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嵐の中の野犬は吠え続ける

浅野がギターで無双し、ライブは歓喜の渦に包まれた。観客の熱気は最高潮――だが、その一方で、審査員たちは厳しい目つきでステージを見つめていた。


そして、次のバンド――

**『Delta Houndsデルタ・ハウンズ』**の演奏が始まろうとしていた。


あいつらのことは藤沢から少し聞いていたが……その実態は、まだ謎が多い。


再び訪れた、演奏直前の静寂。

俺たちは緊張を抱えつつも、ほんの束の間の“暇”を過ごしていた。


葉山:「浅野が、あんなに上手いなんて正直予想外だったな」


比企谷:「あの演奏力で、会場を一人で支配できる。あいつ、ただ者じゃねぇよ」


葉山:「あれが……俺たちの“相手”か」


比企谷(心の声):(クソッ……あんなのと戦うのかよ。マジで手強い……)


材木座:「皆の者! 応援感謝する! 一旦、解散といたそうぞ!」


オタクたち:

\ありがとうございましたーーー!! 我らボッチ・ザ・ロック信者は永遠に不滅なりーーー!!/


藤沢:「お前な……もうちょい緊張感持とうぜ(笑)」


戸塚:「えへへ、じゃあ僕、飲み物買ってこようか? みんな喉乾いてるでしょ?」


藤沢:「おっ、助かる! 頼んだ!」


比企谷:「やはり天使は天使だった……戸塚、お前はあの美女系バンドの上位互換だ……」


戸塚:「もう八幡、からかわないでよ〜」


そんな俺に対して、由比ヶ浜と雪ノ下は呆れた視線を向けてきた。


葉山:「みんな!戸塚に頼むのはいいけど、ちゃんと金は渡せよ? 戸塚一人に負担させるのは違うだろ」


藤沢:「OKOK、金は俺がまとめて渡してやるよ!」


戸塚:「ありがと、みんな!」


戸塚はそのまま会場の外へ向かった。

そして、自販機の前に立ったその時――


背後に、微かに人の気配がした。


???:「Ah……Water…」


振り向くと、そこには大柄な黒人男性が、壁にもたれかかるようにして座り込んでいた。

顔は赤く、どこか酒でも入っているような様子だった。


戸塚:「え……ちょっと、大丈夫?」


???:「Hey kid! Can you buy me the water? I just don’t have much money.」


戸塚(心の声):「えっと……水が欲しいってことかな?」


とりあえずそう判断した戸塚は、ペットボトルの水を買い、その男に手渡した。


???:「Thanks buddy! I’m very appreciated! By the way, what’s your name?」


戸塚:「あ、えっと……My name is Saika!」


ぎこちないながらも、ちゃんと英語で返答する戸塚。


???:「Saika! Nice to meet you, buddy! I’m William Washington. Call me Willie!」


戸塚:「Nice to meet you… Willie. ……これで合ってるかな?」


ウィリー:「Oh, I gotta go! I’m in the next-next band. Still have time, but I promised Noah to rehearse before our show. See ya, buddy!」


そう言って、**“ウィリー”**と名乗る男は笑顔で手を振り、去っていった。


戸塚(心の声):(ウィリー……? 次の次のバンド……? てことは、まさか……?)


戸塚は、全員分の飲み物を手に会場へ戻ってきた。


藤沢:「おお、戸塚! ずいぶん遅かったな。何かあったのか?」


戸塚:「ごめん。ちょっと知らない外国人の人が倒れてて……。介抱してたら時間かかっちゃって」


葉山:「倒れてた? 大丈夫だったのか、その人」


戸塚:「うん、水飲ませたらすぐ元気になって、どこか行っちゃったよ」


戸塚:「あ、そうだ。藤沢くん、『ウィリー』って人、知ってる?」


藤沢:「……ウィリー? なんだ急に。そいつ、その外国人の名前か?」


戸塚:「うん。英語だったからあんまりわからなかったけど、『次の次のライブに出る』って言ってた」


藤沢:「……まさか。それって……そいつ、『蒼刃 -Soujin-』のメンバーじゃねえのか?」


戸塚:「たぶんそうかも!なんか“ノア”って人とリハの約束があるって言ってたし」


藤沢:「……ノアと約束……。けどな、俺の知ってる限り、『蒼刃』にウィリーなんて名前のやつはいなかったはずなんだが……」


比企谷(心の声):(ウィリー……。もし『蒼刃』のメンバーなら、ただの外国人じゃない。

このフェスで注目されてる強豪バンドに加わるってことは――こいつ、とんでもない実力者かもしれないな……)



そして、短い休憩はあっという間に終わり――

次なるライブ、『Delta Hounds』のステージが静かに幕を開けようとしていた。


『Astral Youth』のときのように、今回は事前に曲を知ることはできなかった。

……まあ、あのときは藤沢がたまたま片瀬に連絡して、特別に聞かせてもらってただけだからな。


そして、そんな思いを巡らせる間もなく――ライブは始まった。


比企谷(心の声):(あの黒マスクの男……開演前に話しかけてきたやつか。って、あいつベーシストだったのかよ……)


藤沢:「みんな、油断するな! あいつらは“磯子兄弟”を中核に組まれたバンドだ。『Astral Youth』とはまた違った“化け物”ぞろいだからな。心して聴け!」


比企谷(心の声):(言われなくても分かる……。雰囲気からして完全に場馴れしてる。あれは経験積んだ連中の風格だ……)


静寂を切り裂くように、イントロが鳴り始める――


藤沢:「マジかよ……liteの『Ef』!? あいつら、インストバンドのカバーで攻めてきやがった!」


葉山:「おい、それ知ってるのか?」


藤沢:「知ってるも何も、ボーカルなしのインストだ。つまり、完全に“楽器の演奏力だけ”で勝負するってことだ!」


比企谷:「マジかよ……ボーカル抜きって、相当自信がなきゃできねぇぞ……」


葉山:「この曲、ギターフレーズも地味に難しいし……しかも何度も繰り返すから集中力持たねぇわ。普通にミスる未来しか見えん……」


藤沢:「おい! 出番前にネガティブになるなっての!俺らは俺らの全力でぶつかるしかねぇだろ!」


葉山:「……まあ、それもそうか」


戸塚:「ボーカルいないのに、全体の演奏がすごくまとまってるね……なんか、圧倒される感じ」


材木座:「ふむ……なるほど。これが“インストバンド”というものか……楽器同士がまるで会話をしているような感覚でござる……!」


比企谷(心の声):(やっぱり格が違う……黒マスクのベーシスト、あれだけのスラップをさらっとこなすあたり、かなりの職人だ。そして双子のギタリスト、あいつらが演奏の“軸”を担っている……。変拍子に全くブレずについてくるドラマーも含めて、全体の完成度が異常に高い……こいつら、マジで本物の“実力派”だ……)


そして――サビに突入した瞬間だった。


まるで晴れ渡っていた空が、一転して黒雲に覆われ、やがて激しい嵐へと変貌していくように――

音の波が、会場全体を包み込んでいった。


荒れ狂う豪雨の中で、ギターとベースは野犬の遠吠えのように吠え立てる。

激しく頭を振りながら、暴れまわるようにかき鳴らされるその音は、制御された狂気のようだ。

特にギターは、鋭い単音カッティングの応酬――それでいて、ミュートの精度が恐ろしく完璧。

そしてドラムは、その嵐の中心で、なお正確にテンポを加速させながら全体を制御していた。


藤沢:「やっぱ“デルタ・ハウンズ”って名前通りだな……この荒々しさ、圧が違ぇわ。特にサビがやべぇ……」


葉山:「一見暴れてるように見えるのに、全部上手く聴こえるって、どういうことだよ……」


そして曲がCメロに差しかかったあたりだろうか――

徐々に雲は割れ、雨脚も静まりつつある。嵐の後の、不穏な静けさ。

その空気の中で、ベースの音だけが、まるで心臓の鼓動を直接殴りつけるような低音で響いていた。


そこへ――小柄な方のギタリスト。おそらく磯子兄弟の弟が、前へと踏み出す。


エフェクターの切り替え音、「カチッ」というクリックが場を切り替える合図。

今回使ってるのはマルチ……GT-1000か? 正直、何の音色かまでは分からない。


けれど始まったギターソロは――もはや別格だった。


細かなカッティングに、鮮やかなハンマリングとプリング。

そして、まるで隠し技のように差し込まれるスイープ奏法。

本家がどうかは知らないが……これは間違いなく“自分の音”として組み上げたアレンジだ。


藤沢:「たしかに本家とは違う……けど、こいつ、自分のスタイルで完全に仕上げてきてやがる……」


比企谷:「やっぱ、あれアレンジだったか……」


葉山:「あんなバケモン相手に、俺たち……戦うのかよ……」


やがてギターソロが終わり、曲は冒頭のフレーズへと還っていく――

まるで嵐を駆け抜けた後の、地平線を見つめる静かな空のように。


そして演奏は終盤へと突入し、ついに最後の音が鳴り終えた――

その瞬間、会場全体に歓声が轟いた。

知らない曲であっても、ここまで観客の心を掴めるのは、本物の実力を持ったバンドにしかできない芸当だ。


やがて、磯子兄弟の兄――たぶん、あれが兄のほうか? がマイクを手に取り、MCを始める。


???:「皆さん、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。まずはメンバー紹介からさせていただきます。」


比企谷:(うわ……あからさまに作った感じのイケボ出してきやがったな……まあ、顔がイケメンだから許されるのか?)


由比ヶ浜:「あのギターの人、顔めっちゃイケメンじゃん!しかも礼儀正しいし!」


雪ノ下:「ええ、容姿も中身もまともそうな人ね……どこかの誰かさんとは違って」


その視線が、なぜか藤沢のほうへ向けられた。


藤沢:「ちょっ、俺かよ!? いや確かに初対面でお前ら口説こうとしたのは認めるけどさ! 俺だって常識はあるほうだぞ!」


雪ノ下:「どうかしらね……」


藤沢は、微妙に悔しそうな顔を浮かべていた。

俺はてっきり、いつものようにいじられるかと思ってたけど……ありがとうな藤沢! お前の犠牲、俺は忘れねぇ!


正弘:「改めまして、私がリードギター兼ギターボーカルの磯子正弘です! そして、リードギター担当の磯子光輝――僕の弟です! ドラム担当、根岸翔太郎! ベース担当、杉田祐一!」


比企谷:(あのベーシスト、名前めちゃくちゃ普通だったな……)


正弘:「……で、せっかくのMCなんですけど……」


その瞬間、――「ピーーーッ!」

突如、マイクが大きくハウリングを起こした。


比企谷:(うわっ、耳にくるな……)


慌てた兄貴は、まるで血迷ったかのようにマイクを手に取ると、なぜか手でマイクの先を叩き始め――


正弘:「くそっ、なんなんだよこれっ!」


――勢い余って床にマイクを思いっきり落としてしまった。


観客たち:「(爆笑)」


光輝:「おいおい、天才ギタリストさん、しっかりしなよ〜」


杉田:「ってかお前、猫かぶりすぎだろ! 無駄にイケボ出してんじゃねぇよ! そんな礼儀正しいキャラじゃねぇだろ、普段!」


正弘:「ちょっ、おまえら黙れって! 俺だって最初はちゃんとスマートなMCをやる予定だったんだよ! だって女子多いって聞いたからさ! スマートにウケ狙って株上げようとしたら……ボロ出ちまったじゃねぇか!」


光輝:「だから言ったじゃん、キャラじゃないって。それに最近、彼女に振られたばっかじゃん、お兄ちゃん」


正弘:「おいそれ言うなー! 観客の前でぶっちゃけるなバカ!!」


根岸:「こいつ、最初はカッコつけるけど、すぐボロが出て立て直せなくなるんだよな……それが振られた原因でもあるんだけどな。な、マサ?」


正弘:「てめぇらぁああ! さっきから俺の足引っ張るなよぉ! てか俺が女子からモテる作戦、どこ行ったんだよ!」


光輝:「ああ、それはね……冗談だよ! 君が勝手に信じてただけ」


正弘:「この裏切り者ォォォォ!!!」


その瞬間、観客席からは大きな笑い声が巻き起こった。

だが、雪ノ下たちの目線は――さっきまでの尊敬のまなざしから一転。

まるで下僕を見るような冷たい目で、某ギタリスト兄貴を見つめていた。


藤沢:「……バカだあいつ。新生のバカだ……」


葉山:「これが……いわゆる“残念なイケメン”ってやつか……」


比企谷:「ほんとに絵に描いたような残念なイケメンだな……残念すぎて笑うしかねぇわ……くふふふ(笑)」


材木座:「ぷはははは! ざまぁないでごわす!」


戸塚:「ちょっと八幡、笑いすぎだよ……ぷっ(笑)」


藤沢:「お前ら性格わりぃな…..」


観客席では、磯子兄の全力すぎる失態に笑いが広がっていた。

まさかの“残念なイケメン”っぷりが、逆に会場の雰囲気を一気に和ませ、結果としてパフォーマンス点は爆上がり。

……兄貴、なんというか、不本意な形でチームに貢献してるな。


そして、間を置かずに次の曲が始まった。


さっきまで、マイクを叩いて壊しかけるような“残念なイケメン”だった兄貴が、ギターを構えた瞬間、空気が一変した。

まるでさっきまでの姿が仮面だったかのように、彼の立ち姿から“本物のバンドマン”としての風格が溢れ出す。


再び空が曇り、観客たちの意識の上に――豪雨が舞い戻ってきた。

そして、静かにアルペジオと美声同時に鳴り響く。一本一本の音が、濡れた地面に落ちる雨粒のように染み込んでいく。


その旋律に乗せて、兄貴の高い歌声が静かに響き出す――透明で、刺さるような声だ。

どこかで聞いたことのあるこの旋律。俺の記憶の底から一気に答えが引き上げられる。


材木座:「あれは!サイコパス(PSYCHO-PASS)のオープニング…!?」


比企谷:「おお、間違いねぇ……“凛として時雨”の《abnormalize》だ!」


藤沢:「あいつ……ギター握った瞬間、完全に別人じゃねぇか……しかも、あの複雑なアルペジオを歌いながら弾いてやがる……!」


そして――イントロの静寂を切り裂くように、突如としてギターソロが割り込んできた。

野犬の咆哮のような音圧、鋭く、荒々しく、でも正確に。

再び、嵐が会場を襲う。


葉山:「おいおい、ギターソロって普通リードギターの仕事じゃないのか? ギタボがやるとか…おかしいだろ…」


比企谷:「凛として時雨のTKさんは……リードパート弾きながらボーカルもやるんだよ。まさにその再現……いや、これはもう“再現”ってレベル超えてるな。」


藤沢:「マジかよ……あいつ、ただのコピーじゃねぇ……磯子の兄貴、ステージで化けやがった……」


そしてAメロからサビにかけて――

磯子の兄貴の高速カッティングが会場の空気を切り裂いていた。

あの高音ボイスで歌いながら、このフレーズを弾くとか……正直、人間のやることじゃねぇ。


この時点で、完全に主導権は兄貴に握られていた。

まるでステージ上だけじゃなく、観客の視線も、意識も、全てを掌握してるような感覚だった。


一方で、弟の方――磯子光輝もただのサポート役ではなかった。

サビに入ると、オクターブ奏法に軽めのカッティングを織り交ぜたフレーズを、さりげなく差し込んでくる。

兄貴がコードで厚みを出している間を狙って、隙間を縫うようにソロを入れてくるあたり……アレンジの呼吸が完璧すぎる。


原曲と違和感がない。というか、アレンジが“原曲っぽく聴こえる”レベルで完成されてる。

その立ち回りの巧さに、ゾクリとした。


そして――サビが終わり、Cメロに差しかかったその瞬間。

突如としてギターソロが唸りを上げた。まるで嵐の中、雷鳴が空を裂くように。

歪んだ音が会場を震わせ、高速カッティングが稲妻のように突き刺さる。


葉山:「……ほとんど、磯子の兄貴がこの曲では中心になってるな。」


藤沢:「原曲を忠実に再現しつつ、プレイヤーとしての色を出してる……あいつ、相当な腕だぞ。

 しかも、弟の方も一歩引きながらアレンジ入れてくるのがマジで上手い。

 兄貴が目立つように立ち回りつつ、自分も見せ場を確保してる。戦略的っていうか、器用すぎるわ。」


比企谷:「……バケモンだな、あの兄弟。」


そして――曲は終盤へ。

兄貴のアルペジオが再び空間を包み、嵐は静かに去っていった。

曲調は徐々に穏やかになり、まるで雨上がりの静寂が訪れたかのように……ついに、演奏は幕を閉じた。


その瞬間、会場に再び爆発的な歓声が沸き起こる。

さっきのMC前と同じか、それ以上に熱狂的な――“本物の演奏”を見せつけられた者たちの、心からの喝采だった。


由比ヶ浜:「なんか……MCの後にあんな演奏されると、ギャップありすぎてついていけないっていうか……イケメンの人、すごすぎるよ。」


雪ノ下:「ええ……。正直、見てるこっちの感情が追いつかないわ。」


藤沢:「感心してる場合じゃねぇぞ。ほら、もう次の曲始まりそうだ。」


葉山:「二曲でもう、お腹いっぱいだけどな……。」


戸塚:「ほんとに……なんか、僕も見てるだけで疲れてきちゃった……。」


そして――

そんな会話が交わされる中、会場の照明がふたたび静かに落ちる。

まるで一息入れる暇も与えないように、次の曲が静かに、しかし確かに始まろうとしていた――。


さらに――

なぜかマイクが弟の元に渡された。

さらに、兄貴と弟が互いのギターを交換し始める。


比企谷(心の声):(……まさか。弟も歌えるのか!?)


その瞬間、会場にさっきとよく似たコードとアルペジオが、交互に重なりながら鳴り響いた。

雰囲気も楽曲の方向性も……また『凛として時雨』か?


やがて、ドラムの明確な4拍子が叩かれた――

それはまるで、再び会場を豪雨が飲み込むような合図だった。


そして――

弟のギターソロが鳴り響く。

その音はまたしても、あの野犬の遠吠えのような荒々しさを帯びていた。

まるで兄貴が弾いていた時の再来だ。


だが……

そのフレーズはあまりにも速すぎた。

聴いていても、何をやっているのかまったくわからない。

ハンマリング?プリング? それにしては速すぎる。

指が、いや……手がどう動いてるのかさえ見えない。


そしてドラムの明確な4拍子が刻まれた瞬間、空気が一変する。

まるで再び豪雨が会場全体を呑み込むかのように。


比企谷(心の声):(……結局、兄弟揃って人間やめてるってことかよ。どうなってやがる……!)


藤沢:「あれは――『凛として時雨』の “Telecastic Fake Show”。しかも、原曲より速い……。これは喰らいつくので精一杯だろうな。」


比企谷:「お前、そんなに時雨聴いてたのか。俺、この曲は知らなかったぞ……」


藤沢:「聴いてたのかじゃねぇ! 邦楽はピンからキリまで全部聴いてんだ。ドラム歴4年舐めんなよ!」


比企谷:「邦楽ガチ勢かよ……」


葉山:「いやマジで、最初何やってるのか分からなかった。イントロ速すぎだろ……絶対、原曲のテンポ超えてる……」


やがて、超高速のハンマリングとプリングの嵐のあと、D♭とFマイナーのコードが轟き渡る。

その演奏は兄と比べても遜色がなく、まさにTKの再現だった。兄も先ほどの弟と同様に、一歩引きながら絶妙にギターソロのアレンジを入れていた。


磯子兄弟――二人とも、本物の化け物。

俺たちは……あんな奴らに勝てるのか。

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