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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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22 魔法使いたち

 四年生がスタートする頃、アゼリアはルセルとサムスが所属する研究チームの一員に加わっていた。


 毎日、一日の授業を終えると三人は魔法塔に向かう。

「図書館に寄ってから行くよ」

 ルセルがサムスとアゼリアに告げる。調べ物があるのは嘘ではないが、研究室に行く前に寄らなくてもいいような案件だ。しかし、サムスとアゼリアを二人きりにするために、ルセルは時々用事を作る。

 好奇心旺盛なサムスはルセルの用事でも付いてくることがあるが、校内の学校図書館はルセルが一人で行くことを好むのを知っているので、一緒に行くとは言わずアゼリアと共に魔法塔の研究室に向かう。場合によっては、アゼリアと二人喫茶室でお茶を飲み休憩してから魔法塔に向かう。


 四年生のこの時期だからこそ、サムスとアゼリアの会話は、卒業後の進路の話が多くなっていた。


「私は、家に戻って花嫁修業をするわ」

 アゼリアがはっきりと伝える。


「婚約してるの?ごめん、知らなかった。おめでとう」

 サムスが礼儀正しく応じる。


「いいえ、相手は決まっていないの。私が結婚したいと思っているだけ」

 アゼリアがにっこり答える。


「じゃあ、卒業したらご両親に縁談をまとめて頂くんだね」


「いいえ、学院で相手探しをしているの」


「へぇ。それって見合いじゃなく恋愛結婚ってこと?」


「そうよ。好きな人と結婚できたら嬉しいわ」


 なんともストレートな物言いだが、サムスは自分がその相手だということに気付かない。しかし、サムスは、アゼリアが男性と親しく話しているのを研究チーム以外で見たことがなかった。深く考えても仕方ない。サムスは、頭の中にアゼリアの卒業後の進路が「結婚」で、現在、恋人を探しているのだとインプットした。


 アゼリアはサムスの表情を伺い、手応えがなく内心がっかりしていたが、気を取り直してサムスの好む話題を振る。


「サムスは、いつも言っているように家業を継ぐのでしょう?」


「ああ」


「レナード商会では、今、どんな物を扱っているの?」


 商売のことを聞かれれば、サムスは立て板に水のごとく話し出す。研究室に着くまで嬉しそうに話を続けた。アゼリアは良い聞き手となった。




 ある日、アゼリアが古い論文を取り出して、チームのみんなに問いかけた。

「ねぇ、スワン先生のこの研究論文のことなんだけれど」


 ライデン率いる十人の研究チームは、授業の終わった放課後、アゼリアを含めた九人が集まっていた。


 魔法塔の二階にある研究室は、四十平方メートルほどの空間で、四枚建ての窓が外の景色を映しているものの、いささか暗い印象の部屋だ。部屋の中央に、丁度十人が着ける折り畳み脚の簡素な長テーブルがあり、それぞれが椅子に座っていた。


 サムスと一緒に最後に研究室に入ってきたアゼリアは、論文のことをみんなに問いかけてから、サムスの隣に座った。


「随分と古いものを持ち出して来たな」


 既に卒業して三年、研究一筋でチームリーダーのライデンが応えた。ライデンは、背の高い、がっしりした体躯で、魔法使いというより騎士団員と言われた方が納得するような男だ。しかし、長い黒髪を後ろに一つで結んでいる様は、いかにも魔法使いだ。


「魔法使いの体積と魔力量の相関関係についての論文だね」


 サムスがアゼリアからの論文の写しを受け取る。

 サムスは、入学して半年でルセルと共にライデンに勧誘され、チームに入った。この頃にはまだ、青年らしい痩躯で焦げ茶の髪を長く伸ばし、後ろに一つで結んでいた。


 アゼリアは、論文に目を通しているサムスを見つめてから、他の七人に視線を巡らした。


「今ではみんな、体積の多い方が魔力量が増えることは常識でしょう。髪や爪を伸ばしたり、場合によっては体重まで増やす人もいるけれど、論文発表後に追試された形跡がないのは何故なのかしら?」

 

「再現実験がされてないのか。なぜかな」

 サムスがつぶやく。他のメンバーもアゼリアの質問には答えられず首をひねる。


 静かにドアノブを回して、影のようにそっと研究室に入ってきたルセルが答えた。

「魔力量検査機の精度が信用できないからです」


 ルセルの答えに、二年生で最年少のセスが疑問を呈す。

「えっ、でも、魔力量検査機は入学審査にも使っているものでしょう?それが信用できないって・・・」

 セスのライトブラウンの髪は伸ばし始めたばかりで、肩にかかるおかっぱだ。


「微力な魔力検査には適していますが、大きな魔力には耐えられないんです」

 落ち着いた様子でルセルが答える。


「この論文を読むと、被験者は伸ばしていた髪を切られているな。まぁ爪を切るか、あるいは体重を落としてもいいんだろうけど。体重を落とすのは時間がかかる。どちらにしても、実験に協力すると、その後しばらくは自分の魔力が減って、不自由を強いられてしまう。それなら、実験としては、被験者の魔力は多い方がいいね」


 金髪のレイブンが身を乗り出してきて、サムスの手にある論文を眺めて言った。レイブンはライデンと共にこの研究チームを立ち上げた、いわばライデンの相棒だ。レイブンは、いつもにこやかで、人当たりがいい。


「でも、魔力検査機で正確に数値を測ろうとすると、魔力量の低い被験者でないと測定できない。魔力量の低い者はこれ以上魔力が減ると不便を強いられるから協力したがらない。だから、被験者が揃えられない…といったところか」

 研究チーム創設時からのメンバーで、学院を卒業して二年目のガウスが考えを述べる。


 被験者についての推論を述べたガウスは、ライデンとレイブンの一つ下、眼鏡を掛けた小柄な男で、思慮深く、普段はあまり口を開かない。


「減らす方向に考えないで増やす方法で考えたらどう?」

 三年生のスコットは、そばかす顔のひょうきんな男だ。肩までの髪がいつもボサボサなので少しだらしなく見える。


「髪が伸びるのを待つってこと?」


 スコットと同級のマーシャが言った。マーシャは、女性にしては背が高く痩せていて、服装もパンツ姿だ。

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