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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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39/50

39 二人のマリー

 ルセルがあまりにも落ち着いているので、ケビンは拍子抜けだ。

「ありがとう。おどろかないんだな」


「まあね」

 ルセルがさらりと答える。


 ルセルの後ろにいたリース王子がルセルの脇にすっと並んだ。

「初めまして。ケビンさん。結婚おめでとう。私は、リース・トレイス・ファトムルーゼ。私達も先程、結婚したんですよ」

 リース王子は、きらきらした王子様スマイルで何気なくケビンを威嚇しながらルセルの肩を抱く。


「ファトムルーゼって、おい、それじゃ、ルセル…」


 やれやれ、このまま知らせずに済ませたかったのに言わざる得ない。ルセルは仕方なく自分の現状を説明する。

「こちらは、第三王子のリース・トレイス・ファトムルーゼ殿下、私の・・・夫です」

 ルセルは、慣れない言葉に羞恥の念をぬぐえないまま、リース王子を紹介する。


「ルセルが王子様と結婚!?成程ね。どおりで、今朝はがちがちに緊張してたのか。はははっ。おめでとう」

ケビンは、安心したような笑顔になった。


「ケビンは、このまま、王都に残るのですか?」

 ルセルが問う。


「ああ、マリーが…」

 ケビンがしまったという顔をする。


「私がどうしたの?」

 ほんの少し落ち着きを取り戻したマリーが、ケビンに詰め寄る。


 マリーが詰め寄った分だけ後退したケビンは、申し訳なさそうに答えた。

「おれの女房もマリーって名前なんだよ。その…あいつが王都で働いてるから、おれはあいつの家に転がり込んで、このまま王都で職を探すよ」


「何?私と同じ名前の女に一目惚れ?今日、街で見かけて口説いたわけ?」

 マリーは、とにかく何でもいいからケビンに文句を言おうと、責め口調で問う。


「マリーは、幼馴染みだよ。街に働きに出て、連絡がつかなくなって、ずっと探してたんだ」


「ずっと、探してたの?じゃあ、何で私と付き合ったの?」


「付き合ったって…マリーはおれの恋人じゃないだろ。マリーには、ずっと恋人がいるし、今はアレンの婚約者だ」


 言われてマリーは言葉に詰まる。その通りだ。自分には婚約者がいる。そして、ケビンとの関係は、お互いを束縛しないこと詮索しないことで成り立っていた。

 マリーの眉は下がり今にも目に涙が浮かんできそうだ。しかし、まだ泣くわけにはいかない。


「でも、愛してるって、いつも、私のことかわいいって…」


 マリーは、最後の希望にすがる。


「そりゃあ、女は褒めるのが礼儀だろう?『愛してる』もキスも抱擁も、挨拶みたいなもんだ」

 ケビンは、悪気なく言う。しかし、ケビンは、ルセルには、かわいいだの愛しているだの言わなかった。多分、目端の効くケビンには分かるのだろう。誰が、その言葉をキスを抱擁を必要としているのか。


「でも、おれの女房も、それを誤解しておれから離れたって言ってたから、もう、女房以外には言わないよ。すまなかったな、マリー」

 ケビンは、全て話すことができて、気持ちが軽くなったようだ。マリーにも、さっぱりした口調で詫びた。

 

 マリーは、涙をこらえて馬車に乗り込みバタンと勢いよく扉を閉めた。そして、馬車の中で恐ろしく大きな声でおいおいと泣いた。

 ルセルは安心した。マリーが失恋してこんな風においおいと泣くときは、その恋に見切りをつけ、次の恋に進む合図だからだ。


「ケビン、もし迷惑でなければ、レナード商会で働けるよう紹介状を書こう。ケビンは接客に向いている。いい店員になると思うよ」

 ルセルが言った。


「そりゃあ、有難いこった。よろしく頼むよ」

 ケビンが感謝の意を表してルセルの手を握ろうとすると、リース王子がすっと前に出て、ケビンを遮った。


「ああ、すまない」

  ケビンは察して、さっと手を引っ込めた。


「紹介状は不要だよ」

 さっきから、ブーエ男爵の馬車の後ろに待機していたレナード家の馬車の前から、サムスがやって来てルセルに言った。


 サムスは、ケビンの方を向いた。

「昨日は、どうも。私はレナード商会の代表のサムスだ。君さえ良ければ、早速明日からでもうちに来てくれ」


「そりゃあ、嬉しい申し出なんですが、来週からじゃだめっすかね」

 ケビンが遠慮がちに言う。

「できたら、女房と一緒に実家に結婚の報告を兼ねて新婚旅行に行きたいんすよ…それで、図々しいお願いなんすが、おれの女房ってのが、レナードの店の帽子屋の売り子のマリーで……」


「ああ、帽子コーナーのマリー・ドナか!真面目で接客も丁寧な働き者だ。そうか、君はドナと結婚したのか」

 サムスの顔がほころんだ。そして、少し考えてから提案した。

「どうだろう、ドナが明日から急に一週間休むと、うちも困るんだ。君は明日から一週間は研修として午前中はうちに顔を出してくれ。研修中の給料も払おう。こちらは、一週間後に二人一緒に休めるよう調整する。どうだい?」


「研修って、何するんっすか」

 ケビンは少し警戒している。


「主に言葉遣いを学んでもらうよ。それから、君の配置を考えるために、店の中を少し見てもらう」


「店を見る?」

 ケビンは言葉の意味を捉えかね、きょとんとする。


「物を売る商売だからね。少しでも君が興味を持てる商品の担当にすることが、売り上げ向上には外せない条件なんだよ」


「へえ、商売って面白いんだな」


 何気ないケビンの言葉に、サムスの顔がぱっと輝く。

「そう、そうなんだ!物を売るというのは…」


 商売に人生を捧げているサムスは、商売の話となると歯止めが効かない。勢い込んで商人論を展開しようとするサムスをアゼリアが横からそっと(たしな)めた。


「続きは明日、店でゆっくり説明して差し上げたらよろしいですわ」


「・・・そっ、そうだな。すまないケビン。また明日の朝、レナードの店に来てくれ。ドナと一緒に出勤するといい。私の仕事部屋まで案内してもらいなさい」

 暴走しかけた自分を慌てて正し、さっと右手を差し出しケビンと握手を交わした。

「明日から、よろしく」


 サムスとアゼリアは、帰りの馬車の御者のことを簡単にルセルと打ち合わせると、レナード家の馬車で去って行った。

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