで気になっていたことを葉山に聞くことにした。
比企谷:「葉山!お前には聞いておきたいことがある。お前なんであの生徒会長の連絡先を知ってたんだ?それに、連絡してた時、お前の表情が強張ってたのを俺は見逃さなかった。最初から何か知ってたんじゃないか?」
葉山:「……やっぱり、君には隠せないか。そろそろ話すべき時かもしれないな」
葉山は重く沈んだ声で、ゆっくりと語り出した。
葉山:「実は音楽フェスの企画が立ち上がるよりも前に、海浜総合高校から一本のメールが届いていたんだ。『初めまして、突然のメール失礼する。俺の名は綱島元徳。海浜総合高校の生徒会長だ。君たちの文化祭での演奏は素晴らしかった。ぜひ、音楽フェスという形で我が校と合同演奏をしようではないか。君たちの学校には演奏ができる生徒がどれほどいるかは分からないが、我が校は軽音部や吹奏楽部の人数が限られている。可能であれば、演奏できる生徒をできるだけ君たちの方で集めてほしい。奉仕部というものがあるそうだが、もし、演奏できる人間が我が校同様、限られているのなら、そちらも協力するように要請してもらえると助かる』という内容だった。」
葉山:「このメールは、城廻先輩宛てに届いていた。彼女は俺たちの演奏が予想以上に盛り上がったことで、綱島が純粋にバンド演奏に興味を持ったと解釈したんだ。だから俺も彼女からその話を聞いていた。けど、俺にはどうしても引っかかる点があった……なぜ、奉仕部の存在まで知っていたのか? それに総武高には軽音部が存在しないことをあたかも知っているような振る舞いだった。なぜ奉仕部を名指しで巻き込もうとしたのか?そこが俺はどうしても引っかかっていた。」
葉山:「そう考えていた矢先、藤沢からのバンド参加の誘いがあった。これを利用して、綱島に関する情報を掴めるかもしれない……そう思った俺は、バンドに参加することにしたんだ」
藤沢:「マジかよ……。じゃあお前、俺に綱島のことをやたら聞いてたのも……全部そのためだったのか?」
葉山:「ああ、すまない藤沢。裏切るような形になってしまった。でも、どうしても知っておきたかったんだ。あいつの裏の顔を……」
葉山は一度深く息を吐くと、さらに重い話を続けた。
葉山:「正直、藤沢に聞いた時は成績が優秀だったってことしか聞けなかった。」
葉山:「だが調べを進めていくうちに、ついに綱島の連絡先を知っている先輩を総武高で見つけた。その先輩から聞いた話は……衝撃的だった。綱島は表面上、完璧な優等生だ。成績トップでピアノのコンクールでも最優秀賞を取るほどの才能を持ち、周囲からの信頼も厚い。だが、その裏では……自分よりも優秀な生徒を片っ端からマークし、退学に追い込んでいたんだ。たとえその生徒が優秀でなかろうとも、綱島にとって不都合な存在であればどんな手段を使ってでも蹴落とすやつだった」
葉山:「しかも……彼の父親は、俺の父さんが勤める法律事務所の上司なんだ。つまり、綱島の父親は、俺の家族よりも立場が上の人間ってことだ。直接敵対するのは、正直かなりリスキーだった」
葉山:「そして……藤沢。お前もその被害者の一人だった」
藤沢:「……っ!」
葉山:「藤沢は以前、成績も優秀で、勉強に真面目に取り組んでいた。だが綱島は、藤沢が自分を追い越す可能性に怯えた。そこで、ヤンキー校で有名な厚木高の不良たちを金で雇い、彼のクラスの“見た目の弱い”生徒に暴力を振るわせた。そして彼が助けに入るように仕向けたんだ」
葉山:「予想通り、藤沢は不良を撃退し、その生徒を守った。でもその行為を綱島は『暴力事件』として捏造し、退学処分を要求した。結果的に成績が優秀であることが加味されて、校長が抵抗して停学で済んだが、綱島はそのことに怒り狂い、裏アカウントで藤沢の暴力沙汰の内容をチェーンメールで学年中に拡散。それで藤沢を完全に孤立させた……そしてお前は学校をサボるようになった。」
藤沢は唇を噛みしめ、うつむいたまま、何も言わなかった。
比企谷:「……それと、葉山。お前たちが音楽フェスの参加を断った理由、本当に“文化祭で燃え尽きた”ってだけなのか?」
葉山:「……その通りだな。君は本当によく見ているよ。実は、綱島の意図を知らない以上、三浦や戸部をフェスに出すのはリスクが大きいと判断したんだ。あいつらは俺の大事な仲間だ。巻き込むわけにはいかなかった。だから、フェスへの参加は控えるよう説得した。『文化祭でやりきった』って空気を作ったのも、俺だ。特に綱島の裏の顔を知った後は、綱島からの依頼を、彼らには断るように仕向けた」
比企谷:「……でも、お前は俺の提案に乗った。綱島に疑念があったなら、避けることもできたはずだ」
葉山:「その時点では、綱島の裏の顔にはまだ気づいていなかった。それに、お前たちのバンドに対する情熱を無碍にするようなことを俺はできなかった。連絡先を手に入れたのも、実は昨日の話だ。だから、もう動き出していたフェスを止めるには遅すぎた……。でもな、お前の提案が出た時点で、胸の奥で何かが引っかかっていたんだ。だからこそ、こうして伝えるのが遅れたことは……本当にすまないと思ってる」
藤沢:「……葉山。お前が言おうが言うまいが、綱島の本性を暴こうと必死だったことは、俺にはわかったぜ!だから……気にすんなよ」
比企谷:「……そうだな。俺だって奉仕部のあいつらに言えないことだってあった。だが、今こうしてお前が全部を話してくれた。それには……感謝するぜ」
葉山:「ありがとう……二人とも」
少しだけ表情が和らいだ葉山は、だがすぐにまた真剣な顔で続けた。
葉山:「でもな……今回、海浜に来て確信したんだ。綱島の本当の目的は――雪ノ下春乃さんだった。彼女の演奏を“個人的に”聴きたかった。ただそれだけのために、総武高を巻き込んだ。奉仕部に雪ノ下雪乃がいることを知っていたから、妹を通じて春乃さんを引っ張り出そうとしたんだ。……だが、なぜ彼女にそこまで執着するのかは、まだわからない」
藤沢:「正直、俺にも春乃さんに執着する理由なんてわからねぇ……。だけど、だからこそ、こんな形で俺たちのバンドを終わらせるわけにはいかねぇ!綱島の裏を暴くまでは、奉仕部の廃部も、俺たちのバンドの解散も――絶対に阻止してみせるぜ!」
葉山:「ああ、そうだな……! それに、このフェスで優勝できれば、活動費の支援が受けられる。つまり俺たちと海浜の関係が公に認められれば、藤沢の退部だって未然に防げるかもしれない。加えて、綱島の裏の顔を暴いて、理事長に報告できれば……海浜から追放することだって、可能性はある。もう二度と、被害者を出さないためにも……絶対、優勝を狙おう!」
藤沢:「おいおい、葉山がここまで言うとはな……笑 なかなか大きな決断をするじゃねぇか!」
比企谷:「……正直、真っ向から勝負するなんて、俺の性に合わないと思ってた。
いつも斜に構えて、裏から回って、なるべく傷つかない道ばっか選んでた。
……だけどさ、今、初めて思ったんだ。
“正面からぶつかって、勝ちたい”って。
本気で向き合って、それで勝てたら――
それって、すげぇ気持ちいいんじゃないかってさ。」
(この時の俺は、まるで何かに取り憑かれたように、ただ一点を見つめていた。
思考も雑音もすべて消えて、指先だけが音に導かれて動いていく──)
(ああ、これは……“ゾーン”ってやつかもしれない。
気づけば、俺はその領域に、足を踏み入れようとしていた。)
葉山:「おいおい、どうした比企谷? どこ行ったよ、あの捻くれ者の面影は。
……まるでギターの神様に取り憑かれてるみたいじゃないか、笑」
藤沢:「……“好きなこと”に本気になるってのはな、人を変える力があるんだぜ」
(藤沢・モノローグ)
(比企谷……今のお前なら、きっと“俺と同じ景色”が見える。
お前をリードギターに選んだのは、間違いじゃなかった。
──いや、あれは正解だったよ。相棒。)