ドラマーは常に努力を続ける。
文化祭の後、身内だけで行った打ち上げでギターの話題が出た。それがきっかけで、俺はギターに興味を持ち始めた。モテたいから始めたと思われるかもしれないが、断じて違う!……純粋にギターを弾いてみたくなった。それだけだ。多分……。
幸い、親父が買ってすぐに挫折したギターが家に転がっていたため、練習する道具には困らなかった。アンプは、自宅用として一番安かったYAMAHA製を購入。約1万円の出費は高校生にとっては痛手だったが、練習のためなら仕方がない。
しかし、高2になってからギターを始めるのは想像以上に険しい道だった。まずFコードが押さえられない。指がつりそうになるし、まともに音が出る気がしない。あと、コードチェンジってなんだよ。クソむずいんだけど……。それに、なんでドレミファソラシドが英語なんだ? 納得いかねぇ。
さらに、生音がデカすぎるせいで、夜中に弾くたびに小町に怒られる始末。そのたびに心が折れそうになり、何度も挫折しかけた――。
雪ノ下がギターを弾けることは知っていた。だが、だからこそ――彼女に頼れば、自分のちっぽけなプライドが擦り切れていくのも目に見えていた。
だから俺は、誰にも頼らず、空いた時間を見つけてはひたすら黙々と練習を続けた。まるで、自分の不器用さを自分で証明するかのように。
そんなある日、奉仕部に一つの依頼が舞い込んだ。依頼主は生徒会の城廻先輩。
「文化祭でのバンド演奏が、外部の学生からも高く評価されたんだって!」
その影響で、音楽フェスを開催したいという話が持ち上がったらしい。発案者は海浜総合高校の生徒会長。既に日程も決まっていた。会場はもちろん、海浜総合高校で行うらしい。
…問題は、その日に演奏できる人が肝心の総武高校にほとんどいないということだった。
葉山のバンドメンバーは、文化祭で燃え尽きてしまい、音楽活動のモチベーションを完全に失っていた。さらに、3年生のバンド経験者たちは、受験シーズンの真っ只中。城廻先輩もその一人で、時間の余裕はなかった。
教師陣も期待できない。
平塚先生は、教師業と婚活で忙しい。
春乃さんも、大学のサークルイベントで手が回らない。
つまり、頼れるメンバーはほぼ皆無。
それでも、城廻先輩は諦めたくなかった。
城廻:「せっかく外部の生徒会長から依頼が来たのに、何もせずに断るのは勿体ないと思うの!」
雪ノ下:「ですが、葉山くんたちがライブのモチベーションを取り戻さない限り、フェスの開催は難しいかと。」
比企谷:「なら、葉山以外のバンド経験者を軽音部とかから探せばいいんじゃないですか?」
城廻:「そもそも、うちの高校には軽音部自体がないのよ…。だから、探すのはかなり厳しいと思う。」
由比ヶ浜:「じゃあ、どうしようもないじゃん! どうすればいいの!?」
奉仕部の活動としては、依頼を引き受けるかどうかも危ういところである。一方、俺は依頼のことを考えつつ、俺はひたすらギターには打ち込んでいた。ギターを練習するうちにハードロック系統の音楽にはまり、それをきっかけにハードロック系のインディーズバンドのライブへも足を運ぶようになった。
そんなある日、比企谷は「Gun's and Sword」というインディーズバンドのライブに訪れていた。そこで、度々見かける謎の男がいた。その男はピアスをし、全身にタトゥーを入れ、金髪マッシュを模したヘアスタイルで、俺からすれば、荒々しい印象しかない。しかし、高校生にしては身長が低いのが少し意外だった。ライブが終わった後、背後から声が聞こえた。
「おいお前、毎回ライブ来てる子じゃん!」
嫌な予感がした。振り返ってみると腕のタトゥーが見えた….やはりあいつか….
どうしよ、このまま知らんぷりするわけにもいかない….
「俺….ですか….」
「お前以外誰がいるんだよ。つうかその制服!お前総武高かよ!頭いいんだな笑」
「あ、はい….まあ」
(ちくしょー早く去りたい!、コミュ障の俺からしたらかなり苦痛なんだよこの時間!)
「お前さぁ、ガンソー好きなんだろ?、俺も大ファンでさ!てか今度一緒にライブ見に行こうぜ!」
「あ、はい、ぜひ…..」
(おい、俺! なんで断らねぇんだよ! これ、一種のカツアゲじゃねぇのか!?)
「なあ、せっかく知り合ったんだし、時間的にもう腹減ったからあそこのサイゼで時間潰そうぜ!」
(これは流石に断れ俺!)
「はい….そうしましょう…」
(おい〜〜!まあ、そうなるよな〜!)
結局俺はその人と食事をすることになった。 正直、めちゃくちゃ怖かった…何されるかわからない恐怖の中、俺は食事をした。
すると、
「あ、そういえば名前言い忘れてたな!俺、藤沢克樹ってんだ!、高校は海浜高だ!まぁ、学校はサボってばっかだけど笑」
(俺が依頼を受けている高校じゃねぇか!意外と普通の高校通ってんだな…)
比企谷:「俺、比企谷八幡って言います!よろしくお願いします!」
藤沢:「八幡っていうのか!変わった名前してんな笑」
比企谷:「はい、どうも(苦笑)」
藤沢:「俺さぁ、ガンソーのライブ見るたびにバンドやりてぇって思うんだよ! けど、誘ってもみんな俺のこと避けるんだよな~。お前だけだぜ、俺の誘い断らなかったの!」
(それは、こっちは脅されて誘いに乗っているようなもんだからな!)
藤沢:「まぁ、避けられんのも仕方ないんだけどよ!俺、一回他校の生徒ぶん殴って危うく退学になりかけたことあるからよ!」
(やっぱこいつやべぇわ….早く逃げたい…)
気まずい沈黙が流れる。やばい、何話せばいいんだよ……!
比企谷:「けどなんで他校の生徒殴ったりしたんですか?」
(おい俺! そんな余計なこと聞くな!)
藤沢:「おう!実はな、俺の高校でクラス一緒のやつがいて、そいつ結構貧弱なやつでな….帰りに他校の奴らにいじめられているとこ見たんだよ!殴るわ蹴るわでかなり酷かったんだ..そこで俺があいつを助けるために他校の奴らをぶん殴ったんだ。
別に間違ったことはしてなかったんだ….そこで校長に呼び出しくらって、俺の担任はすぐに退学にしろってうるさくて、けど校長に事情説明して、2週間ぐらいの停学で済んだんだぜ。」
(こいつ意外といいやつなのか?)
藤沢:「でもよ、噂は広まるもんで、“他校の生徒を殴った”って部分だけが独り歩きして、俺は学校で孤立するようになったんだけどよぉ!そんなとき、ガンソーのライブに行ってさ。あいつらの歌詞とか演奏に、俺は救われたんだ。」
(この話を聞いて、俺の藤沢に対する印象は180度変わった。)
藤沢:「俺もガンソーみたいなライブができれば、少しは学校側の俺に対する印象も変わるんじゃ無いかと思ったんだ。それでバンド組みたいって思ってるんだ!」
比企谷:「楽器は何かできるんですか?」
藤沢:「おお、良くぞ聞いてくれた!俺は一応ドラムができるんだぜ!俺が小6の時、親父にライブハウスに連れてってもらってよぉ!そんときドラムに惚れちまったんだ! そっからずっと続けているぜ!」
(俺にはわからなかった…)
比企谷:「なんで、そこまでしてドラムを続けられるんですか?」
藤沢:「それはお前、ドラムが叩けるようになりてぇからに決まってんだろ?」
藤沢:「あ、そういえばお前なんか楽器やってんの?」
比企谷:「一応、ギターをやっています。始めたばかりですけど。」
藤沢:「おお、カッケーじゃん!一番花形って感じだな!」
比企谷:「けど、俺はそんなんじゃ無いんです!」
藤沢:「え、どういうことだよ?」
比企谷:「俺、高2からギターを始めたんです。きっかけは、ただ俺に趣味がなくて、ギターの話題が出たから“やってみよう”と思っただけで、別に特別な思い入れがあったわけじゃないんです。始めたはいいものの、覚えることは多いし、近所迷惑にもなるし……正直、何度も挫折しかけました。
あんなに時間がかかる作業に、どうしてそこまで没頭できるのか、俺にはわかりません……。」
藤沢:「なるほどな〜!けどお前まだ続けられてんじゃん!確かにきっかけは些細かも知れねぇけどよ!それは俺もドラムを上手く叩けるようになるまですげぇ時間はかかったぜ!けど楽器ってのは弾いてて楽しいもんだぜ!
お前も少なからずギターを弾いてて楽しいと思えたから、今も続けてるんじゃねぇのか? 続けることに、別に深い理由なんていらねぇよ!
ああいうガンソーのライブ見てると、“俺も弾きてぇ!”とか“バンド組みてぇ!”とか、なるもんだぜ!」
比企谷:「そんな単純なことなのかよ…」
藤沢:「けどそれでいいだろ?それ以外何が理由で楽器やるんだよ!」
サイゼでの出来事を通じて、藤沢の印象は大きく変わった。
彼はただ自分のやりたいことにまっすぐで、正義感の強い男だった。
藤沢:「なぁ! お前もギターやってるなら、俺とバンド組もうぜ!」
比企谷:「え?」
藤沢:「バンドを組めばさ、ギターを弾く楽しさとか、面白さとか、もっとわかるかもしれねぇだろ?」
比企谷:「それは……まぁ、そうだけど……」
藤沢:「な、組もうぜ! 俺たちでさ!」
(ん? ちょっと待てよ……? これは奉仕部の活動として、音楽フェスのメンバー確保という名目でバンドを組むのはアリなんじゃないか? 藤沢は外部の人間だが、それ以外のメンバーを俺たちの高校から探せば、それでバンドが成立する……)
比企谷:「まぁ、俺も部活で忙しいから、時間があるときなら練習に付き合ってやらんこともない……」
藤沢:「……お前、意外と上から目線だな、笑」
(あれ……? てか、俺いつの間にこいつとタメ口で話してんだ……? こいつのコミュ力、半端ねぇな……)
(……ん? ちょっと待て! 引き受けたはいいが、これってつまり、俺も音楽フェスに参加する流れか!? とんでもないことを引き受けてしまったんじゃないのか!?)
こうして、俺たちはバンドを組むことになった。
もちろん、藤沢には総武高校からバンドメンバーを探してほしいと俺からも頼んだ。音楽フェスの話はややこしくなるから、ここでは伏せておいた。藤沢は外部の人間ではあるが、総武高校には中学時代の友人がちらほらいるらしい。
俺たちが組むバンドのジャンルは、もちろんハードロックだ。
ただ、一つ疑問なのは……。
これで周りの藤沢に対する印象って、本当に変わるもんなのか?