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俺たちには保険が必要だ

あれからの日々、俺たちはバンド練習に全力で打ち込んだ。

だが──現実は、いつだって甘くはない。


決意したからといって、急にギターが上手くなるわけじゃない。

まだまだギターソロはぎこちないし、Aメロ、Bメロのフレーズも共に乱れがちだ。

材木座も戸塚も同じ。みんな一生懸命だが、結果はそう簡単についてこない。

正直、彼らを巻き込んだ責任は俺にある──それが胸に重くのしかかる。


葉山はさすがというべきか、安定した演奏を見せている。

だが、圧倒的に上手いかと言えば、そういうわけでもない。

現時点で唯一、安心して聞いていられるのは──ドラムの藤沢だ。

このバンドにおいて、彼は間違いなく“一強”だった。


そして俺は、練習の合間や帰り道、一人で考え続けていた。

──もし、俺たちがこのまま成長できなかったら?

そのとき、どうやって音楽フェスを乗り越えるべきなのか?


できれば、奉仕部に頼りたいとも思った。

雪ノ下や由比ヶ浜なら、何かしらの答えをくれるかもしれない。

──けど。

このバンドは俺たちが自分で始めたものだ。

中途半端な気持ちで、あいつらを巻き込むのは違う。


……悩みながらも、日々は過ぎていく。


そして、気づけば2週間が経過していた。


残された時間は、あと2週間。

その中で、3曲を仕上げなければならない。


──いや、ほんと。厳しいって……。



 ギターを練習しながら、俺はずっと考え続けていた――。

音楽フェスで、もし俺たちが十分成長できなかった場合の“対処法”を。


そんなある日の放課後、俺は戸塚と一緒に近くの喫茶店で軽食を取っていた。


戸塚:「ねぇ、八幡。」


比企谷:「なんだ戸塚。」


戸塚:「僕も考えてみたんだ。音楽フェスでうまくいかなかったとき、どうするかって。でも、やっぱり外部からの期待がある限り、対処法なんて難しいんじゃないかな。だから、僕たちが成長するしかないと思うんだ。」


比企谷:(……ん? 待てよ。それってつまり、外部の俺たちに対する“期待”さえ取り除ければ、俺たちが成長しようがしまいが、問題にはならないんじゃ……?)


(つまり……海浜総合高校の生徒会長の期待を、俺たちじゃなくて、他校のバンドに向かせることができれば――!)


比企谷:「戸塚! ありがとう! ようやく思いついたぜ、音楽フェスをうまく切り抜ける方法を!」


戸塚:「えっ!? な、なにそれ?」



──そして次のスタジオ練習の日。

俺は、ついにそのアイデアを藤沢たちバンドメンバーに提案した。


比企谷:「俺の考えはこうだ。海浜の生徒会長の関心を、俺たちから他校のバンドに向けさせる。そのために、音楽フェスの出場者を“俺たちの高校だけ”に限定せず、他校にも募集をかける。SNSとかを使って拡散すれば、参加希望者も集まるはずだ。」


「で、どうなるかっていうと、俺たちみたいな初心者バンドは、自然と目立たなくなる。仮に演奏をミスったとしても、他校のレベルが高いバンドが注目されれば、俺たちは埋もれる。」


「それに、生徒会長の“期待”は、総武高校じゃなくて、上手い他校のバンドに向かうってわけだ。」


藤沢:「……お前にしては、だいぶまともな提案じゃねぇか。まあ、責任を他校になすりつけてるところはいつも通りだけどな。」


葉山:「確かに。笑」


比企谷:「おい、笑うな! 一応、真面目に考えたんだぞ!」


葉山・戸塚・材木座:「ハハハハハ!」


藤沢:「でもこれ、奉仕部にもちゃんと話した方がいいぜ? てか、お前、奉仕部のやつらに俺らがバンド組んでること言ってねぇだろ?」


戸塚:「え!? 八幡、それ本当?」


比企谷:「げっ……。いや、だってさ……身内にバンドやってるのバレるのって、なんか恥ずかしいだろ?」


藤沢:「恥ずかしかろうがなんだろうが、音楽フェスに出るなら話通しとけって! ほら、今すぐ行ってこい!」


比企谷:「えぇ……マジかよ……」


(くそっ、あいつの正論に反論できない……!)



一方その頃、奉仕部では――


雪ノ下と由比ヶ浜が、総武高校の1年と2年の教室を回って、バンドができそうな人材を探していた。

しかし、見つかるのは「やってみたいけど楽器はできません」勢ばかり。

本格的にバンドとして活動できそうなメンバーは、とうとう一人も見つからなかった。


葉山たちのグループにも何度か声をかけてみたが、完全にやる気を失っていて、むしろ外部の話も断るように言われてしまう始末だった。


由比ヶ浜:「ねぇ、ゆきのん。私たちで、またバンド組んでライブしようよ!」


雪ノ下:「まさか……また文化祭の時みたいに? あのステージに立って?」


由比ヶ浜:「そうだよ!だって、もう他にやってくれる人がいないんだもん!」


雪ノ下:「……でも、もう時間がないわ。今からライブを仕上げるのは無謀すぎる。それに私と由比ヶ浜さんだけじゃ、バンドは成り立たないわ。」


由比ヶ浜:「でもだからこそ、まだ諦めずに探してるんでしょ?」


雪ノ下:「……それができてたら苦労しないわよ。」


由比ヶ浜:「ヒッキー……今、何やってるのかな……?」


そのとき――ガラガラガラ……と教室のドアが開いた。


比企谷:「……悪い。遅れた。お前らに話さなきゃいけないことがある。」


雪ノ下・由比ヶ浜:「……」


俺は覚悟を決めて、今までのことを全て話した。

ギターの練習をしていたこと。

藤沢たちとバンドを組んだこと。

総武高校の代表としてライブをすることを決意したこと。

そして、うまくいかなかったときの“対処法”として他校を巻き込む作戦――。


すべて、包み隠さず伝えた。


由比ヶ浜:「……なんで、そんな大事なこと、もっと早く言ってくれなかったの?」


比企谷:「……すまん。でも、バンドをやるって決めたのは俺たちだ。だから、お前らを巻き込みたくなかった。」


由比ヶ浜:「でも……私たちをもっと頼ってよ。うまくいかないときの対処法だって、言ってくれたら一緒に考えたのに……」


比企谷:「すまん。けどな……中途半端な覚悟で、お前らを頼るのは違うと思った。だから俺なりに、ずっと考えてたんだ。」


由比ヶ浜:「……」


雪ノ下:「だとしても――せめて、バンドをやってることくらいは伝えても良かったと思うけどね? 比企谷くん(ニッコリ)」


(雪ノ下の目が笑っていない……めっちゃ怖い!)


比企谷:「いや、それはその……なんか、バンドやってるのを身内に知られるって、恥ずかしいだろ? なぁ?」


雪ノ下:「へぇ……私たちは、あなたがバンドやってるなんて知らずに、ずーっと教室を回って人探ししてたのに。申し訳ないとも思わないのかしら?(ニッコリ)」


比企谷:「すみませんでしたァァ!!」


──一方、その教室のドアの後ろでは。


藤沢:「おお、見事に尻に敷かれてやがる、アイツ。笑」


葉山:「あんまり見るなって。」


藤沢:「わかってるって、へへっ。」


藤沢:「でも雪ノ下さん、いい嫁さんになるぜ、マジで。比企谷とお似合いじゃん。なぁ?」


葉山:「……おい、だからもう黙れって。」


藤沢:「お? 葉山、まさかの嫉妬か? こりゃ恋のライバル見参ってやつか〜?」


葉山:「お前、ほんと黙ってろ!」


グリグリグリ……


藤沢は葉山の拳による正義の制裁を喰らった。


藤沢:「いってぇぇ!マジでやんのかよ!」


由比ヶ浜:「ねぇ、ドアの前でさっきから声がするんだけど……」


雪ノ下:「え? 誰かしら……?」


──ガラガラガラ!


バタン!?


突然ドアが開き、藤沢と葉山が揃って教室に倒れ込んできた。


比企谷:「いや、お前ら! 勝手について来てんじゃねえよ!」


藤沢:「おう比企谷! お前の様子が心配でな、ちょっと様子見にきたぜ!」


比企谷:「お前は俺の母ちゃんか!」


藤沢:「おう、母ちゃんでも悪くねぇな!」


比企谷:「いや、全然良くねぇよ! 帰れよ、マジで!」


葉山:「まあまあ、これでも藤沢、意外とお前のこと心配してたんだぞ。」


藤沢:「ってかそれより! お前いつの間にこんな可愛い彼女二人も連れてんだよ!」


雪ノ下:「……か、彼女!?」


由比ヶ浜:「か、可愛い……!?」


(雪ノ下と由比ヶ浜が頬を染めてめっちゃ動揺してる……!)


比企谷:「ちょっ、違う違う! まずこいつら俺の彼女じゃねぇし! 二人彼女いたら、それはそれで修羅場だろ!?」


藤沢:「えーマジかよ! じゃあ俺に紹介してくれよ~」


葉山:「お前ほんと、空気読めって! デリカシーなさすぎ!」


藤沢:「なんでだよ! 葉山も彼女できて一石二鳥だろ!」


葉山:「いや、意味わかんねぇよっ!!」


雪ノ下:「この人、殴っていいかしら?(ニコッ☆)」


由比ヶ浜:「ほんとマジでありえないんだけど……」


藤沢:「えぇぇ……引くなよ! あ、てか自己紹介してなかったわ。俺、藤沢克樹ってんだ!よろしくな!」


このときの藤沢の声は、いつもよりほんの少し高く、どこか浮ついて聞こえた。緊張というより、単純に“女子と話す”というシチュエーションにテンションが上がっているのが見てとれる。


葉山:「お前、女子の前だとマジでテンション変わりすぎ……」


雪ノ下:「比企谷くん、友達を選んだ方がいいわ。こんな人と関わっていたら、あなたただでさえ目が腐ってるのに、さらに中身まで腐るわよ。」


比企谷:「悪口にナチュラルな追い討ち入れてくんのやめてもらえる? あとこいつと俺は友達じゃねぇから!」


藤沢:「え、なに? 今俺ディスられた??」


葉山:「だからお前は黙ってろって!! 話ややこしくなるだろ!」


由比ヶ浜:(なんかこういう葉山くん見るの、ちょっと新鮮かも……。中学の時のお友達なのかな?)


雪ノ下:「はぁ……まあいいわ。とりあえず、生徒会長さんに提案をしに行かないと、比企谷くんの案が通るかどうかも分からないものね。まずは、アポを取って直接交渉しましょう。」


比企谷:「まあ、そりゃそうだな……。」


由比ヶ浜:「で、そのアポって誰が取るの?」


葉山:「俺が取るよ。海浜の生徒会長とは面識があるし、連絡先も知ってる。」


その時の葉山の表情は、どこか曇っていた。

いつもの爽やかな笑みを浮かべてはいたが……どこか無理をしているように見えた。

目元の緊張、わずかに揺れる口元。気づかないふりをするには、あまりに分かりやすかった。


藤沢:「おおっ、さっすが葉山!優秀すぎて眩しいぜ!」


葉山:「からかうなって。……とにかく、アポの件は任せてくれ。」


雪ノ下:「ありがとう、葉山くん。助かるわ。」


葉山がアポを取ることになったのは、正直かなり適切な判断だ。


何せ、あいつは文化祭でも実績を残してるし、生徒会長の信頼も得やすい。

今、海浜総合高校の生徒会長が求めているのは、まさに“ああいう存在”だろう。


こうして、俺たちは奉仕部とバンドメンバーが手を取り合い、海浜総合高校の生徒会長に直接提案をぶつけることを決意した。


それにしても――藤沢のやつ、女子の前だとほんっと態度変わるよな。

その切り替えの早さ、どっかの営業マンも真っ青だわ……。

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