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バンドマンにはバンドマン同士の縁がある。

フェスまで、あと3日。

俺たちは、日に日にプレッシャーを感じ始めていた。


目指すは、音楽フェスでの優勝。だが、それを成し遂げるには、まず「敵を知る」ことが重要だと俺たちは考えた。

そこで、奉仕部の由比ヶ浜と雪ノ下に頼み、フェスに出場予定のバンドのリストを作成してもらい、俺たちに情報を共有してもらった。


その結果、わかった。

俺たちの相手は、強豪バンド3組――


『Astral Youthアストラル・ユース

『Delta Houndsデルタ・ハウンズ

『蒼刃 -Soujin-(ソウジン)』


どれもフェス常連で実力も人気も兼ね備えたバンドだ。


……ここで、フェスのコンテスト形式について説明しておこう。


各バンドは、順番に数曲ずつ演奏を披露する。

曲はすべてカバー曲に限定されており、演奏する曲数は自由――つまり、実力と体力さえあれば5〜6曲ぶっ通しで演奏することも可能だ。


審査を行うのは、綱島のコネクションで呼ばれたプロミュージシャン5名。

しかもそれぞれが、ドラム・ベース・ギター・キーボード・ボーカルという異なるパートの専門家。つまり、バンド全体、あらゆる演奏パートが細かく評価対象となる。


そして、気になる採点方式は以下の通り。


技術点(35点):

各パートの演奏技術、音色や表現力、そしてバンドとしての一体感を評価。


パフォーマンス点(15点):

ライブの盛り上げ方、MC、衣装などを含めた"見せ方"が問われる。観客の心を掴めるかが勝負。


タイムオーバー減点:

演奏+MCを含めた制限時間は15分。これを超えると、10秒ごとに1点減点される。


各5人審査員は50点満点。


合計250点満点。中でも比重の大きい技術点を取るには、演奏力と連携力が不可欠だ。


衣装は、俺たちのバンドのテーマを踏まえたうえで、総武高校随一の衣装職人・海老名に依頼。発想力担当として材木座も加わった。

MCは、コミュ力おばけの藤沢か葉山のどちらかに任せるつもりだ。

……俺がやったら、会場の空気が完全に凍る未来しか見えない。


葉山:「なんやかんやで、フェスまであと3日か……」


比企谷:「やべぇ……死にてぇ。」


藤沢:「おいおい早まんなって、比企谷!」


戸塚:「大丈夫だよ!僕たち、いっぱい練習してきたじゃん!」


材木座:「我もついにベースの“型”とやらを掴み始めたところだ!剣豪将軍の名にかけて、いざ決戦の幕を上げん!」


藤沢:「お前はお前で、だいぶポジティブだな……笑」


葉山:「ところでさ、MCって何すりゃいいんだ?」


藤沢:「ま、普通に考えたらメンバー紹介とかだろうな。ただ評価基準見る限り、“盛り上げ”ってのがポイントみてぇだし……そこが難しいとこだな。」


比企谷:「だったらさ、お前ら二人でMCやったらどうだ?」


葉山:「二人で?」


比企谷:「藤沢がボケて、葉山がツッコミ。普段通りのノリでやりゃ、漫才っぽくなって盛り上がるんじゃねぇの。知らんけど。」


藤沢:「いや、知らんのかい!」


葉山:「……でも、案外アリかもな。その路線なら、比企谷と藤沢でも十分成立しそうだけど?」


比企谷:「やめろ!?コミュ障にそんな無茶振りすんな。俺がMCなんかやったら、秒で会場が凍るぞ。絶対やらんからな!」


葉山:「はいはい、わかったよ。じゃあ俺らでやるから。」


藤沢:「それよりさ、隣のスタジオも誰か借りてるみたいだな……しかも、めちゃくちゃ上手ぇぞ。」


比企谷:(この“音”…明らかに、素人のそれじゃない。音色のバランスも完璧だし、何より演奏全体が驚くほど均一化されている。まるで一つの楽器みたいだ……)


こうして俺たちも、いつものスタジオでバンド練習に励んでいた。


── 一方その頃、俺たちの隣のスタジオでは。


ノア:「住吉、お前さっきのBメロの2小節目、リズムずれてたぞ。それから平間、アドリブ入れるなら絶対に失敗すんなよ!」


住吉:「うっ…ノア先輩、細かすぎっす……」


平間:「いや〜、Aメロんとこがちょっと寂しく感じて……つい、アドリブ入れたくなっちゃうんすよ!」


新城:「お前ら、愚痴こぼしてる暇あったら演奏に集中しろ。音が乱れてる。」


平間:「新城先輩、ていうかなんでそんなに歌いながらミスんないんすか?マジで意味わかんないんすけど!」


新城:「さっき言っただろ。集中しろって。」


平間:「いや、してますって!」


新城:「お前は“アドリブ”を入れようとしてる時点で集中できてない。俺が言う集中ってのは、“原曲に忠実に演奏する”って意味だ。これ以上音を乱すな。」


平間:「……ぐぅ。わかりました。気をつけます!」


ノア:「新城、お前は型にハマりすぎなんだよ。平間だってアドリブ入れたくなる時はあるさ。問題は、本番で絶対にミスをしないこと。それが条件だ。いいな?」


平間:「了解っす!マジ神っすノア先輩!」


新城:「……ノア、お前ちょっと甘すぎるんじゃないか?ま、音さえ崩れなければ文句は言わんけどな。」



隣の演奏はかすかに聞こえてきたが、やはり俺たちの格上だってことぐらいは初心者の俺にもわかった。


葉山:「隣のギターの人めちゃくちゃ上手いな」


比企谷:「それは俺も同感だ。」


藤沢:「おいおい!隣ばっか気にすんな!俺たちは俺たちのやり方で上手くなっていけばいいだろ?」


葉山:「おう!すまん!みんな集中しよ!」


こうして俺たちも、隣のスタジオの連中がどんなバンドかは知らないが、対抗心を燃やしながら、あいつらの倍は演奏してやるつもりで練習に打ち込んだ。

そして、全員が疲れ果てた頃には、いつものスタジオの終了時間が近づいていた。


葉山:「今日はさすがに疲れたな〜」


戸塚:「ずっと休憩なしで3〜4時間やってたもんね〜」


材木座:「ぐぅ……我も限界でござる……」


そのまま材木座は、スタジオの床にぺたんと座り込んだ。


藤沢:「お前ら、もう機材まとめて解散な!あと3日なんだ、風邪でもひかれたらシャレになんねぇぞ!」


こうして俺たちは機材を片付け、それぞれ帰り支度を始めた。


スタジオを出て、廊下に出たその時だった。


???:「あれ、もしかして克樹くんと隼人くん?」


背後から、まるでCMでも始まりそうなぐらい透き通った声が聞こえてきた。しかも、清楚。……こちとら音楽室で汗まみれなのに、なんだその清涼感。


葉山:「え……まさか……」


藤沢:「ん?お、お前……もしかして姫華か!?」


藤沢の反応は、いつものような女子相手の軽いノリではなかった。どこか照れくさそうに、頬がほんのり赤くなっているようにも見えた。


片瀬:「そうだよ。中学の時以来だね!」


振り返ると、そこには黒髪ロングの、品のある雰囲気をまとった女性が立っていた。


比企谷:「……知り合いか?」


葉山:「ああ。まぁ……中学の時の同級生ってやつだ。」


藤沢:「姫華、ほんと久しぶりだな!」


片瀬:「うん。克樹くんも葉山くんも、全然変わってないね。」


藤沢:「まあな。……っていうか、どうしてここに?」


片瀬:「私も、バンド組んでるんだよ。」


藤沢:「マジか!楽器は何やってんだ?」


片瀬:「克樹くんと同じ、ドラム!」


藤沢:「おお、そうなのか……!」


片瀬:「ねぇねぇ、せっかくだし、3人で少しお話ししない?」


そう言った姫華の顔は嬉しそうだったが――それ以上に、藤沢の表情がどこか複雑そうにも見えた。


藤沢:「ああ、もちろん!中学の時以来だしな、久々にいろいろ話そうぜ!」


比企谷:「戸塚、材木座。俺たちは先に帰るぞ。」


……これは、俺たちが入る余地はない。知り合いでもないやつがついて行ったら、気まずくなるだけだ。


比企谷:「俺たちはこれから3人で飯でも行くってことで、先に失礼するわ。」


葉山:「え?……あ、ああ。わかった。」


なぜかこの時、葉山の表情もどこか複雑そうに見えた。……まるで、言いそびれたセリフが喉につっかえてるような、そんな顔。


で、俺たちはというと――戸塚と材木座を連れて、近くのラーメン屋へ。


材木座:「ぐぅ……我、所持金あと百円しかないでござる……」


その一言で、奢りが確定した。財布の中の千円札が、文字通り“散っていった”。


(青春の予感?そんなもん俺にはねぇ。ラーメンと奢りと、虚無のセットメニューだよ、まったく……)

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