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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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46 マリー・ドナの結婚

 ルセルとリース王子はルキシア地方に向かう馬車の中にいた。

 ルセルの父、ルキシア侯爵への結婚の挨拶は、マスカーニ宰相の突然の訪問により、父の引退宣言に加えマスカーニ宰相の政略と十年前の思い出話を聞いて幕を閉じた。弟アルスにも王宮内で軽く挨拶を済ませた。次は、ルセルの母ローズと曾祖母エトワールへの挨拶のため、ルキシア地方のターウェ領に向かう。

 ルキシア地方にはルセルが住んでいたブーエ領もある。途中立ち寄り、ブーエ男爵への挨拶とルセルの掘っ立て小屋の片付けを行う予定だ。


「マリーはどうしているかな」

 窓の外に広がる小麦畑を見ながら、ルセルは小さく呟いた。ブーエ領を出てきたのは、まだ一週間程前のことだ。目まぐるしく変わった環境のせいで、ブーエにいたことが遥か昔に感じられる。

 今、乗っている馬車は王室の馬車で、華美ではなく乗り心地の良い立派な馬車だ。御者席には何故かケビンが座り、ルセルの向かい側には何故かケビンの妻のマリーが座っている。


「どうされましたか?」

 ルセルに応えて、向かいに座るマリーが口を開いた。


「あなたのことではありません。私の知人にマリーという名の女の子がいて・・・」


「失礼を致しました」

 マリーはぺこりと頭を下げる。


「いえ、私の方こそ」


 ケビンの妻マリーは、色白で明るい茶色の髪と瞳だ。その髪はふわりと軽やかなウェーブがかかっている。目立つ容姿ではないが、いつも口角が上がっているからか、丸みのある輪郭からか、優しく気立ての良い印象だ。礼儀正しく、サムスが褒めていただけある。


「ウォール夫人の故郷はどこですか?」


 ルセルの質問にケビンの妻マリーは一瞬何を問われたか分からない。

「あっ、私の。失礼致しました。私の故郷ですね」

 それもそのはず、マリーは「ウォール夫人」などと呼ばれたことはない。ルセルがリース王子と突然結婚した一週間前の同じ日に、マリー・ドナはケビン・ウォールと突然結婚したのだ。二人は幼馴染で、ケビンは行方の分からなくなったマリーを探して故郷を離れ、あちこちの都市を訪ね歩き、王都まで来たのだ。


「私達の故郷はメリッサです」

 マリーは、ルセルが夫ケビンの知り合いであることを考慮して「私達」と答えた。


「ああ、養蜂が盛んな地域だね」

 リース王子が話しを繋いだ。


「今頃、アカシアの花が美しいでしょうね」

 ルセルは、アカシアの黄色い花がたわわに咲いている様を想像してうっとりとして言った。

「見に行くかい?」

 リース王子が問う。


「また来年行きましょう」

 

 何気ないルセルの言葉に、先の約束が出来る喜びを感じてリース王子が微笑んだ。


 リース王子の甘やかな雰囲気に、関係のないマリーが照れて俯いた。ルセルはその笑顔を十歳の王子と重ねながら、これから過ごす時間の中で、何度でもこの笑顔が見られるといいと思った。


「ここらで一度休憩しましょう」

 馬車がハーケン領を抜け、ブーエ領に入った所でケビンが御者席から言った。馬車は、一面の小麦畑の傍にある馬車用の休憩所に停まった。ここまで来ればブーエ男爵邸まで、あと少しだ。


「今回は本当に助かりました」

 馬車を降り、座りっぱなしで硬くなった手脚を伸ばすために小麦畑を眺めながら立っていたルセルに、ケビンがおもむろに頭を下げた。

 以前のケビンなら「世話になったな。ありがとよ」と言うところだ。王族に対するにしては、多少砕けた物言いだが、ケビンも大分言葉遣いが丁寧になった。サムスにしごかれているのだろう。


「何のことですか?」

 ルセルは何のことか分からず問い返す。


「今回の御者の仕事のことです。サムスの旦那とルセル妃殿下で、御者の仕事を回して下さったでしょう。お陰で、新婚旅行中も給金が貰えます」


「ああ、そのことですか。こちらこそ、御者を引き受けてくれてありがとう。ケビンが引き受けてくれなければ、近衛騎士がゾロゾロ着いて来て、王都を出るまでパレードをさせられるところでした」


 ルキシア侯爵やマスカーニ宰相、そして国王陛下は、結婚のお披露目として、市街地だけでも屋根なしの豪華な馬車で手を振りながらパレードしての里帰りを提案した。それをルセルとリース王子は、御者も馬車も手配済みで、非公式の里帰りをすると言い訳して辞退したのだった。


「この馬車をそのままケビンの里帰りに使ってもいいんですよ」


「滅相もない。こんな上等な馬車で田舎に帰ったら、どっから盗んできたかと大騒ぎになります。お願いですから、ルキシア侯爵邸の従僕用馬車を貸して下さい」

 ケビンは、ターウェに着いたら、ルキシア侯爵家の簡素な馬車を借りてマリーと二人で故郷メリッサに向かう。二人がメリッサで結婚の挨拶を済ませて再びターウェに戻って来たら、そこで王家の馬車に乗り換えてルセルとリース王子を乗せて王都に戻る予定だ。今回の仕事は、旅暮らしで蓄えのないケビンへのささやかな結婚祝いだ。


「さて、そろそろ行きましょう」


 ケビンに促され、馬車はブーエ男爵邸に向かって出発した。周りの景色が緑の小麦畑一色になり、ルセルはブーエに帰って来たと実感した。ブーエで過ごした三年間はルセルにとってあっという間の短い時間だったが、穏やかで静かな日々だった。


 馬車はブーエ男爵邸に着き、ルセルとリース王子をブーエ男爵夫妻が出迎えた。ウォール夫妻は、厩を借りて馬を休ませ、屋敷の裏庭で休憩だ。


「リース殿下、ルセル妃殿下、よく来て下さいました」

 ブーエ男爵も男爵夫人も笑顔で迎えてくれた。


「マリー嬢は不在ですか?」

 ルセルが尋ねると、返って来た返事は意外なものだった。


「いやぁ、それが・・・」

 ブーエ男爵が口篭っていると、男爵夫人がにこやかに話し出した。

「それが、娘は王都から帰って来るとすぐ婚約者が迎えに来て、あちらのお宅に行ったきりなんですよ。もう家には戻って来ないと思いますわ。私もそうでしたから」


 そんなはずはない。ルセルは、口から飛び出そうな言葉を必死におさえた。

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