08 結晶
アレンとクレアの結婚式数日前から、他国の王族も続々と王都入りし始めた。
王族の結婚式は民にとって稼ぎ時だ。しかしいつもの活気がないようだ。商人たちはこの異変を感じとっていた。
「クレア、いよいよだな」
「はい、アレン様」
クレアはお腹に手を当てている。
(ようやくここまで辿り着いた!)
クレアはある意味純粋なアレンを見つめる。クレアの思い通りに邪魔者のエマを辺境に送り、結婚を決めてくれた。
(これでもう私から離れられないわね)
クレアは10才の時の屈辱を思い出し、つい唇を噛んでしまいそうになった。
クレアは7才の時に神殿で聖魔法使いだと鑑定され、自分を誇らしく思った。コリンズ家は聖女が多く、秘伝の書があった。そのおかげで魔法の習得が早く、10才で治癒魔法ができるようになった。
聖女と崇められ、クレアは絶頂を味わっていた。同い年の聖女エマの存在にはイラついたが、エマが偽聖女と呼ばれているのは一種の快感だった。それなのに――。
神殿にはコリンズ家の侍女ソフィーがいつも付き添っていた。ある日神殿に向かう途中、怪我人から治療を求められた。
聖女様と請われクレアは治療してあげようとしたが、ソフィーは厳しい顔で「貴方にはできません!」と叱った。
ソフィーに叱られたことが悔しくて、つい他の聖女の治療を盗み見てしまった。聖女の治療室はプライバシー保護のために個室になっていて、普段は他者から覗くことはできないのだ。
クレアは聖女の治癒魔法に衝撃を受けた。
(私と違う……)
クレアと他の聖女の治癒魔法は似ても似つかなかった。
(なんて綺麗なの!)
クレアには聖女の治癒魔法で患者が、神秘的な光のヴェールに包まれているかのように見えた。
その光は他者には見えないらしい。クレアは誰にも他の聖女との違いを指摘されることはなかった。
クレアが治療すると必ず黒い結晶ができる。コリンズ家では「患者の悪い所を出してあげると結晶になるんだよ」と教えられた。
そして結晶はよくない物だから、患者や他の人に見えないように隠すことを徹底されていた。
疑問に思ったクレアはその夜両親に尋ねてしまった。そしてクレアは自分が本当は闇魔法使いだと知った。
「私が!? 闇魔法使い? 嘘よ!!」
クレアはプライドがズタズタにされた気がした。
それまで綺麗だと思っていた黒い結晶が、まるで汚物のように見えるようになった。治療しても光は出ず、治療する度に自分が聖女ではないことを思い知った。
それでもクレアは自分のため家のために努力して魔法を磨き、解呪も任されるまでに成長した。
それなのにずっと婚約者候補のままだった。エマは治癒魔法もできない落ちこぼれなのに――。
(なんであの女が! 目障りね……)
王家は治癒魔法も解呪もできる闇魔法使いより、何もできない聖魔法使いの方が本当は良かったのだ。だからエマが成人するまで、魔法に目覚めることを期待して待った。クレアをスペアとして――。
この事実がクレアにとっては耐え難かった。アレンのことは好きでも嫌いでもなかった。アクセサリーのようなものだ。聖女で王妃、その称号が欲しかっただけ。
だから身籠ったと嘘をついてまでアレンを手に入れたのだ。
読んでいただきありがとうございます。次話がクライマックスです。残酷な表現が含まれますので、苦手な方はご注意ください。