姦淫のおっさん
・早朝、神殿の境内の一角で、
・イエスが屈んで砂に文字を書いている
ナレーション
イエスはオリーブ山で皆を教えておられた。
・律法学者とファリサイ人が半裸の女を引きずってくる。
女
「許してください!許してください!」
律法学者
「ええい!こっちへ来い!」
・律法学者はイエスに女を見せ、挑発的な笑みを浮かべる
律法学者
「ラビ、この女は姦淫の場で捕えられました。モーセは律法の中でこういう女を石で打ち殺せと命じましたが、あなたはどう思いますか?」
ナレーション
彼らがそう言ったのは、イエスをためして訴る口実を得るためであった。
・女は泣き続ける
・律法学者は微笑を浮かべ返答をまつ。
・一同、イエスに注目する
イエス(一瞥もせず)
「あなた方の中で罪のない者が、まずこの女に石を投げるのがよい」
・律法学者、表情をこわばらせ、後ずさる
・一同、沈黙
・顔を見合わせ、年寄りから順にその場を去ろうとする。
・ボロを着たおっさんがひとり、去ろうとせずにおもむろに足元の石を拾う
おっさん
「ようし!じゃあ、俺からいくぜ!いっくぞう!」
・おっさん、石を投げようとする
律法学者
「ちょちょちょちょちょちょちょちょ」
・律法学者はおっさんを制止する
・イエスちらと見る
律法学者
「なにしてんの?」
・おっさんは律法学者の顔を見る。
律法学者
「いや、なにしてんの?」
おっさん
「いや、石を・・・」
律法学者
「や、なにしてんのって!」
・おっさん不思議そうにする
律法学者
「今、この人が、罪のない者が、最初に石投げろって言ったじゃん。」
おっさん
「おん、」
律法学者
「ね?だから今、そういう返答されちゃあなぁ、つってみんな去ろうとしてたとこなの」
おっさん
「おん、」
律法学者
「んで、なにしてんの?」
おっさん
「いや、石を、」
・おっさん石を投げようとする
・律法学者、制止する
律法学者
「いやいやいや、なんで?、みんな、罪のない者が最初に石投げろって、言われたから、そうかーって去ろうとしてるのよ。なんで?」
おっさん
「おん、だから俺が石を、」
律法学者
「ちょっちょっちょ、いや、うちの律法学者たちが、あーそうかーつって去ろうとしてるのよ?」
おっさん
「おん、、、、なんで?」
律法学者
「なんでって、、、ほら、、」
おっさん
「なんでみんな去ろうとしてるん?」
律法学者
「なんでって、、、そりゃあ、みんないろいろあるやんか。」
おっさん
「何が?」
律法学者
「は?そりゃ、なんか、後悔してることとか、あれでよかったんかなー?とか、」
おっさん
「俺は無い」
・おっさん石を投げようとする
・女、怯える
・律法学者、制止する
律法学者
「ちょちょちょちょ」
・格闘
律法学者
「ちょっと待って!」
・律法学者息を整えながら
律法学者
「え?何?罪がないって言ってるの?アイアムイノセントって言ってるの?」
おっさん
「おん?」
律法学者
「自分には、罪が一切ない、と、いってるの?、原罪も?」
おっさん
「無い!」
律法学者
「無いの?無いという主張?あ、無いという主張なのね?」
おっさん
「無罪!」
・律法学者、おっさんを睨みつける
律法学者
「傲慢」
おっさん
「無い!」
律法学者
「強欲」
おっさん
「無い!」
律法学者
「嫉妬」
おっさん
「無い!」
律法学者
「憤怒」
おっさん
「無い!」
律法学者
「暴食」
おっさん
「無い!」
律法学者
「怠惰」
おっさん
「無い!」
律法学者
「色欲」
おっさん
「・・・大丈夫」
律法学者
「大丈夫なんかい」
・おっさん得意気
・律法学者は疑っている
律法学者
「いや、そんなこと、ありえないんだって、ここの律法学者たちが、律法学者たちが!もう、ここを、去ろうとしてるねんで?どや?」
おっさん
「え!?じゃあ、この人らみんな罪人?!」
律法学者
「え?いや、」
・他の律法学者たち、振り向く
・イエス、ちらと見る
おっさん
「うっわ、やだー。きもー。ちかよりたくなーい。」
律法学者
「ちょ・・・」
おっさん
「やだー、きもー、やだー、きもー」
律法学者
「やめろって」
おっさん
「やだー、きもー、やだー、きもー」
律法学者
「お前ムカつくなぁ!」
おっさん
「あ!憤怒!」
律法学者
「くっそう!」
・おっさん、石を投げようとする
・女怯える
律法学者
「まて、まて、まて、」
・律法学者、おっさんを制止する
律法学者
「ホンマ、無罪なんか?」
おっさん
「おん。」
律法学者
「ちょっとはあるやろ、人生、歩んできたらいろいろあるねん、」
おっさん
「無い」
律法学者
「きのう産まれたんかいな、そんなことないやろ」
おっさん
「この前51歳になったわ」
律法学者
「ほやろ、51にもなったら・・・51!?51て!51でその認識はヤバいて!」
おっさん
「おん?」
律法学者
「ここの律法学者の一番年寄り、49やで?」
・年長の律法学者がうつむく
律法学者
「お前が一番年寄りやんけ、なんでそんな認識なん?」
おっさん
「51年間、罪を犯したことは1回もない!律法を、全て!ひとつ残らずまもってる!」
律法学者
「そんな傲慢な・・・あ!それは傲慢や!傲慢の罪や!」
おっさん
「俺は毎日、神様を敬ってる。神様からしたら自分がいかにちっちゃい存在かを知ってる」
律法学者
「くっ、じゃあ、ほんなら・・・
あ!お前、貧乏そうな服きとるやんけ、
盗みをしたことあるやろ!」
おっさん
「無い!」
律法学者
「いやらしそうな顔つきしとるやないかい!買淫したことあるやろ!」
おっさん
「いっさい無い!」
律法学者
「誰かの悪口言った事は?」
おっさん
「無い!」
律法学者
「晩御飯の料理、おいしいから独り占めしたことは?」
おっさん
「無い」
律法学者
「金持ちにムカついて豪邸の壁に落書きしたことは?」
おっさん
「無い」
律法学者
「好きな女の子に意地悪したことは?」
おっさん
「無い」
律法学者
「シャワー浴びる時、急におしっこがしたくなってお風呂場の排水口のところでしちゃったことは?」
おっさん
「無い」
律法学者
「もう寝る時間なのになんか小腹空いたなーっちょっと食べようかなーって言って結局ラーメンがっつり食べちゃったことは?」
おっさん
「無いし、それは罪では無い」
・律法学者、考えて
律法学者
「あ、そんなボロの服を着て、お前、働いてへんな!怠惰は罪やで!」
おっさん
「働いてるし。」
律法学者
「ほな、なんでそんなボロ着てるねん。おかしいやないかい」
おっさん
「俺、稼いだ金のほとんど、困ってる人たちの為に寄付してんねん、だからこんな・・・」
・律法学者、沈黙する
・おっさん、石を投げようとする
・律法学者、制止する
律法学者
「ちょーまて!なんでそんな石投げたいの?」
おっさん
「いや.モーセが律法で・・・」
律法学者
「あ!ああー、人を裁いたらあかんねんで!」
・イエス、振り向く
おっさん
「ん?そんなこと律法には・・・?」
・律法学者、イエスと目が合う
律法学者
「くうぅぅ、・・・ああ!もう!じゃあ、この女、どう思う?」
・律法学者、半裸の女を指差す
おっさん
「おん?まあ、ええなあって」
・女、体を衣服でかくす
律法学者
「ほう、んで?半裸やで」
おっさん(にやけて)
「おん、まあ、ええなあって」
律法学者
「あ!!」
おっさん
「でも、姦淫は!絶対に!しません!」
律法学者
「あ!はっきり言っておく!淫らな思いで他人の妻を見る者はだれでも、既に心の中でその女を犯したのである!」
・イエス振り向く
おっさん
「ええ!そうなんですか?!」
・律法学者、頷く
・おっさん、膝から崩れ落ちる
おっさん
「そんな、、、今まで罪をおかさず、イノセントに生きて来たと思っていたのに・・・。
他人の妻を淫らな目で見ただけで姦淫のつみだったなんて・・・くそう、あの時も、あの時も、あの時も!罪だったなんてぇ、くうぅ」
律法学者
「そう、みんな、そんなもんだ。罰せられてはいないけどな。
わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。今後はもう罪をおかさないように。」
・おっさん去る
・律法学者去る
・イエス、ふたりが去っていくのをみつめる。
イエス
「それ、わたしのセリフ〜!」
(終)