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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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43 トレイズ大橋の英雄

「それで、ルキシア侯爵の引退とトレイズ大橋の復旧と何の関係があるのですか?」


 リース王子の問いにマスカーニ宰相はまるで自分の子供を自慢する親のように嬉々として答えた。

「いいかい?ガーシュウィン魔導師はカラバ王国の恩人であり英雄なんだよ!」

 マスカーニ宰相は、自分の言葉に酔うように芝居がかった口上を続ける。

「10年前、カラバは自然災害が続いて小麦自給率が急激に下がり、ファトムルーゼに大きく頼った。その当時、ファトムルーゼとカラバを繋ぐ食糧の搬入ルートはトレイズ大橋だけだった。そこへ、命綱とも言えるトレイズ大橋の崩落事故だ。カラバ王国の国民が騒然となる事態を、一人の魔法使いがあっという間に収めてしまった。だから、ガーシュウィン魔導師はカラバの恩人であり英雄なんだよ。ファトムルーゼでは、ガーシュウィン魔導師の力は報道規制がかかり知る者は殆どいない。しかし、カラバは違う!その強大な魔力は皆の知る所だ。本来なら隣国の王家に大魔法使いが加わるなど、カラバにとって脅威にしかならない。しかし、ガーシュウィン魔導師なら話は別だ。何しろ、ガーシュウィン魔導師はカラバの英雄だからね」


 思った以上に話が大きくなっている。しかし、ルセルにはこの話を終わらせる術はない。


「今、カラバ王国は隣国の王子の結婚祝いに沸いている。カラバ王国の外交官は早速祝いの品と共に国王からの祝辞を届け、おまけにカラバとファトムルーゼ間の通商条約を今後十年の間、我が国に利のある形で改訂したい旨を申し入れてきた。つまり、ガーシュウィン魔導師がファトムルーゼ王国の中枢にいる限り、我が国は安定し繁栄するとカラバ王国に判断されたんだ」


 仕方なくルセルは口を開く。

「つまり、父もマスカーニ宰相も、私を王家に囲い込みたいということですね」


「いやぁ、囲い込むなんてとんでもない。ただ、いてくれるだけでいい。交易が安定して税収が潤う。ルキシア侯爵も今なら楽に引き継いで引退できる。それだけだ」


「あちこち、自由に旅をしたり、好きな場所に居を構えるのはナシということですね」

 ルセルが大きくため息をついた。


「いや、どこで何をしても構わないさ。国内を周る時も、他国を周る時も『ファトムルーゼ王家の第三王子夫妻』であることを公にして欲しいだけだ。たまに、その大きな魔力を少し披露して善行を行なってくれても構わない」


 ルセルが再び大きくため息をついた。周囲の人々と良い関係を築くために自分の身分を隠して生活していたというのに、これからはそれもできないのか・・・。


「お話は分かりました。マスカーニ宰相閣下、本日はこの話をするために、わざわざこちらへいらしたのですか?」


 ルセルの問いにマスカーニ宰相の顔がぱっと明るくなる。

「いいや、違う!」


 違う?他に何かあるのか?ルセルは身構える。マスカーニ宰相の美しい顔が更に輝いた。

「私はね、ガーシュウィン魔導師のファンなんだ!だから、この機会に一目会いたくて馳せ参じたのさ!」


「ファン?」

 ルセルもリース王子も眉をしかめた。


「そう!ファンなんだよ」

 マスカーニ宰相はにこやかに言い放った。

「十年前、私はなり立ての文官だった。台風が近づき、トレイズ大橋の様子を見に行ったんだ」


   ******************


「マスカーニ、悪いがトレイズ大橋まで行って様子を報告してくれ」

 迫る台風に、マスカーニの上司が指示を出した。


「これから暴風雨ですよ。雨が止んでから行きたいなぁ」

 言いながら、マスカーニは雨避けのコートに袖を通す。状況を察して一刻も早く現場に到着する必要性を理解しているからだ。


「雨が止んでからでは手遅れになる。とにかく、少しでも異変を感じたら私に連絡するんだ。連絡要員として魔導士を一人同行させろ。手続きは分かってるな。宮廷魔導士団の受付だ」

 

「了解。こんな雨でもトレイズ大橋はカラバに行く荷馬車で大混雑しているに違いありませんね。異変がなくても雨が止むまで通行止めにしますよ」

 マスカーニはトレイズ大橋周辺地図とトレイズ大橋の設計図を手に取り、さっと目を通しただけで完璧に記憶した。マスカーニが優秀な所以だ。


 若い宮廷魔導士ハランを従えて、マスカーニはトレイズ大橋に向かった。

 トレイズ大橋の通過ゲートに馬車を寄せ詰所の小さな小屋の中に入る。中には、窓越しに橋を渡る馬車の御者と話す役人がいた。カラバに向かう馬車が通過ゲートの前で行列を作っている。

「馬車で連れて来たけど、魔法で移動した方が早かったかな?」

 マスカーニがハランに聞いた。

「冗談言わないで下さいよ。移動魔法なんて魔導師団長かスワン先生でないと出来ませんよ」


「そうかぁ。スワン先生は出来るんだね。凄いなぁ」

 マスカーニの口調は軽い。しかし、目の端で不自然に揺れる橋を捉えていた。川の真ん中で橋を支えている太い脚が奇妙に歪んでいる。

「とにかく、通行止めにしよう」


 橋で入国管理をしている役人に、通行止めの手配を指示して、マスカーニはハランに質問した。

「この橋が崩落したら、魔法でどう対処する?」


「えっ?私は連絡要員ですから、団長に魔法で救援を依頼するだけですよ」


「じゃあ、魔導士団長ならどう対処すると思う?」


「・・・団長なら、転落した馬車を一台、魔法で持ち上げるでしょうね」


「壊れた橋はどうする?」


「馬車一台が限界ですよ。橋は後回しです。崩れかけた橋の上に馬車が何台いても、一台持ち上げるのが精一杯ですよ」


「魔導士がみんなで力を合わせても無理かい?」


「魔力は合わせられません。団長が五人いれば一人一台ずつで五台の馬車を運べるでしょうけどね。二人の魔導士が一つの物を右と左で分担して支えることは出来ますが、それも力加減が難しいんです」


「ふうん」

 平静を装っていたが、マスカーニは魔法についてもっと勉強しておけば良かったと後悔した。魔法というものは、あらゆることに万能だと思っていたのだ。

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