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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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36/50

36 踊ろう

 リース王子は、ルセルを前にして、どう言い出したものか、躊躇(ためら)っていた。何しろ、ルセルが踊るはずがないと思っている。しかし、「はい」という言葉が聞きたいのだ。どうせ断られると覚悟してみても、1%の希望に縋りつくのだから、申し込んで断られれば、やはり傷つくだろう。


 一方、ルセルは、目の前に立ったリース王子に、珍しく緊張感が漂っていることに気付く。家庭教師をしていた時、リース王子がお願い事を口にするときの、あの、懐かしい緊張感だ。ルセルは、その懐かしさに、くすりと笑う。


 リース王子の目が大きく見開かれた。


 ルセルは、何事かと思う。

「どうしたの?」


 ルセルの問う言葉に、リース王子は呟いた。

「やっと、笑った・・・」

 リース王子が安堵の混じった笑顔で、ルセルを見つめた。


「リース殿下も・・・」

 その笑顔にルセルも安堵し、二人とも笑顔になった。


「僕は今日、ずっと笑顔だろう」

 リース王子の言葉遣いが、少し砕けた。


「そう、ずっと作り笑い」

 ルセルが揶揄(からか)うように笑う。


 言いながら笑うルセルにリース王子の緊張がとけた。身構えることなく、思ったことが口からそのままするりと滑り出た。昔のように、朗らかに勢いよく。


「ルセル!踊ろう!」


 そして、言いながらルセルの手を取った。


 見慣れぬ若者の笑顔に、声に、八年前のリース王子が重なる。ルセルは、懐かしさと、嬉しさと、そして、自分でも信じられない位の(いと)おしさが湧き上がってくるのを、全身で感じた。


 二人は、立っていた空中より、更に高くふわりと浮かんだ。

 ルセルは、踊るつもりはなかったが、空中だ。ステップを踏まなくても、手を取ったリース王子に引っ張られ、踊るようにくるくると回る。

 くるくると回る楽しさに、ルセルもリース王子も笑う。


 このまま、ずっと手を取っていたい。このまま、ずっと笑い合っていたい。リース王子もルセルも同じ気持ちでいた。


 音楽が止むと、空中で踊っていた誰も彼もが静かに床に着地した。もちろん、ルセルとリース王子もゆっくりと着地した。


 ダンスは終わったのに、リース王子の手は、ルセルの手を離さない。

「リース殿下?」

 問いかけるようにルセルはリース王子の名を呼んだが、ルセルもこの手を離すことが躊躇われた。このままずっと手を繋いでいたい気持ちがしていた。


 リース王子が満面の笑みで言った。

「ルセル、結婚しよう!」


 ルセルは、思ってもいなかったリース王子の言葉に唖然としたが、何故だか躊躇わず口から言葉が出た。


「ああ、うん」


 自分の口から思わずぽろりと溢れた返事の言葉に、ルセルは呆然とした。


「ルセル!」

 リース王子の笑顔が更に喜びで輝く。

 そして、呆然とするルセルから手をほどいて、ルセルをぎゅっと抱き締めた。


 ルセルはもう、自分の口を信用しない。理性はどこへ行った?分別は?相手は王子で、27歳も年下で、教え子だ。八年ぶりに再会した途端、求婚を受けるなんて、あり得ない!

 ルセルは、リース王子の腕の中で、事態を見極めるため、じっと成り行きを伺う。


 広間は明るい光に満たされ、天井から花びらが降り注ぎ、いつの間にか会場にいた人々は少し離れた場所から二人を取り囲んでいた。


 スワン先生がいつの間に、二人の隣に立っている。

「リース殿下、ルセル、婚約おめでとう」

 会場から拍手が沸き起こる。


「ありがとう。でも、あの…そうではなくて」

 リース王子は、スワン先生の祝いの言葉に口籠る。

 

 でも?今のは間違いか?場の勢いか?リース王子の言葉に会場全体が困惑する。

 

「ベルリオーズ司教」

 リース王子が、取り囲む人々の中から司教を見つけて呼びかける。

 リース王子に呼ばれ、人々の波が自然に左右に割れたその中央奥から、穏やかだが威厳ある白髪のベルリオーズ司教が姿を表した。


「ご婚約、おめでとうございます。リース殿下」


「ありがとう、ベルリオーズ司教」

 ベルリオーズ司教の言葉に応えるリース王子の傍らでルセルは無言で成り行きを見守る。

 リース王子は、ルセルの肩を抱き寄り添ったまま言葉を続ける。


「でも、婚約ではなく、このままここで結婚の誓いを立てたいんだ」


 そうだ、確かにリース王子は「結婚しよう」と言った。婚約ではない。結婚だ。

 周囲はどよめき、ルセルはもう思考停止寸前だが、ベルリオーズ司教は落ち着いた様子だ。

「結婚の誓約書をここに出して頂けますか」


 リース王子がぱちんと指を鳴らし、自分の手に一枚の紙を現した。

「結婚誓約書は、ここに」

 サインをするための台とペンも現れた。


 結婚誓約書も、ペンも、台も、教会から魔法で移動させたのだろう。移動の魔法は対象物がどこにあるか分かれば取り寄せは簡単だ。だが、戻すのは難しい。送る先に障害となる物があれば事故が起きる可能性があるからだ。


 ベルリオーズ司教は、リース王子とルセルの正面に立ち、誓いの言葉を読み始める。


「リース・トレイス・ファトムルーゼ、汝はルセル・ガーシュウィン・ルキシアを妻とし、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、死が二人を分かつまで、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか」


「誓います」

 リース王子は、凛とした声でベルリオーズ司教の言葉に躊躇(ためら)いなく答える。


 ここまで来たら、ルセルも腹を括らなければならない。まさか、衆人環視の場でノーと言うことも、逃げ出すことも出来ない。

 いや、自分の魔力なら逃げることは可能だが、逃げてどうする。それに、ノーと言うそれは本心か?

 ルセルが自問自答している間に、ベルリオーズ司教の言葉が今度はルセルに向かう。


「ルセル・ガーシュウィン・ルキシア、汝はリース・トレイス・ファトムルーゼを夫とし、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、死が二人を分かつまで、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか」


 ベルリオーズ司教の言葉が終わっても、ルセルの返事はすぐには返ってこなかった。

 周囲の人々が固唾を呑んで見守っている。

 ルセルは、心の中で先程の誓いの言葉を反芻していた。

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