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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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42 マスカーニ宰相

 ファトムルーゼ王国の第三王子リースの電撃的結婚は、国王陛下と謁見したその日の昼に国民に周知された。また、その晩、リース王子の家族、つまりは王族の人々との晩餐で、ルセルがその一員に加わったことを報告し挨拶した。そして、王宮で徴税官として働くルセルの父サミュエル・ガーシュウィン・ルキシア侯爵には、その翌日に挨拶に行くことになった。


 王宮内の執務エリアには、ルセルの父サミュエル・ガーシュウィン・ルキシア侯爵も執務室を与えてられている。王宮が広いとはいえ、リース王子の部屋に仮住まいするルセルには目と鼻の先。先ぶれを出したものの仕事人間の父のこと、碌に話も聞いていないだろうと、リース王子を伴ったルセルは、何の期待もなく父サミュエルの執務室のドアを叩いた。ところが驚いたことに、サミュエルは接客用のソファに腰を下ろし、その脇にはお茶の用意を万全に整えて侍女が待機していた。


「待っていたよ」

 サミュエルは、ルセルが見たこともない満面の笑みで二人を迎えた。

「ルキシア侯爵、この度は何の相談もせずルセルと結婚したこと、申し訳なく・・・」

「いやいや、そんな堅苦しい話はいいいよ。ともかく、おめでとう」

 ルキシア侯爵は唖然とする二人に椅子を勧める。二人が座ると、侍女が手早くテーブルにお茶とお茶菓子を並べた。

  

「・・・・・」

 ルセルは、にこにことする父サミュエルを不審に思うが、ただ黙ってお茶に手をつけた。そこへ、ノックもなくドアが開き、ファトムルーゼの若き宰相閣下マスカーニが入って来た。

 ルキシア侯爵が六十歳を超え、痩身白髪で静かな佇まいを醸し出しいつ引退してもおかしくないのに比べ、若干二十八歳の宰相閣下は、美しく艶やかな金髪に鼻筋の通った整った顔、語り口も身のこなしも軽やかで若さに溢れている。

「はっはっはっ。ガーシュウィン徴税官、喜ばしいことだね」

 ファトムルーゼ王国は、エドヴァルド国王が治世を行うが、その補佐と監査役を兼ねてマスカーニが宰相に任ぜられている。マスカーニ宰相は、軽い見た目に反して目端が利き、あらゆる学問に通じている天才肌、加えてコミュニケーション能力の高い男だ。


「君が、リース殿下の花嫁、ルセル嬢だね」

 マスカーニはさっとルセルに向き、うやうやしく頭を下げる。

「わたくし、ファトムルーゼ王国宰相のジョルジュ・デュオ・マスカーニと申します」

 美しい顔、美しい所作、美しい声、この美しい男に見つめられれば、並の女性なら瞬く間に虜になるだろう。

 しかし、ルセルの心中はこうだ。


『何とも胡散臭いな。気を引き締めて掛からないと』


 何しろ、リース王子の誕生日パーティーでは国王陛下に計られた。その入れ知恵はスワン先生だったが、誰の悪巧みであっても関わりたくはない。


「マスカーニ宰相、お初にお目に掛かります。ルキシア侯爵が娘、ルセル・・・」

 ルセルは言葉を止めた。

「我が妻、ルセル・ファトムルーゼだ」

 リース王子がルセルの肩を抱き訂正する。


「はっはっはっ。まだ第三王子妃になったばかりだものね。仕方ない。これからイヤでも慣れるさ」

 いいながら、マスカーニ宰相は誰に勧められるでもなく、ソファに座った。

「これで、ガーシュウィン徴税官も引退だ。大手を振って故郷に帰れる。ご子息アルス殿は既に財務長官だ。後釜は決まっているのか?」


「ああ、副官のモートンを長官に推すよ。みんな異論はないだろう」


「お父様は引退されるのですか?」

 ルセルが問う。


「ああ、何もかもルセルのお陰だ。いや、二人の結婚のお陰だよ」


 ルセルもリース王子もルキシア侯爵の言葉の意味が分からない。


「説明が必要なようだね」

 マスカーニ宰相が落ち着いた様子で話し出す。

 多分、この説明のためにマスカーニ宰相はここに来たのだ。

「リース殿下、我が国に隣接する大国と言えばどこだい?」


「北西にあるカラバ王国です」


「そうだね。カラバとファトムルーゼの間では、どのような交易が行われているかは知っているかい?」


 まるで、口頭試問だなとルセルは思う。

 リース王子は、淡々と答える。

「主に大国のカラバが自給できない食糧をファトムルーゼから輸入しています。品目は、生鮮食品から加工品まで多岐に渡り100品目程。我がファトムルーゼは、カラバの建築や物作りの技術を取り入れる為に技術者を招き入れたり、雇い入れたりしています。他は、我が国で採れない宝石類も輸入していますが、宝飾品は贅沢品、嗜好品なので需要は高くありません」 


「そうだね。では、10年前に起こった国境に掛かる橋の崩落事故については知っているかい?」


「はい。カラバとファトムルーゼを繋ぐ橋の中でも最も大きく古く、流通の要になるトレイズ大橋が老朽化に加えて台風の直撃を受け崩落しました。死傷者はゼロ。橋は一週間後に新設しています」


 リース王子の答えに、ルセルは十年前のことを思い出す。そんなこともあったなと。


「トレイズ大橋はどうやって一週間後に新設できたのかな」


「それは・・・」

 リース王子は当時八歳。事故についても王宮の座学で伝え聞いただけだろう。詳細は分からない。


 そこで、ルセルが答えた。

「宮廷魔導士団がその力で、現場での救護活動、負傷者の治癒、崩落した橋の撤去と再建を行なったからです」


「表向きはね」

 マスカーニ宰相が言った。 

「実際は違う」

 マスカーニ宰相はにやりと笑った。

「その日、宮廷魔導士団は別件で動いていた。代わりに召集を受けたのはルセル・ガーシュウィン魔導師だ。そして、それはファトムルーゼ王国にとっても事故に居合わせた人々にとっても幸運な事だった。ガーシュウィン魔導師はその強大な魔力で、たった一人で橋周辺の暴風を遮断し崩れかけた橋を元に戻し川に落ちた馬車や人々を救出し一週間後には新たに強靭な橋をかけた」

 マスカーニ宰相はルセルからリース王子へ視線を移した。リース王子は新たに知る事実に驚いてはいるが、ルセルの力は当然と受け止めていた。

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