28 同行者達
そんなわけで、アゼリアの提案によって、レナード夫妻はルセルと共にリース王子の誕生日パーティーに出席することになった。
ルセル、マリー、アゼリア、サムスの一行は、レナード家の立派な馬車に乗り込み、現在、王宮に向かい移動中である。
マリーは、目の前の見知らぬ二人、つまりアゼリアとサムスの存在に、居心地の悪さを隠せない。
せっかく、大好きなケビンが操る馬車で、お目当てのリース王子のいる王宮へ行くことになっていたのに、どうして、ルセルの友人だという自分の親と同年代の二人組と一緒に馬車に揺られなければならないのだろう。マリーは、そう思っていた。
しかし、レナード家の立派な馬車は、マクシマ家の馬車より格段に大きく、中は広く、椅子はふかふかで、乗り心地は抜群である。
ケビンは、パーティーが終わる頃に、王宮まで迎えに来る予定である。
「紹介します。私の連れのマリー・マクシマ・ブーエ男爵令嬢。こちらは、私の友人のサムス・レナードとレナード夫人アゼリア。今日は、王宮に不慣れな私達の為に案内をしてくださいます」
ルセルの言葉に、マリーは覚えたばかりの挨拶を始めて披露する。
「ブーエ男爵が娘、マリー・マクシマです。お目にかかれて光栄です」
宿で着替える予定だったルセルとマリーだが、レナード家の馬車に乗せられ、レナード邸に案内された。そして、アゼリア付きのメイドに着替えもヘアメイクもメイクも、みんな整えて貰い、支度が出来た所で先程の挨拶を交わし、馬車に乗り込んだのだった。
「ルセルが、こんなに若いご令嬢と親しくしているなんて意外だわ。マクシマ嬢、普段からルセルと付き合いはあるのかしら?」
馬車に揺られながら、アゼリアはマリーがルセルと一緒にいるに値するか、値踏みしている。
マリーはアゼリアの正面に座り、隣にはルセル、ルセルの正面にはサムスが座っている。
アゼリアの質問に、マリーは慌てて答える。
「はい。三年前から、時々ルセルの家に行って相談に乗って貰っています」
「あら、呼び捨てなんて、随分仲良しなのね」
アゼリアは澄ました顔で棘のある言葉を言う。
「えっ!あっ!失礼しました。ガーシュウィン魔法子爵は…その、あの…」
マリーは恐縮し、言葉に詰まった。ルセルが助け舟を出す。
「私とマリーが出会ったのは三年前だけど、ガーシュウィン魔法子爵の称号は、マリーがパーティーに参加したいと言い出した二週間前に初めて明かしたんだ。ルキシア侯爵家の出身というのは、昨日、サムスにバラされたばかりだよ」
アゼリアは、仕方ないわね、という表情になった。
「ルセルは相変わらず秘密主義ね。でも、マクシマ嬢、ルセル程の魔法使いなら、当然、地位も名誉もあるものだわ。ルセルに限らず、魔法使いに出会ったら、無礼を働かないよう最初から気を付けて接するのが身のためよ」
アゼリアは、にこりとして見せているが、目が笑っていない。ルセルへの無礼に内心腹を立てているようだ。
「はっ、はい!」
日頃、能天気なマリーも、アゼリアの忠告に冷や汗をかいている。
「アゼリア、私は、マリーにそれらしい魔法は何も見せていないよ。アゼリアとサムスだって見たことないのに、マリーに見せるわけがないだろう?」
ルセルが言い訳をする。
「それもそうね」
いつものマリーなら、ここで「ルセルって、そんなすごい魔法ができるの?何で教えてくれなかったのよ!見せて見せて!」となるはずだ。いや、内心はそう思っているだろう。しかし、目の前のレナード夫人に気圧されて一言も発することができない。
ルセルは、マリーの様子を横目で見ながら、アゼリアならマリーの良い教育係になりそうだと思う。しかし、レナード家は今や王都一の商家である。爵位はなくとも、財力ではマクシマ家をはじめとする低位貴族を軽く凌駕する。しかもアゼリアは元は伯爵令嬢だ。マリーのような恋愛特化型の怠惰な娘の教育係など、金を積まれてもやらないだろう。
ルセルは、マリーの良さは物怖じせず自由奔放なところだと思っている。しかし、大方は顰蹙を買うだろう。高位貴族の令嬢の礼儀作法は完璧だ。マリーのような低位貴族の令嬢が社交界で礼を欠けば当然白い目で見られる。
ルセル、マリー、アゼリア、サムスの四人を乗せた馬車は、ようやく王宮入口の車寄せに馬車を付けた。マリーは俯いたままだし、アゼリアはマリーを冷ややかな目で見ているし、ルセルもサムスもやれやれと思っていた。
サムスが先に降り、アゼリアに手を差し伸べた。ルセルとマリーが馬車から降りる際は、レナード家の制服を着た御者が扉に回り込み手を貸してくれた。
ルセルは八年振りの王宮の記憶を辿った。こんなところだったろうか?いいや、いつもは来賓を迎える正面ではなく、東側にあるリース王子の住む居住区画に近い入口に回り込んでいた。ここから入るのは、三十年前に父ルキシア侯爵に連れられて王家主催のパーティーに出席して以来だ。
馬車の中では、アゼリアの正面からの視線に俯いていたマリーだったが、馬車を降りると王宮の大きさ、広さに感嘆の声を上げた。
「すごい、すごい、すごい!扉も柱も何もかも大きいし、中の広さと言ったら、すごい、すごい、すごい!」
「マクシマ嬢、王宮への称賛は結構だけれど、声を抑えて頂戴」
アゼリアがピシャリと冷たく言い放つ。
王宮の素晴らしさは、扉や柱の大きさや中の広さよりも、意匠をこらした造りにあるが、マリーの考えがそこに至らないのは、マリーの年齢、経験や趣味嗜好を考えれば仕方のないことだ。しかし、無関心よりはずっといい。ここまで連れてきた甲斐はあったとルセルは思った。
門扉のところでも馬車を一度止められ確認されたが、玄関口の前でも身元の確認と招待状の確認がなされた。
「レナードご夫妻と、ガーシュウィン魔法子爵殿、ブーエ男爵ご令嬢でお間違いありませんか」
玄関口で確認を行っていたのは、リース王子の執事リュデルだった。




