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魔法使いの結婚  作者: 鳥縞つぐみ


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19/50

19 魔法学院入学

「ルセル嬢、おはよう」

 王都の広い通りを一人歩いている所を馬車に乗ったサムスに声を掛けられ、ルセルはほっとした。少しの時間でもリース王子のことを考えずに過ごせそうだ。

「おはよう、サムス」


 ルセルは、サムスと並んで御者席に座り、そのままレナードの店へ行った。


 レナードの店は、ルセルが想像した以上に大きく立派だった。王都の最も栄えている一角に堂々と構えたレナードの店は、石造りのどっしりした建物に大きなガラス窓、店の中には様々な服飾品が並んでいる。ドレス、タキシード、靴に手袋、帽子、鞄、アクセサリーなど、道行く人々をその煌めきで誘っている。


 店裏に馬車を停めると、ルセルはサムスに案内されて裏口から店内に入った。

 開店前のレナードの店では、スタッフが落ち着いた様子で開店準備を進めている。


「二階はカフェになっているんだ。三階が仕事場だよ」

 サムスが説明する。

「僕の仕事部屋に案内するよ。眺めがいいんだ」


 建物の殆どが二階建なので、三階にあるサムスの仕事部屋からは王都の遠くまで見渡せた。

 西の端に魔法塔が見える。魔法学院に建てられた研究棟だ。教師や学生に関わらず、魔法に関わる研究をする全ての者のための研究施設である。

 塔になっているのは、気象や天文の研究の為の計測や観測に高所が必要だったからだ。


「魔法塔も見えるだろう。僕は、ルセル嬢は、ずっと魔法塔で研究を続けると思っていたよ。あそこで研究を続けながら、たま〜に国の要請を受けたりしてね」

 にこやかに、のんびりとサムスが言う。


「そうだね。私もそう思っていた」

 自分の想像していなかった未来に来たのだ、とルセルは思った。リース王子との出会いも、マリーと共に王都へ来たことも。


 サムスの仕事部屋は一人で仕事をするのに丁度よい広さで、サムス用の仕事机が入口から見て右手に窓に向かって配置されている。商談用の小さな応接家具が入口正面に置かれているが、衝立によって入口からの視線を遮り、廊下からは室内の来客が見られないようになっている。

 二人は、その応接用の小さなソファに向かい合って座っている。ソファは片側を窓につけ、首を振ると景色が見渡せた。


 ルセルは魔法塔に視線を向け、ただ黙っていた。


 その沈黙を破るように、ニ階にあるカフェのウエイターが香りの良い紅茶と色艶の良い果物で飾られたケーキをルセルとサムスが囲むテーブルに並べた。


 ルセルの視線は魔法塔からケーキへと移る。

「ありがとう、美味しそうなケーキだね」

 ルセルは、ゆっくりとケーキにフォークを入れる。果物が崩れ落ちそうで、なかなか難しい作業だ。


「最近の魔法学院は、どうですか。優秀な魔法使いは入って来ましたか?」


「ルセル嬢のような優秀な魔法使いには会ったことがないが、そこそこ使えるやつもいるよ」

 サムスにとって目の前のケーキは飾りのようで、手を出す素振りはない。


「サムスは、魔法塔に出入りしているの?」


「ああ、月に一度は必ず顔を出すよ。優秀な人材や商売になりそうな研究をレナード商会に取り込むために、スワン先生を訪ねてる」


「スワン先生は、お元気ですか?」

 八年前、一人で魔法塔にこもることを決めた時、スワン先生に挨拶に行った。そして、五年経って魔法塔から去る時もスワン先生に挨拶をしてから王都を去った。

 だが、自分のしたことを恩師に伝える勇気はなく、ルセルはただ短い挨拶の言葉を伝えただけだった。スワン先生は何も聞かず、優しく微笑んでいた。


「そうだな、元気だよ。でも、スワン先生も見た目がお若いから騙されるけど、なかなかの年だよなぁ」


 ルセルは、二十五年前の、若く溌剌とした熱気のみなぎる魔法学院生活の空気が、自分の体の周りにふわりと立ち込めた気がした。


   ******************


 魔法学院は、魔法の素質ある若者が国中から集められ、毎年入学を許されていた。入学は年に一度、春に限られていたが、入学は魔法の素質を簡単に審査されるだけで難しいことではなかった。


 しかし、魔法の素質を持つ者自体が少なく、更に栄誉ある魔導師の称号を手にして卒業できる者は稀だった。

 審査に通り入学しても、ルセルのように難なく魔法を操れる者はわずかで、多くの学院生は自分の力量を知り、魔法使いと共に研究を主に活動するか、魔法使いをサポートする職業に就くために学んだ。

 優秀な学生は、研究に協力すべくチームの一員となり学院に残るか、宮廷魔導士となり宮仕(みやづかえ)をするか、在学中に魔導師の称号を得て国に登録だけして気ままに暮らすかの三つの選択肢があった。


 ルセルのように裕福な貴族の娘であれば、称号だけ得て、家に戻る選択肢もある。しかし、魔法学院は、身分階級に拠らず、職業に就ける機会を与えられる場でもあったから、多くの庶民が入学し、目指す職業に必要な知識と技量を得るべく、四年の就学期間に存分に己を磨いた。そうして、国を支える素晴らしい人材となり、巣立って行った。



 入学審査の日、ルセルは、魔法学院の校舎に入るなり声を掛けられた。


「ルセル・ガーシュウィンだね?」


 ルセルの目の前に現れた男は、長身、痩躯、白い肌に黒瞳黒髪の美しい男性だ。歳は四十程に見え、にこやかな表情を絶やさない。


「スワン・シェリング・ウィンズ教授」

 ルセルは、思わず返事ではなく呟きを返していた。


「ははは、教授はいいよ。みんなからは『スワン先生』と呼ばれている。ルセルもそう呼んでくれ」


 明るく砕けた口調で、初対面にも関わらず許可もなく呼び捨てにされたが、不思議と不快感はない。

 ただ、自分の目に映る、目の前の男性の魔力量に圧倒された。ルセルは、こんな膨大な魔力を見るのは初めてのことだった。


 呆然としているルセルに、スワン先生ははっきりと言った。

「ルセル、今日はこのまま帰りたまえ」


 スワン先生の言葉にルセルは動揺した。しかし、公衆の面前で「何故?」と問うのは得策ではない。ルセルは、スワン先生の次の言葉を待った。

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