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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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20/50

20 サムスとルセル

 スワン先生は周りの人々に聞かれないようそっと耳元で囁いた。

「ここには、私と君ほど魔力を持つ者は他にいない。入学許可は私が出そう」


 ルセルは戸惑った。するとルセルの検査番号が呼ばれた。

 スワン先生は「間に合わなかったか」という表情をした。ルセルはスワン先生を見たが、スワン先生の苦笑が「行っておいで」と促していた。


 検査室の中央には教卓が一つ置かれ、その上に魔力検査機と思しき機械が乗っていた。魔力検査機は幅15センチ、奥行き10センチ、高さ20センチ程の箱型で、検査対象者から背を向けて置かれている。恐らく前面には魔力量を示すための目盛と針があるに違いない。その魔力検査機の結果が見える位置、個室の一番奥に長机が置かれ、三人の試験官が座っていた。


「失礼します」

 ルセルがドアを開けて中に入ると、三人の試験官の内、向かって右側の男が書類を見ながら言った。

「入学診査番号58番、ルセル・ガーシュウィン・ルキシアで間違いありませんか」


「はい」

 ルセルは落ち着いて返事をした。


「魔法学院へようこそ。私は本日、魔力検査を担当するアイザックです」

 左端の男が名乗った。

「私は、同じく魔力検査を担当するアルベルトです」

 右端の男も名乗る。

「私は、学院長を務めるアーネストです」

 中央の髪と眉と顎髭が真っ白な高齢の男がゆっくりと名乗った。


「ルセル・ガーシュウィン・ルキシアです。よろしくお願いします」

 ルセルも名乗る。


「教卓の前まで進んで下さい。魔力量を検査します」

 左端の試験官アイザックがルセルを促した。


 ルセルは、黙って教卓の前に立った。


「気持ちを落ち着けて、目の前の魔力検査機の左右に手をかざして下さい」

 説明や指示はアイザックが行い、アルベルトは書類に何やら書き込みをしている。

 中央の学院長アーネストは落ち着いた眼差しでルセルを見ていた。


 ルセルは、黙って魔力検査機の左右に手をかざした。かざして3秒程でパキリと何かが折れた音がした。三人の試験官は無言で顔を見合わせた。


「ルセル・ガーシュウィン・ルキシア、おめでとう。入学を許可する。30分後に魔法学院事務室に行き、検査番号を伝えて入学に必要な書類を受け取って帰りたまえ」

 左端の試験官アイザックが少し狼狽えた様子で、型通りの言葉をルセルに伝えた。


 ルセルが退室しようと軽く会釈し目を上げると、学院長アーネストの穏やかな視線と出会った。

「私は、魔法学院に学生として在籍していた時に君の曽祖母であるエトワール・ガーシュウィン魔導子爵殿に大変にお世話になった。ルキシア領に帰られて、エトワール殿にお会いすることがあれば、よろしくお伝え願いたい」


「はい、申し伝えます」

 短く言葉を返し、ルセルは検査室を後にした。


 学院長アーネストはルセルの魔力に耐えられずに壊れた魔力検査機を見つめながら、かつてエトワールが魔法学院で見せた強く美しい魔法の数々を思い返していた。


 一方、ルセルが検査室から出て来ると、同じ年頃の気の良さそうな男が声を掛けてきた。若者らしい痩身で身長は175センチ程、平凡な茶の髪と瞳、眉も目も下がっていて、表情は常に笑顔だ。

「やあ。さっきはスワン先生に声を掛けられていたね」


「ああ」

 ルセルは用心しながらも失礼にならないように声を和らげながら答えた。


「僕はサムス・レナード。ブラウから来たんだ」

 サムスは、さっと右手を差し出して握手を求めた。つられてルセルも右手を差し出し握手に応えた。


「君は今、検査室から出て来ただろう?検査の様子を聞かせてもらっても構わないかな」


 にこやかに質問するサムスを、ルセルは訝る。入学診査は魔力検査機で魔力量を測るだけの簡単なものだ。わざわざ人に聞く程のことはない。


 ルセルの表情を読んで、サムスが言い訳をする。

「ごめんよ。魔力検査機で魔力量を測ることは知ってるよ。話題が欲しかっただけさ。君はスワン先生と話していたし、検査室の中にいる時間が長かったから」


「…スワン先生も学院長も、私の身内と知り合いだから挨拶されただけだよ」


 サムスは、「成程」という表情を見せて言った。

「名前を聞いてもいいだろうか?」


「ああ、名乗らずに失礼した。ルセル・ガーシュウィン・ルキシアだ」


「ルキシア地方の侯爵のご令嬢だね。ルキシア地方は畜産と農業が盛んで豚も小麦も他の野菜も品質が高くて素晴らしいね」


 自領の情報をブラウの若者が理解しているのは妙だとルセルは思う。ブラウはルキシア領より王都から離れた西にある街だ。

 サムスはルセルの心中を先回りして、またも補足を加えた。

「僕の家は商家なんだ。僕は商売の役に立ちそうな各地の情報は全て記憶しているんだよ」


「君は、人の思考を先回りして話すんだね」

 ルセルは、思ったことをそのまま口にした。


「気に触ったら申し訳ない」

 サムスは本当に申し訳なさそうな顔だ。


「いや、ラクでいいよ」

 ルセルがくすりと笑った。


 それが、ルセルとサムスの出会いだった。


 ルセルは口数が少なく、社交的とは言い難かった。しかし、聞かれたことには的確に答えたし、魔法実技は教官よりも優れていて、学院中の注目の的であったが、当のルセルは周囲の注目には無関心で淡々としていたので、サムスくらい積極的にならないと親しくなることは難しかった。

 サムスから声を掛けて以来、ルセルとサムスは常に行動を共にしていたが、二人の表情や口調、会話の内容には恋人同士特有の甘やかさや熱が全くなく、二人の仲を友人以上に捉える者はいなかった。

 加えて、社交的なサムスはクラスの誰とも親しく話したし、更には上級生や教師とも親しくしていた。


 ルセルは、サムスと共に魔導師ライデンが率いる研究チームに所属していた。活動拠点は魔法塔の一室で、研究費はライデンの書いた論文が評価され国から出されていた。チームメンバーは、卒業後に研究チームに残ることが可能で、ルセルも研究チームに残り、仲間達とともに研究を続ける心づもりでいた。

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