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音楽とは遊びではない、戦場だ。

Delta Hounds が生み出した嵐はまだ止まない。

磯子兄弟の演奏は、暗雲のように会場全体を覆い尽くしていた。


弟がコードを掻き鳴らすと、その隙を逃さず兄が高速カッティングを入れてくる。しかも、よく聴けば BOØWY の “Bad Feeling” を思わせるテンポ速めのカッティングまで混ぜてきている。……あれは完全にカッティングの化け物だ。


比企谷(心の声):「確か原曲通りなら、ベースも歌うはずだが……流石にそこまでは再現してないか。」


藤沢:「そこまでやれたら、もう人間じゃなくて神の領域だろ(笑)。前にも言ったが、あのバンドは磯子兄弟が中心。そしてドラマーとベースはあくまであいつらの影武者だ。けど“影武者”って言っても、レベルは俺らとは天と地の差があるけどな。

特にベースの杉田――あいつはわかってんだよ。自分が主役じゃないってことを。それでも、徹底的にリズムを支えて兄弟を引き立てる。それがあいつの鉄則なんだ。

ドラムの根岸も同じだ。あいつも実力は相当だが、自分の役割を守ってリズムで曲を支配してる。下手したら “蒼刃” のドラマーをも超えるかもしれねぇぞ。」


葉山:「……それ、“影武者”どころか完全に猛者じゃねぇか。」


比企谷:「よくそんなとこまで気づくな。」


藤沢:「はっ、直感だよ直感。バンドマンとしてな!」


会場は再び豪雨の渦に飲み込まれていた。

二人のギタリストが放つフレーズを雷鳴の如く鳴り響く、そして音そのものを支配していく。

この演奏でわかったのは――彼らのバンドは、誰を主役にするかが明確で、演奏がひとつの物語になっているってことだ。


Cメロに差しかかると、兄は少し引いたカッティングに切り替え、弟は美しい高音と派手なハンマリング、プリングを織り交ぜたフレーズで観客を魅了する。

気づけば二人だけの旋律が会場を染め上げ、やがて弟のコードが鳴り響くと、暗雲で覆われた空は晴れ渡り――観客たちは一斉に解放された。


そして、野犬のように荒々しい Delta Hounds の演奏は終わった。

次に登場するのは、バンドの王者――蒼刃 -Soujin-。


会場の空気は、最初よりもはるかに緊張感を帯びていた。

正直言って……もう帰りたい。


比企谷(心の声):「あの化け物相手に、俺たちが戦うのか……」


戸塚:「僕はボーカル初心者だよ。あんな強豪を前にしたら、正直……負け戦だと思う。」


材木座:「ふむ……我も同じく初心者。ベースの基礎すらまだ道半ば……」


藤沢:「……お前らの前で強がってたけどよ、正直あいつらの技術は俺の想像を超えてた。

だが――ここで諦めるのは違う! 最悪優勝はできなくてもいい。だが死んでも奴らの演奏に食らいつくぞ!」


葉山:「俺もだ。勝ち筋が見えなくて絶望してる……それが本音だ。

でも、俺たちの戦いはまだ始まってすらいない。ここで引くわけにはいかない!」


――そうだ。

まだ何も始まっていない。ここで諦めたらすべて終わりだ。

俺たちは、俺たちの音を――全力でぶつけるしかない!



そうこうしているうちに、昼休みの時間が来た。

会場は Delta Hounds の話題で持ちきりだった。


観客A:「あの双子のギタリスト、マジでエグすぎる…」


観客B:「ヤベぇよな(笑)。ここに来るまで無名だったのに、一気にぶち上げてきやがった!」


観客C:「もし武道館ライブがあったら、絶対観に行こうぜ!」


そして会場内では歓声とともに手拍子が鳴り響き、観客全体が大合唱していた。


観客たち:「デルタハウンズ! デルタハウンズ! デルタハウンズ!」


―――正直、この雰囲気は息苦しい。


葉山:「ここ、居心地悪いな。もう会場を出て昼にしよう。」


由比ヶ浜:「だね〜。私もう、さっきの演奏でお腹いっぱいだよ。」


雪ノ下:「……人が多いわね。ちょっと、目眩が……」


由比ヶ浜:「え!? ゆきのん大丈夫!?」


……おいおい、マジかよ。ここで倒れるとか。


比企谷:「水買ってくる。お前は由比ヶ浜や藤沢たちと一緒に会場を抜けろ。」


雪ノ下:「ありがとう……比企谷くん。」


藤沢:「おお、珍しくイケメンじゃねぇか比企谷!」


比企谷:「余計なお世話だ!」


俺はそそくさと会場を出て自販機を探しに歩き出した――が、案の定。


比企谷:(……マジかよ。この歳で迷子とか。くそ、これが“ぼっちの宿命”ってやつか?)


???:「よ!なんか、今回はやたらと君に会うな!」


後ろから聞こえてきたダンディな声。振り返ると――


ノア:「他のメンバーは、デルタハウンズの演奏中に先に飯済ませて、もう会場で練習してるんだわ(笑)。せっかくだし一緒に行こうぜ!」

比企谷:「えっ!? ノアさんと、ですか!?」


まさかこんな展開になるとは。……嬉しいような、敵同士って意味では複雑なような。とりあえず、俺はノアと一緒に飯に行くことにした。

すると――


杉田:「……おっと。君とは本当によく知り合うな。」


黒マスク姿の杉田が、前から歩いてきた。


ノア:「比企谷!お前の知り合いか?てかお前!さっきのライブで演奏してたベーシストだろ?ちょうどいい!一緒に行こうぜ!」

杉田:「……ありがたいな。ノアさんは、俺にとって唯一の憧れのベーシストだからな。」


すると今度は――


正弘:「おいおい杉田! 俺を仲間外れにすんなよ〜!(笑)」


杉田:「……お前はミッチと兄弟で仲良く食え。」


正弘:「アイツもう根岸と飯行っちまったんだよ!LINEしたら“ひとりで食え”って返ってきたし……お兄ちゃん寂しいよ!(涙目)」


杉田:「その上目遣いやめろ。気持ち悪い……」


正弘:「んだと!? このポンコツベーシストが!」


杉田:「……いや、ポンコツは違うだろ。」


ノア:「まあまあ!二人ともケンカすんな。お前も一緒に来いよ!」


正弘:「マジか!? やったぁ!ぼっち飯回避!」


……気づけば、えげつないメンツで食事に行くことになっていた。俺? 完全に空気だよ。なんで俺がこの輪に入ってんだ……。

比企谷:(てかさ、俺はぼっち飯なんて普通に慣れてんだけど。なんでそんなに喜んでんの?……やべぇ、死にてぇ……)


食堂に入り、席に座ると――自然と周りの視線がこっちに集まっていた。

どうやら藤沢たちも、俺たちのテーブルを見ているらしい。


葉山:「なんだあの席……メンツ濃すぎないか?」


藤沢:「おいおい、なんで比企谷がノアの隣なんだよ!クソ羨ましいんだが!? 俺が代わりに座りてぇわ!」


由比ヶ浜:「なんていうか……なんでヒッキーが一緒にご飯食べてるんだろ?」


雪ノ下:「楽器を持つ者同士って、不思議と縁ができるのかもしれないわね。」


戸塚:「すごいよ八幡!いつの間にノアくんと仲良くなったの?」


材木座:「ふむ……スタンド使いがスタンド使いに惹かれ合うように、同じ楽器に情熱を注ぐ者同士は引き寄せられる。これはもはや宿命だな!」


藤沢:「おいおい、歴史キャラはどうしたんだよ。完全にジョジョノリじゃねぇか(笑)。……てか、楽器への情熱なら俺だって負けてねぇと思うんだけどな。」


……俺はえげつないメンツと並んで飯を食うことになった。やべぇ、もう帰りたい。


正弘:「てか、この根暗そうなガキは誰なんだよ、ノア!」


根暗で悪かったな!


ノア:「ああ、こいつはたまたま俺らの練習スタジオで知り合った、『Solitude Riot』のギター担当の一人だ。」


正弘:「ほぉ〜、ノアと知り合うとは……お前、相当腕の立つギタリストなんだな?」


……期待がデカすぎるって。俺、つい最近までギター初心者だったんだけど?


比企谷:「いやぁ……さすがにあなたほどの実力は持ってませんよ。」


正弘:「えぇ!? なにそれ、つまんねぇ!」


杉田:「……小学生かお前は。」


正弘:「なんだと!? 誰が小学生だコラァ!」


ノア:「お前ら、ほんと仲いいよな?」


杉田・正弘:「よくねぇわ!」


……また俺だけ空気。やっぱりもう帰りたい。


そして、ノアがふいに一言、切り込んできた。


ノア:「ところでお前ら……例の『Xysteriaジステリア』ってバンド、何か知らないか? 直前になって応募してきたんだけど……どうも引っかかるんだよな。」


その瞬間、テーブルの空気が一変した。


杉田:「……すまない、ノアさん。俺たちも詳しくは知らないんだ。答えられなくて申し訳ない。」


正弘:「そうだな……ノアさんがわからないなら、俺たちも当然知らねぇよ。」


(……おかしい。こいつら、知らないはずがない。なのに、なぜノアに本当のことを話さない? 何か裏があるのか……?)


ノア:「そうか。君たちなら何か掴んでると思ったんだけどな。」


ふと、杉田はコーヒーをゆっくり飲み干し、低い声で口を開いた。


杉田:「……少なくとも、只者じゃないだろうな。あいつらも。」


正弘:「直前に応募してきたぐらいだ。何か仕掛けてくるに決まってる。……でも、さすがにノアさんを超えることはないだろ?」


杉田:「ノアさんは、俺の唯一の憧れのベーシストだ。あんな連中に負けるはずがない。」


ノア:「おっと、そんなに持ち上げるなって(笑)」


ノアは上機嫌に食事をつまみながら、いつもの笑みを浮かべている。

――だが。


「ジステリア」の名前が出た途端、磯子兄と杉田の表情がほんの一瞬、曇ったのを俺は見逃さなかった。

(……わかった。これはノアを本気で持ち上げてるんじゃない。油断させようとしているんだ。優勝すれば支援金を得られる――デルタハウンズの狙いは最初からそれだ。『蒼刃』も、彼らにとっては憧れじゃなく天敵ってことか。……杉田が俺にまでジステリアの話を振ったのも、俺たちのような初心者バンドなら勝てると確信しているからだろう。)


……正直、悔しい。だが、俺の演奏が奴らに劣っているのも事実。実力は、認めざるをえなかった。


俺がノアに口を開こうとした、その瞬間――。

杉田が、こっそりと俺を睨んでいた。般若のような、鬼の形相で。


……まずい。ここで余計なことを口走ったら、本当に殺されかねない。


結局、俺はノアに何も伝えることなく食事を終え、杉田と磯子兄のもとへ向かった。


比企谷:「杉田……お前なんでノアに本当のことを言わなかった?」


杉田:「言ったはずだろ。これは俺とお前だけの秘密だ、ってな。」


比企谷:「でも……もしジステリアを倒すのが目的なら、ノアに伝えておけば彼の演奏力で奴らをねじ伏せることだってできたはずだ。」


正弘:「甘ぇな。お前ほんとにギタリストかよ? いいか、俺たちは仲良しごっこしに来てるんじゃねぇ。本気で優勝を取りに来てんだ。支援金さえ降りれば、俺たちは『蒼刃』すら超えるバンドになる。……お前なんざ足手まといなんだよ。失せろ、ゴミギタリストが。」


杉田:「おいマサ、それは言い過ぎだ。……だが、一理はある。比企谷、俺たちは敵同士だ。秘密を共有したからって、馴れ合う気はない。」


その瞬間、俺は確信した。――こいつらは、自分たちのためにしか動かない。


比企谷:「やっぱりな。だが関係ない。デルタハウンズだろうと、ジステリアだろうと……俺たちは俺たちの音で戦うだけだ。」


正弘:「雑魚ギタリストのくせに……よく吠えるじゃねぇか。まあ、せいぜい足掻いてみろよ。」


こうして、互いの闘志を燃やしながら、俺たちは会場へと足を踏み入れた――。

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