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本番前は想定外が起きがちである。

俺たちは、いよいよ明日フェス本番を迎える。

けど――正直言って、プロ相手に勝つなんて夢物語だ。

このフェスに参加すること自体、限りなく「負け戦」に近い。


 スタジオにて、俺は、一人でギターを試奏していた。

弦は新品になっていて、指の滑りも良く、かなりスムーズに動かせる。

ネックの反りもなくなって、ギターソロまで気持ちよく弾けた。


ふと試奏を終えて、マーシャルのアンプをいじっていると....


藤沢:「比企谷、お前さ、マーシャルの調整めっちゃ上手くなってないか? エフェクターの回路も、前よりずっと完成度高いぞ!」


比企谷:「……採点に“音質”も入るんだろ? そりゃあ、やるしかないだろ。正直、苦行だったけどな。けど、このスタジオで何度も触って、ようやくマーシャルは手に馴染むようになった。葉山も同じようにな。」


藤沢:「葉山はもう一段階、次元が違う気がするけどな〜。なぁ、葉山?」


葉山:「褒めすぎだって。でも……確かに、理想の音に近づけるまで、けっこう苦労したよ。」


気づけば、俺たちはこの短期間で、アンプの調整もエフェクターの回路も、ほぼ完璧な形に仕上げていた。

けれど、本番では会場の広さが仇となり、マーシャル特有のハウリングが強く出る可能性がある。それが最大の懸念点だ。もちろん、それも想定の範囲内だった。


このスタジオでは、空きさえあれば希望のアンプが選べる。俺と葉山は、マーシャル以外にもFenderやRolandのアンプを何度も試し、同じエフェクターでも音の変化を把握して調整する訓練を積んだ。


でも――正直、他のアンプはまだ難しい。調整が安定しない。でもマーシャルだけは違った。

たとえ初心者でも、ちゃんと向き合えば“戦える音”を出せる。それが俺たちの結論だった。


当日、マーシャルを使える。それだけでも、俺たちにとっては一つのアドバンテージだ。


だが、いい音を出せても――ソロでミスれば、それは致命傷になる。


俺は何度も何度も、ソロパートを練習してきた。けど、失敗する時はする。

その不安を見抜いたのか、藤沢がある“提案”をしてきた。


藤沢:「なぁ、曲の間奏にドラムソロ入れてアレンジしてみねぇか?」


思わず耳を疑った。本番前にそんな無茶が通るのか?


葉山:「おいおい、マジでやる気か? ドラムソロなんてぶっつけ本番で入れられるのかよ?」


藤沢:「任せとけって!俺を誰だと思ってんだ? ドラム歴4年、サボりなしの藤沢様だぜ?」



――そして、合わせてみた。

いつものイントロが鳴り、サビも無難にこなした。そして、ギターソロを終えたその時――


藤沢のドラムが突然、“何か”に目覚めたかのようにドラムの音をかき鳴らした。


叫び声のようなドラミングが始まった。


音が違う。

熱量が違う。


まるで魂が震えているようだった。


魂を震わせるようなドラムの連打が、まるで雷鳴のようにスタジオの壁を揺らし、空間すべてを支配していた。


俺でもわかる……こいつ、次元が違う。


比企谷:「お前……バケモンかよ。」


藤沢:「へっ、俺は本気でドラムを続けてきたんだ。こんなんじゃまだ本気出したうちに入らねぇよ!」


葉山:「できるなら最初から提案しとけよな!」


藤沢:「うるせぇ!ドラムソロは見せもんじゃねぇ。“俺が気持ちよくなるため”の時間なんだよ!」


比企谷:「いや、やっぱお前イカれてるわ……」


こいつのドラムが上手いのは最初から知っていた。けど――

アドリブでここまでブチ込んでくるとは、誰も想像してなかった。


この数分で、俺たちの曲は“本番仕様”へと進化を遂げた。


何かが足りない——確かにそう感じていた。でも、その“何か”が指先に触れそうな気もする。

……間に合うか?本番までに、本当に掴めるのか——。



一方、総武高校では――

雪ノ下や由比ヶ浜にできることは、もはや俺たちのバンドにすべてを託すことだけだった。だが同時に、綱島という脅威が、着々と牙を研いでいた。


当日のスケジュール決定権は、すでに綱島の手に渡っていた。つまり、雪ノ下や城廻先輩には、最初から物事を決定できる立場が与えられていなかったのだ。もちろん、逆らえば――奉仕部は廃部になる。


そして今、綱島の手によって作成された「当日スケジュール」が、雪ノ下たちの元に届けられる。


雪ノ下:「……嘘、でしょ?」


由比ヶ浜:「そんな……。バンドは10組出場のはずじゃ……?」


スケジュールには、10バンド中、7バンドが「直前で参加を辞退した」と記載されていた。


雪ノ下:「ありえない……。もちろん、フェス直前で不安になって辞退するバンドが出ることは想定していた。あと2週間切っているもの。でも――」


由比ヶ浜:「それでも、7バンドもキャンセルなんて……何かおかしすぎるよ……。」


そして、当日出演するバンドのリストには、こう記されていた。


『Astral Youthアストラル・ユース


『Delta Houndsデルタ・ハウンズ


『蒼刃 -Soujin-(ソウジン)』


『Solitude Riotソリチュード・リオット


……のはずだった。


だが、その下には見慣れないもう1バンドの名前が記載されていた。


Xysteriaジステリア


雪ノ下:「『Xysteriaジステリア』……? どうして急に1バンド追加されているの? リストにはそんな名前、どこにも……」


由比ヶ浜:「どういうことなの……? こんなの、聞いてない……」


二人は動揺を隠せなかった。そして、この異常な情報はすぐに俺たちにも共有される。


スタジオにて――

藤沢:「……嘘だろ? こんな展開、ありかよ……」


戸塚:「これじゃ、ますます勝たなきゃ……僕たちのバンド、解散しちゃうよ……」


葉山:「ふざけるな……。これはもう、綱島にハメられたとしか思えない……!」


比企谷:「あと気になるのは、『Xysteriaジステリア』ってバンドだ……。一体何者なんだ……?」


藤沢:「俺たちにはわからねぇ。でも、一つだけ確かなのは……勝ち残らなきゃ、全て終わるってことだ。」


葉山:「……ああ。俺たちの目的は優勝して、綱島の計画をぶっ壊すことだ。ここで終わるわけにはいかない!」


俺たちはまだ知らなかった。この『Xysteria』が、俺たちの運命を大きく狂わせる存在であることを――。

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