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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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21 片恋のアゼリア

 ルセルが入学した年の新入生はわずか38名だった。卒業までの四年間、この顔ぶれは変わらない。マイペースで感情をあまり表に出さないルセルも、サムス以外のクラスメイトとも一つの教室で毎日を過ごす内に少しずつ仲良くなっていった。


 その中に、美しい貴族の令嬢がいた。アゼリア・ルード・ブルーム伯爵令嬢。賢く気の強い印象の美人だ。腰まである軽やかで美しい栗色の髪、陶器のように滑らかな白い肌、折れそうに細い腰、長い睫毛に大きな翠緑の瞳を持っている。家柄、容姿、頭脳も申し分ない。魔力の方は、ルセルの魔力の4分の1もなかったが、それでも同級生の中ではルセルに次ぐ魔力だった。

 そんなアゼリアは、片恋をしていた。


 アゼリアの片恋の相手は、片田舎の商家、レナード商会の跡取り息子サムス・レナード。


 アゼリアの片恋は、同級生なら誰でも知っていた。それほど、アゼリアは分かりやすくアプローチしていた。しかし、肝心のサムスはアゼリアのアプローチに気付いていなかった。

 最初の二年間、ルセルにとってアゼリアは何となく態度の硬い相手だった。ルセルは入学当初からサムスと行動を共にしていたから、サムスにアプローチしたいアゼリアがルセルにぎこちないのは仕方ないことだった。


 二年生も終わろうとする魔法実技授業のこと。


「先日の実技試験の成績順にペアを組んでもらいます。ルセル・ガーシュウィンはアゼリア・ルードと組みなさい。トマス・ボールドウィンはクラウス・クライスラーと…」

 教官が次々と名前を呼んでいった。


 ルセルはアゼリアの座る席まで行き挨拶した。

「よろしく」


 アゼリアはテキストに落としていた視線を上げた。

「ええ、お願いしますわ」

 ルセルはつい、アゼリアの美しい翠緑の瞳に見惚れた。

「魔力の出力を合わせて、二人で物を移動させるのですって」


「あっ、ああ」

 ルセルがアゼリアの言葉に返事をしたとき、後ろからサムスが声を掛けてきた。


「ルセル嬢、やり方、わかるかい?少し見せて貰ってもいいかな?」


「見ても分からないよ。まあ、二人で手を繋ぐと感覚は掴みやすい」


 ルセルは、アゼリアの手を取ろうとしたが、思い直した。

「ルードさん、サムスと試しにやってみて欲しいのですが」


「えっ?ええ。いいわ。私で良ければ協力いたしますわ」

 サムスが目の前にきて、気を取られていたアゼリアが慌てて返事をした。


「ありがとう」

 サムスがにこやかに礼を言い、アゼリアの手をさっと取る。

「で?ルセル嬢、どうするんだい?」


 アゼリアは平静を装っているが、その鼓動の高鳴りは容易に想像できる。


「じゃあ、これを」

 ルセルがペンを一本机に置いた。


「本当は、魔力量の少ない者に多い者が合わせるのだけれど、練習のためにサムスがルードさんに合わせよう。ルードさんは魔力を抑えてペンのキャップ側を浮かせて、サムスはそれに合わせて持ち手側が浮くようイメージして」


「あっ」

 アゼリアとサムスが同時に声を上げた。

 ペンはキャップ側が持ち上がり、縦に回転しながら弧を描き床に落ちた。


「ルードさん、もう少し魔力を抑えてみて下さい」

 ルセルがペンを拾って、元の位置に戻した。


 サムスはアゼリアから手を離し、繋いでいた手をじっと見た。

「いや、アゼリア嬢すごいね。ビビっと魔力がきた」


「ごめんなさい。次はもっと力を抑えるわ」

 アゼリアは申し訳なさそうだ。


「じゃあ、もう一度だけ協力お願いするよ」

 サムスが快活に言った。


「ええ」

 アゼリアがほっとした様子で、恥じらいながらサムスに手を差し出した。


 ペンのキャップ側がゆっくりと持ち上がる。単純に一人の力でペンを持ち上げるなら簡単だ。二人の魔力でそれぞれが片端を上げるからバランスが難しいのだ。対象物が小さく軽いと余計に難しい。

 しかし、アゼリアは慎重に魔力を操った。サムスの力に合わせてペンがゆっくりとバランス良く浮かんだ。


「やった!」

 宙に浮いたペンをパッと手で掴み取り、サムスは満足そうだ。

「アゼリア嬢、ルセル嬢、感謝するよ。マークとやってみるよ」

 サムスは、にこにこしてペアの相手の所へ戻った。


 嬉しさを隠しきれないアゼリアにルセルが他に聞こえない小さな声で尋ねた。

「どうしてサムスなの?」

 ルセルは失礼を承知で尋ねた。


 アゼリアは美しい瞳を丸くし、しかし躊躇わず答えた。

「一目見て好きだと感じたの。直感ね」


 今度はルセルがぽかんとする。

(直感?何だ?それ?)


 理解できないでいるルセルに、今度はアゼリアが問う。

「あなたは、何でサムスと一緒にいるの?」


「入学式で声を掛けられて、その流れで…」


 ルセルの答えにアゼリアは小さくため息をついた。

「そうね、質問が良くなかったわ」


 気を取り直したようにアゼリアは新しく問うた。

「あなたは以前、夕日を眺めるのが好きと言っていたわね」


「ええ」

 入学直後の自己紹介を、よく覚えているなとルセルは感心する。


「なぜ夕日が好きなの?」


「…美しいから」


「美しいって何?理由が知りたいわ」


「美しさは主観だから…」


「そういうのを直感とは思わない?私は、一目でサムスを好きになったわ。あなただってサムスに良い印象を持ったから仲良くなったのでしょ。自分が感じたことに素直に従うの。それが直感だわ」


 アゼリアは自分の好意を直感だと率直に答えた。魔力の強い者は嘘偽りが少なく、信じるものがはっきりしている傾向がある。アゼリアも魔力が強い者の特徴をよく表している。


 ルセルはアゼリアの片恋の成就を願った。しかし、今更、サムスと距離を置くというのも変な話だ。それであれば、近くでさりげなくアゼリアに協力するしかないのだろう。


「ルードさん、今日の放課後、私とサムスと一緒にお茶でもどうですか」

 ルセルが遠慮がちに提案した。


「あら、嬉しいお誘いだわ」

  アゼリアは驚くでもなく、優雅に微笑んでルセルの提案を受け入れた。


 こうして、三年生になる頃には、ルセルとアゼリアはサムスを真ん中に三人で過ごすことになったのだった。

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