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光と影が混ざることはない

そしてついにメンバー全員揃ってでの初合同練習の日がやってきた!


戸塚は申し訳なさそうに微笑んだ。「テニス部の活動もあるから、あんまり練習に出れないかもしれないけど、よろしくね!」


その横で、材木座が胸を張って腕を組む。「ふむ! 我、剣豪将軍の名にかけて、戦おうじゃないか! バンドとやらで……!」


藤沢:「比企谷、お前の友達、クセありすぎんだろ」


比企谷:「いや、戸塚は普通だろ!」


藤沢:「じゃあなんであいつだけ、女みてぇな面してんだよ?」


比企谷:「何を言っている? 戸塚は女だ! 俺の女だ!」


戸塚:「八幡! あんまりからかわないでよ!」


戸塚は顔を赤らめていた。そして藤沢はドン引きしたような顔で哀れな視線を向けながら俺に言った。


藤沢:「お前、どんな性癖してんだよ? キモいな」


比企谷:「俺はキモくない! 戸塚を見て何も思わないお前のほうがおかしいだけだ!」


藤沢:「いや、意味わかんねぇし!」


そんなやり取りの最中、不意に葉山が話しかけてきた。


葉山:「藤沢、お前、いつの間に比企谷とそんなに仲良くなったんだよ?」


藤沢、比企谷:「いや、仲良くねぇわ!」


戸塚:「……ハモった」


葉山:「とりあえず練習しようぜ。今日、みんなで合わせるんだろ?」


藤沢がドラムスティックをくるくる回しながら、「おう! まずはやってみるか!」と気合を入れる。

 ——だが、結果は散々だった。


俺は思った以上にリズムがもたつき、演奏にぎこちなさが目立つ。戸塚は声量はあるものの、歌詞が飛ぶことが多々あった。材木座は……正直、よくわからん。ベースだからか、音がほとんど聞こえない。


葉山は、リズムも安定していて俺よりギターが上手い。さすが、文化祭で披露しただけのことはある。


藤沢がドラムスティックをカンッと鳴らしながら、ため息混じりに言った。「比企谷、お前、今日調子悪いなぁ。あとベースの材木座だっけ? 全然弾けてねぇじゃねぇか!」


材木座:「ぐぬぬ……すまぬ、ベースというものはどこまでも難しいものだ!」

 

 (やっぱり、全然弾けてなかったのか。)


藤沢は腕を組んで頷く。


藤沢:「まぁ、初合わせだし、最初はこんなもんだろう。でも、戸塚と材木座に関しては楽器も歌も初心者だからな。そこで、お前らには俺が特別に特訓する機会を設けようと思う!」


材木座、戸塚:「はい、ありがとうございます!」


藤沢:「比企谷は調子戻るまで、一人で家で練習するなり、スタジオに残るなりしてどうにかしろ! 葉山、お前はそこそこやれてるみたいだが、まだフレーズがところどころ飛んでる。確かにフレーズ自体弾かなければ失敗はないが、妥協した演奏じゃ、いいバンドとは言えねぇ。もっと練習しろ!」


(いや、俺も一応初心者なんだけどね!なんか何年かギターやっている人みたいな扱い受けてますけど!)


葉山:「相変わらず、人使いが荒いな、お前は……。まぁ、それもお前らしいけどな」


藤沢はやはり自分のやりたいことに真っ直ぐで、妥協せず努力し続ける人間なのだろう。

俺はどうだろう——。


 ふと、葉山が話題を変える。「ところで、肝心のパフォーマンスする会場はどうするんだ?」


 藤沢が「あっ」と間の抜けた声を出す。


藤沢:「おぉ! 言われてみれば、まだ決めてなかったな!」


葉山が呆れたように言う。


葉山:「いや、そこが一番大事なところだろ!」


俺はニヤリと笑う。


比企谷:「それなら、俺に考えがあるぜ!」


藤沢:「よっ! またまた出ました、天才八幡様!」


比企谷:「だから、それやめろ!」


藤沢:「で、会場はどうすんだよ?」


比企谷:「海浜総合高校だ!」


藤沢:「いや、俺の高校かよ!?」


葉山:「おいそれってまさか!?音楽フェスか!?」


比企谷:「その通りだ!」


藤沢:「はぁ!?ちょっと待て!音楽フェスだぁ!?俺そんな話一言も聞いてないんだが…」


比企谷:「すまんな、藤沢。いずれお前にも伝えようとは思っていた。実はな、あと1ヶ月後に、お前の高校で音楽フェスが開催される。」


藤沢:「…は?」


葉山:「…本当にやるつもりなんだな….」


比企谷:「もともと、俺らの文化祭でのバンド演奏が外部の人間から高く評価されて、海浜総合高校の生徒会長から直々に音楽フェスを開催したいっていう依頼があったんだ。けどそこで、『総武高校のフェス参加者が足りない』って問題があったんだ。そこで、俺らが出ることでその問題を解決するわけだ。」


比企谷:「とはいえ、残された時間は1ヶ月しかない!」


藤沢:「いやいや、決まったのはいいけどよぉ!そういうのはもっと早く言えや!」


バチンッ!


比企谷:「イッテェ!!」


藤沢が、俺の頭を容赦なくぶっ叩いた。


戸塚:「にしても、1ヶ月で僕たち、本当に演奏できるのかな……?」


藤沢:「はっきり言って、お前らのレベルじゃ厳しいぜ!」


葉山:「じゃあ、どれくらい練習すれば形になる?」


藤沢:「あと1年だな!」


葉山:「それじゃあ音楽フェスに間に合わないだろ!」


材木座:「この状況……まさに背水の陣! 我の左腕の力を解放する時がついに来たようだ……ぐふふふふ……」


藤沢:「材木座、お前は黙ってろ! あと笑い方が気持ち悪ぃ!」


材木座:「ぐぬ……」


比企谷:「1ヶ月で仕上げるのが難しいなら、せめて曲数を減らすってのはどうだ?」


藤沢:「その手も考えたが……音楽フェスは外部の人間も期待して見に来るんだろ? そんな場で、曲を減らしてさっさと終わらせるってのは、さすがにまずいんじゃねぇか?」


比企谷:「だったら、俺たちが別に上手くなる必要はないんじゃないか?」


藤沢:「は? どういうことだ?」


比企谷:「つまり……バンドの演奏ってのは、一人でも下手なやつがいると全体のクオリティが落ちて聞こえる。特にギターはな。だったら、"期待に応える" っていう視点で考えると、


下手なやつに責任を押し付けて、他のメンバーがしっかり弾いてれば、総武高校の演奏は“上手かった” ってことになる。 そうすれば、期待を裏切ることなくフェスを終えられる。例え、戸塚や材木座が下手であっても、それよりも酷い演奏をするバカがいればみんなそこに注目が集まる….」


全員:「………..」


藤沢:「……随分と汚ねぇやり方だな。まぁ、お前らしいが……。で、"下手なやつ" っていう汚れ役は誰が引き受けるんだ?」


葉山:「……比企谷、お前、あれから何も変わってないんだな。」


比企谷:「人なんて、そう簡単に変われるもんじゃねぇよ。」


戸塚:「まさか……八幡が引き受けるつもりなの?」


比企谷:「ああ。さっき言っただろ、ギターは下手に弾けば目立つ。葉山は俺よりも安定して上手い。だから、消去法で俺がやるしかない。」


藤沢:「正直に言うが……お前のやり方は、外部の人間にとっても決していいものじゃねぇ。だけど……今の俺たちのレベルじゃ、期待に応えられないのも事実だ。ならば、比企谷の案はあくまで“最終手段” にしよう。 それでも、俺はお前たちが成長する可能性に賭けたい!」


可能性か……

1ヶ月で成長なんて、俺みたいな凡人には到底できることじゃない。


こいつの言う "可能性に賭ける" なんて、間違ってる……。


葉山:「俺は、お前のそういうところが嫌いなんだよ。」


比企谷:「奇遇だな! 俺もお前が嫌いだ! はっきり言って、お前とバンドを組むのだって本当は反対だったからな!」


藤沢:「お前ら、やめろって!? こんな状態じゃ、ただでさえボロボロの演奏がさらにひどくなるだけだぞ!」


葉山:「黙れよ、藤沢。お前にはわからないだろ……こいつが今までしてきた最低な行為を。」


比企谷:「俺は……そういうやり方しかできない人間なんだよ。それ以外、何を求めるってんだよ……」


葉山:「お前のやり方だけで、奉仕部に依頼した人たちがみんな救われるわけじゃないだろ!」


比企谷:「……けど、救われた人間は一定数いるだろ?」


葉山:「それはお前の歪んだ正義感だ! それで雪ノ下を救えるとでも思ってるなら、それはただの勘違いだからな!」


比企谷:「はぁ!? なんであいつが出てくるんだよ!? お前には関係ねぇだろ! ほっとけよ、偽善者が!!」


藤沢:「いい加減にしろぉぉ!!」


——バーン!!


藤沢が、目の前のドラムセットを思い切り蹴り飛ばした。

重い音が、スタジオ内に響く。


藤沢:「……今日はもう解散だ。明日また話し合う。」


そう言って、藤沢は楽器を片付けることなくスタジオを後にした。

誰も、何も言えなかった。


あたりには、重苦しい沈黙だけが残されていた——。

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