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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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05 マリーの計画

 マリーは、もちろん本気だった。

「あの胡桃色の髪の王子と結婚する!」


 再びルセルの家に押しかけて来たマリーは、先日と同じ庭先の丸テーブルを囲んで座り、ルセルをそそのかさんと喋り出していた。


「一目会えればいいの。そうすれば、王子もきっと私を好きになるから」

 大した自信である。


 大好きな庭仕事は今日はもう無理だろう。ルセルはもう、マリーの話しを聞くだけの姿勢だ。目標を定めたマリーは、徹底的に打ちのめされない限り前進を止めないだろう。ルセルは半ば諦めている。


「近いうちに王子が出席するパーティーはないかしら。何とか潜り込めればいいわ。ルセル何とかしてよ」


「……」

 それくらいなら協力できなくもない。と、ルセルは思う。しかし、一度そう口にしてしまえば、あれよあれよと言う間にマリーの計画全てに協力する羽目になる。


 ルセルは苦し紛れに言ってみる。

「アレンは、どうするんですか」


 今度はマリーが黙る。何しろ、アレンは既に婚約の準備を整え、王都に住む貴族でも手を出すのをためらうような高額な婚約指輪を購入したと聞いた。


「そういえば、ケビンとも切れていませんね」

 ルセルが思い出して言う。


 ケビンは、もう一人のマリーの恋人である。

 マリーに何人恋人がいても構わないし、もしも五人いれば優先順位は五番目で構わないというような男だ。


「ケビンは大丈夫。私が誰と付き合っても気にしないから」

 マリーが確信を持って答える。


「王子妃になるには、厳格な審査があります。家柄はもとより、交友関係や学歴も誤魔化しはききません」


 マリーは一瞬怯んだが、開き直って言い放つ。

「そんなの、既成事実があれば関係ないわ」


「関係あるでしょう。妊娠したって父親が王子かアレンかケビンか分からなければ、既成事実があっても結婚は叶いませんよ」


「そこは、ルセルの魔法でなんとかしてよ。私の経歴を誤魔化すとか、アレンとケビンとの関係は無かったことにするとか」

 無茶を平気で言う。しかし、それがマリーだ。


「王宮にも魔法使いはいます。私に王宮の魔法使いは騙せません」

 本当は多分、ルセルであれば騙せるだろう。ルセルに言わせると、王宮の魔法使いの質はそれほど高くない。


「とにかく!王子と出会って恋をしないと始まらないでしょ!さっさとセッティングしてよ!」


 王子を騙すなんて、ばれたら牢屋か断頭台だ。ルセルはぞっとする。マリーは、自分の命をかけても惜しくないと思っているのか。それなら、いいだろう。ルセルは少し投げやりな気持ちも手伝って、指をぱちんと鳴らした。


 ルセルの家の玄関が開き、中から男が一人現れた。


 上品な歩き方でゆっくりと二人の方に歩いてくる男を見て、マリーが細い目を大きく見開く。

「何よ、これ?」


「マリーが会いたがっていた、王子様ですよ」


「そんなわけないでしょう。髪は胡桃色だけど、顔がケビンじゃない!」


「これは、家の中の箒に少し魔法をかけただけです。私は王子の顔が分からないので、ケビンにしてみました。私がイメージできないものは、魔法で再現できないので」

 箒が化けた王子は二人の前で止まった。


「でも、これは、王子ともケビンとも全然違う。変よ」

 マリーは目の前の木偶人形に、我慢ができないらしい。


「王子様っぽく動くよう演出してみたんですよ。でも、人は親しければ親しいほど、木偶人形に違和感を感じるものです。だから、魔法はあまり役に立たない」


「木偶人形でも、もう少しましにならないの?」

 マリーは不満げに言った。


「マリーの記憶を使うという手もありますが、人の心を操る魔法は本人の許可がなくてはいけないし、魔法を使うときに魔法の期限を決めるか、解くための鍵を用意しないといけないので、何かと面倒なんです」


「許可なく使うとどうなるの?」


「もしも見つかれば、魔法学校の魔法塔に五年間軟禁されて、魔法倫理の授業を学び直しです」

 ルセルはさらりと答えたが、魔法塔での軟禁生活を思い出す。しかし、それとて、本来は禁忌を犯した魔法使いを更生させる手立てだ。ルセルは自分のしたことを自分で罰するため、自主的に魔法塔に閉じこもり五年間を過ごしたのだ。


「じゃあ、ルセル、私の記憶を使って王子を出してよ」


 ルセルは一瞬期待した。幻とはいえ、大人になったリース王子に会えるのか。

「箒の王子でいいんですか?」


「いいわ」


「では、五分で魔法の効果が切れるということで」

 珍しくルセルは口の中で何かつぶやき、それからマリーの方をしっかりと見た。期待に膨らんでいたマリーの顔が途端に陰る。


「何よ、これ?」


「マリーが会いたがっていた王子様ですよ」


「そんなわけないでしょう。顔がぼやけてるじゃない!」


「だから、マリーの記憶ですよ。一目ぼれと言う割に、存外、覚えていないものですね」

 マリーだけではない、ルセルもマリーの記憶の中の王子にがっかりしていた。

「こんな、顔も覚えていない王子と会って、どうやって結婚する計画なんですか?会えば何とかなるなんて、根性論では私は納得しませんよ」


「根性論じゃないわ。絶対大丈夫よ」

 妙に真面目腐った顔でマリーが言う。


「私がこれだけ王子を好きなんだから、この気持ちが伝わらないわけないでしょう」

 マリーのこの根拠ない自信は一体何から来るのか、訝しむルセルに畳みかけるようにマリーが言う。

「人の好意って伝わるのよ。ルセルだって、相手を見れば自分を好きか嫌いか位、何となく分かるでしょ?だから王子も私に会えば、私がどれだけ王子を好きか、すぐに分かるわよ。それにね、始めもしないことを出来ないと言うのはばかばかしいわ。何だってやってみれば出来るし、信じていれば叶うのよ」


 付け加えてマリーが言う。

「私がここにきてルセルにお願いしてるのだって、ルセルが何とかしてくれるって分かってるからじゃない」


 誰でも、人に頼られれば嬉しい。ルセルは自分の感情にどきりとした。


 顔がぼやけた木偶人形が、ぱたんと倒れてもとの箒に戻った。

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