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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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23 魔力を見る

「髪が伸びるのを待つってこと?」


 スコットと同級のマーシャが言った。マーシャは、女性にしては背が高く痩せていて、服装もパンツ姿だ。赤毛の髪は長いが、学院内には長髪の男性が多いために、しばしば男性に間違えられる。


「そう、魔力量を測定したら髪を伸ばして一年後にデータを取る」

 スコットは名案とばかりににやりと笑った。


 しかし、ガウスの同期、生真面目なハウゼントに一蹴される。

「追試は同じ方法でやらないと意味がない」


「それに、一年後の魔力量との比較だと、成長や訓練、心理面や環境面の因子を除外できない」

 レイブンからも指摘される。


「これを、追試したいのか?」

 ライデンがアゼリアに尋ねた。


 四年生目前になって研究チーム入りを希望してきたアゼリアは、本来ならチームに加えられることはない。それが許可されたのは、ライデンがアゼリアに一目惚れしたからだった。


 ライデンには、出来るだけアゼリアの希望を叶えてやりたいという欲求があった。


 ライデンに問われ、アゼリアは少しトーンダウンして答えた。

「そうではないけれど、私たちの研究の役に立つような気がして」

 アゼリアは、ライデンの想いに気付きながら、気付かぬふりをしている。


 アゼリアが同級のサムスを追って研究チームに入ったのは、既に周知の事実だ。そんなアゼリアのサムスへのアプローチに気付いていないのは、アゼリアに恋するライデンと、自分が女性に好意を持たれると思っていないサムスだけだった。


 サムスの思考の大半をしめているのは、卒業後に働くレナード商会のことだ。レナード商会はサムスの父が経営する地方都市の小さな店だ。サムスは、父からやがて受け継ぐことになる店の支店を増やし、王都の一等地に進出させようとする野心があった。


 サムスがルセルと親しくしているのも、友情も感じてはいるが、ルセルの魔力量と学識の高さを商いに結びつけたいと思っているからだ。


「合成魔力の研究に役立つ?」

 レイブンが関心を寄せた。


「そう、私たちは複数人の魔力を一つの大きな魔力にして、その力を使う方法を研究しているでしょう」

 チームの頭脳の中核はレイブンだ。レイブンがゴーサインを出せば話が早い。


 アゼリアはレイブンに向かって話を進めた。

「合成条件に魔力の質や測定値が近いものを設定したらどうかしら?」


「魔力量が同じなら合成できる?」


「魔力量が大きいと小さいものを吸収して利用できるとか?」


「新しい仮説を立てるってことでいいのかな?」


 マーシャ、セス、スコットが次々と口を開いた。


「私は…少し思い付いただけ。新しい仮説を立てるなら、皆さんでどうぞ」


 アゼリアは、研究の主導は別の人に任せたいと考えていた。あと半年で卒業だし、ここに残る意志もない。在学中にサムスの恋人になり、婚約できれば上々だ。サムスは、卒業したら家業を継ぐ。サムスが店主になるための修行中は、アゼリアも花嫁修行をし、三年程で結婚するのが理想的だ。


 ただ、アゼリアとサムスでは身分差がある。


 学院内では、身分階級は問われないが、アゼリアは伯爵令嬢だ。三女だから父親は好きにさせてくれるだろうが、サムスの親は難色を示すかもしれない。何故なら、メイドに何もかも任せきりの貴族令嬢より、気働きのする庶民の娘の方が商家の嫁としては使い勝手がいいに違いないからだ。


 アゼリアは、この研究チームにいる間に、自分がサムスにとって有用な存在であることを示したいと思っていた。


 ライデンチームの研究は、アゼリアの提案から、スワン先生の論文の追試をすることになった。魔力量のコントロールは合成魔力研究とも関わってくると考えたからだ。


「被験者をどう揃えようか」

 ライデンが思案する。


「ここにいる全員が髪を切ればいい。魔力検査機で数値が測れるから、人数は最小の十名でもデータ数としては十分だろう」

 レイブンが言った。


「おい、女性の髪を切るのか」

 ライデンが慌てる。


「私は構わないわ」

 アゼリアは快諾した。


「私もいいよ」

 マーシャも抵抗がないようだ。


 しかし、ルセルは言った。

「私とアゼリアは被験者にはなれない」


「どうして?」

 アゼリアが尋ね、他の八人も同じように疑問に思った。


「魔力検査機が、大きな魔力に耐えられないからか」

 レイブンがルセルを見て言った。


「大きいってどれ位?ルセルには確証があるのか?」

 サムスが喰いつくように聞いた。

 ルセルは、魔法学院の学生の中で最も魔力量が大きいと周りから思われている。魔力審査で、スワン先生はルセルを見るなり合格を告げたと噂されていたからだ。しかし、その量は誰も具体的には知らないのだった。


「私は、入学審査のときに魔力検査機を壊してしまった。アゼリアの魔力量は見れば分かる。検査機に示された上限値を超えているから、検査機は壊れないかもしれないけれど、正確に測れないことは確かでしょう」


「見れば分かる?」

 ルセル以外の九人が驚いた顔をした。


「ええ、分かるよ」

 ルセルは、下手を打ったと感じた。言わなければ良かった。しかし、一度始めた説明を途中で止めるわけにもいかない。

「自分の魔力量は感じるだけだけれど、人の魔力量は見れば分かる。スワン先生も見えると仰っていた…みんなの中に…誰か見える人はいない?」


 九人が九人、見えないようだった。アゼリアでさえ見えない。ルセルもそんな気はしていた。

 自分の魔力量は化け物じみている。もし、自分が他者から排除されることがあれば、それは、自分の化け物じみた魔力量を恐れた人々であろうとルセルは思っていた。


 だから、入学審査の日にスワン先生の魔力量を見て安堵した。躊躇わず声をかけて来たサムスを友として大事にしようと思った。そして、学院内で自分の魔力を誇示することだけは、決してすまいと固く決心していた。


 アゼリアが言った。

「私は切るわ。だって、ルセルに魔力量が見えるなら丁度いいでしょう。それに、髪を切れば検査機で測定できる範囲になるかもしれないわ」

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