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バンドマンは可能性に賭けたい

次の日——。


俺は、スタジオへ向かう気になれなかった。

昨夜の言い争いが、まだ胸の奥でくすぶっている。


代わりに、ふと立ち寄った小さな公園のベンチに腰掛け、最近ハマっているスマホゲームで暇をつぶしていた。


「……こんなところにいたのか。」


ふいに、背後から声をかけられた。

振り向くと、そこに立っていたのは藤沢だった。


比企谷:「正直、今日は集まる気になれない。……あとは葉山たちと話し合ってくれ。どうせ俺が行ったところで、また揉めるだけだ。」


藤沢:「……なあ、前から気になってたんだけどさ。」


藤沢はベンチの隣に腰を下ろし、視線を前に向けたまま静かに言葉を続けた。


藤沢:「お前って、なんでそんな"汚いやり方"しか思いつかないんだ?」


比企谷:「……さあな。俺がそういう人間だからだろ。」


藤沢:「……昨日の話を聞いて、なんとなくだけど分かった気がする。」


藤沢:「お前は、別に汚い手を使いたくて使ってるわけじゃない。それしか"人を救う手段"がないと思い込んでるんだろ。」


比企谷:「言っただろ。俺は変わりたくても、やり方を変えられないって。」


藤沢:「変えられない、か……。」


藤沢は少しだけ笑って、それから俺の方を真っ直ぐに見た。


藤沢:「お前のやり方を、俺は無理に否定するつもりはない。……けどさ、お前、本当はギターに対する熱い思いがあるんだろ?」


比企谷:「……別に。始めたきっかけがギターの話題だっただけだ。熱い思いなんて——」


藤沢:「あるよ! お前には!!」


藤沢の声が、公園に響く。

俺は言葉を失った。


藤沢:「確かに、お前のやり方は簡単に変えられるものじゃない。そんなこと、分かってる。……けど、せめて自分の演奏には嘘をつくなよ!」


「なんで平気で自分の演奏を否定できちまうんだ! なんで自分の好きなことまで犠牲にするような提案を簡単にできちまうんだ、お前は!!」


気づけば、藤沢の目から涙がこぼれていた。


比企谷:「……」


藤沢:「前にも言ったよな。お前がギターを"なんとなく"続けられてるのは、お前の中に"楽しい" って気持ちが確かにあるからだって。……そんな自分の好きなものまで犠牲にしてまで守りたいものなのかよ? "外部の期待" って……..本当にそこまで大事なもんなのかよ!」


俺は、胸の奥が尋常じゃないほどざわついていた。


なんなんだ、この感覚は——。


比企谷:「お前だって言ってたろ。外部の期待を裏切らないために最善の手を取るって。」


藤沢:「俺は、比企谷が受けた依頼だから、友達としてその義務を果たそうと思っただけだ! 俺は、お前に無理に変われなんて言うつもりはない。……けど、自分の演奏にだけは、嘘をつかないでくれよ。」


藤沢の言葉が、胸に刺さる。


俺は、今までやってきたことに——ほんの少しだけ疑問を抱き始めていた。


なぜこいつはこんなに人のために涙を流せるんだ?

俺には、それが不思議でたまらなかった。


俺には、藤沢の考えが完全に理解できるわけじゃない。

けど——


俺が今まで積み重ねてきた努力は、決して嘘じゃない…..本物なんだ…


比企谷:「……ありがとな、藤沢。」


比企谷:「ただ一つだけ間違ってることがある。」


藤沢:「ん?」


比企谷:「俺たちは友達じゃない。」


藤沢:「……ハッ! お前ならそう言うと思ったぜ!」


涙でくしゃくしゃになった顔に、藤沢は小さく笑みを浮かべた。


——俺は、スタジオに戻ることを決意した。


スタジオ:


葉山:「この状況で、よく戻ってこれたな。」


比企谷:「……」


戸塚:「八幡! 無理しなくていいよ。」


比企谷:「ありがとう、戸塚。けど、もう大丈夫だ。」


比企谷:「葉山、昨日話した例の案だけど——」


葉山:「……」


比企谷:「撤回する。」


葉山:「……どういうつもりだ?」


比企谷:「俺にも分からない。……なんで藤沢が俺のために泣けるのかも、なんでお前らが俺のやり方を否定するのかも。俺は、それが正しいと思ってきたからな。」


比企谷:「……でも、俺もギターを続けられたってことは、少なからず"好き" って気持ちがあったからだろうな。」


比企谷:「俺は、自分の演奏に嘘をつきたくない。」


葉山:「……なるほど。なら依頼はどうする?」


比企谷:「……藤沢の言う "可能性" に、賭けたい。」


——全員が固まった。


「えっ!?」


誰もが、俺の言葉に驚き、沈黙が訪れる。

今までの俺なら、こんな決断をするはずがなかったから——。


でも、俺は確かに言ったんだ。

"可能性に賭けたい" と——。


比企谷:「可能性に賭けて成功するなら──それが俺にとっての理想だ。

……ただ、正直この短期間で、俺たちがどれほど成長できるかなんてわからない。

けど……もう二度と、自分の演奏に嘘をつくような案は出したくない。

だから……せめて、もう少しだけ考え直す時間をくれ。」


葉山:「それが──お前の答えなんだな。」


比企谷:「ああ。……そうだ。」


葉山:「……わかった。今の比企谷なら……俺は、信じられる気がするよ。」


戸塚:「僕たちにできることがあれば、何でも相談してね!」


材木座:「我も力になろう!比企谷八幡よ!」


比企谷:「……お前ら……。」


藤沢:(比企谷……今のお前からは、“変わろう”としている姿が、ちゃんと見えるぜ。)


──こうして、俺たちは再び楽器を手に取った。

形だけじゃない。自分の意志で、もう一度始めたんだ。

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