24 髪を切る
「君のきれいな髪を切るのは、もったいないなぁ」
ライデンは、すまなそうな表情だ。
「あら、私がチームに入るときに、卒業までの短期でも、私の魔力量なら『研究員でなく被験者としてチームにいてくれるだけで有難い』ってライデンが言ったのよ。今、役に立たなくて、いつ役に立つの?」
アゼリアの態度は、清々しかった。
みんなも、追試の準備について様々意見を交わし、気持ちを募らせていった。
ルセルは、みんなの自分に対する変わりない態度を見て、ここは、確かに魔法を追求する者達が集う場所なのだと安堵し、胸を撫で下ろした。
追試は、時間に余裕を持たせるため、休みの日に行われた。魔力検査機を六台用意し、一人の魔力量を三台の検査機で差異がないか確認する。二人ずつ行い、残る八人は手分けして検査と記録にあたる。研究室に美容師を二人呼び、髪を切って貰った後に再び魔力検査機で測定する。
これだけの作業だが、十一人が行うとなると、一日仕事だ。
ルセルとアゼリアの代わりに、学院に通うスコットの友人二人が髪を切る。アゼリアのデータは取れるかどうか分からないので、二人用意したのだ。
ルセルには、みんなの魔力が見える。以前、魔力検査機で魔力量1の者と5の者を見たことがあり、自分の目で見える魔力と照らし合わせて以来、魔力量数値を当てることが出来るようになった。
ルセルが目視した魔力量が、検査機のそれとどれだけ近いかも、今回は記録する。
午前に五人、お昼を挟み、午後に六人終えて三時を過ぎて実験は終了した。実験は、十分な広さのある会議室で行われた。記録の確認や片付けの前に全員で休憩を取ることにした。
みんなが一心地着いたとき、会議室に珍しい客が訪れた。
「やあ、皆さん、お疲れ様」
スワン先生が、軽やかな足取りで会議室に入ってきた。
みんなが同時に席を立ち、無言でお辞儀をした。スワン先生は、学院の学生と教師の中で最も魔力量があり、最も優秀な魔導師である。国に仕える宮廷魔導師団の団長と比べても遥かに優秀な存在であり、学院内で彼を尊敬しない者はいない。
「皆さん、どうぞお座り下さい。私の論文の追試をして下さったと伺っています。ありがとう」
美しい顔で皆に、にこやかに笑い掛ける。
「こちらにお座り下さい」
ライデンが席を勧める。
「ありがとう」
皆の注目を浴びながら、スワン先生は優雅に座った。
「ところで、ルセルの魔力目視を検査機の数値と比較する実験もしたと聞いているよ」
スワン先生は、報告が当たり前というように待っている。
レイブンが記録を探す。
記録が見つかる前に、ルセルが口を開いた。
「検査の結果、私の目視は、魔力検査機の数値と全て一致し、誤差がないことを確認しました」
「ほう、素晴らしいね」
スワン先生は嬉しそうだ。
「ルセル、私の魔力量の数値を今、言えるかい?」
ルセルは、躊躇った。
魔力検査機で測れる魔力量は20までだ。アゼリアは22。学生は1から20の間、教師は20から25の間だ。
しかし、スワン先生は90。ルセルも90はあると自覚している。そして、周囲の認識は「ルキシア嬢の魔力量はスワン先生と同程度」というものだ。ここで、スワン先生の魔力量を言うことは、自分の魔力量を公表することと同義である。
「スワン先生の魔力量は90です」
ルセルは、躊躇いがちに答えた。
凄い。ルセルは、みんなの言葉にならない動揺を感じる。
「うーん。惜しいなぁ。100あれば、きりが良かったろうにね」
スワン先生は、明るく、悔しそうに振る舞う。
「切った髪の方の魔力量は測定したのかな?」
「はい。被験者十一人、個別にデータを取っています。魔力量が多いほど、髪の魔力量も多いですが、全体の魔力量と髪の魔力量の比率は、魔力量の少ない者の方が髪の魔力量が大きくなっています」
ガウスが、テキパキと返事をする。
「おそらく、髪は魔力を蓄えるのに適しているのでしょう。魔力の少ない者は、体に魔力を蓄えるのがあまり上手くないわけですから、それでも髪には魔力が蓄えられている。反対に魔力の大きい者は、体が魔力を蓄えるのに適しているということですから、わざわざ髪にまで魔力をいきわたらせる必要がないのではないかと推察します。私見ですが、魔力量を40超えると髪にはほぼ魔力は蓄えられていないと思います」
レイブンが考察を述べる。
スワン先生は、満足そうにうんうんと頷いて聞いている。
「君たちは素晴らしいね。私の追試に加えて、新たな視点も実験に加えている」
みんな、スワン先生に評価され、嬉しそうである。スワン先生は、続けて質問した。
「レイブンの考察は、今日のデータをまとめれば確信に変わるのかい?それとも、更なる検証実験が必要かい?」
「検証できないと思います。魔力量の大きい被験者は、魔力を測れませんから…」
レイブンは申し訳ないという顔だ。
「ん?ルセルが見れば魔力量は測れるだろう。私が髪を切るよ」
スワン先生が気軽に言った。
「いえ、そんな、スワン先生の髪を切るなんて!」
みんな、口々に言った。恐れ多くて誰も出来ない。
「でも、私は髪に魔力が溜まると信じて髪を伸ばしていたからね。大して溜まらないのなら、髪はじゃまだから切るよ」
スワン先生は、朗らかに言い切った。
「スワン先生、発言をお許し下さい」
アゼリアが丁寧に間に入る。
「アゼリア、なんだい?」
スワン先生が優しく応える。
「ルセルにできるなら、スワン先生にもできますわね?」
「魔力目視のことかい?ルセルに少し指導してもらえば出来ると思うよ」
「なら、ルセルも髪を切りましょう」
アゼリアはルセルに向いて言い放った。
ルセルは、突然、自分に矛先が向きどきりとする。しかし、平静を装って言った。
「アゼリア、唐突だね。どんな意図が?」
「何カッコつけてるのよ。ほら見てよ、チームで長いのはルセル一人よ」
髪の短いアゼリアはルセルの目を覚まさんと快活に話す。
「みんな切ったわ。ルセルも切るのよ」




