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04 希望

 屋敷には有能な魔法使い数名が交代で常時強い結界をしいているので、魔物にあう危険はない。しかしエマはいざという時のために身を守る魔法を優先的に学んだ。


 エドワードは魔法を教えるのがとてもうまかった。今では天才とまで言われているが、魔法が思うように使えず苦労した時代があったらしい。


「エド様が魔法が苦手だったなんて信じられませんね」


 エマが魔法訓練の休憩中にエドワードに尋ねると、ハニカミながら子供の頃の話をしてくれた。


「氷は水魔法の上位魔法だ。でも似て非なるものなんだよ」


 氷魔法使いと水魔法使いでは、魔力を込める加減や使い方が多少異なるらしい。

 氷魔法は水魔法から派生している。神殿の魔力鑑定は万能ではなく、基本となる属性しか判定されない。そのため氷魔法でも水魔法と鑑定される。

 エドワードは自分が氷魔法使いだとなかなか気づけなかったそうだ。


 エドワードは辺境伯の跡継ぎとして、子供の頃から領地を守る力をつけるように周囲から期待されていた。それなのに長らく期待に応えられなかった。


「どうやって氷魔法に気がついたのですか?」

「子供の時に偶然氷を出してって頼まれてね。それまで氷の生成は試したことなかったんだけど、やってみたら初めてイメージ通りに魔法が使えたんだ」


 エドワードは懐かしむように目を細めていた。

「だからエマが魔法が使えなかった辛さがわかるよ」

 

 聖魔法使いも希少だが、氷魔法使いも珍しい。エドワードの正しい属性がわかった後は、元々の水魔法使いの師匠と試行錯誤しながら、魔法の訓練をしたそうだ。


 エマも聖魔法使いということで周囲に期待されたが、治癒魔法を使うことができず偽聖女と蔑まれることもあった。


 奇しくもエマとエドワードは、魔法が使えず周りの期待に応えられないことで悩み、乗り越えるという似たような体験をしていた。


 エドワードは親子で参加した庭園パーティーで出会った女の子のことを思い浮かべる。

 美しい花々には目もくれず、庭園の隅の方に生えていた薬草として使える雑草を熱心に眺める女の子を――。


「とても暑い日でね……萎れていた草を見て、氷があれば元気にならないかなって言ったんだ」

 エドワードは笑いながら昔話を続ける。


「まぁ! 私も薬草作りが好きなのでその子とお友達になれるかもしれませんね」


 エマはその女の子に会ってみたくなったが、エドワードは微笑んでエマを見つめるだけで、その子の正体は明かさなかった。


 エドワードの指導のおかげで、エマの魔法はどんどん上達した。頭上に2メートルほどの水球も作れるようになったし、小型の魔物を倒せる威力の水鉄砲も出せるようになった。


 そうしてエマがホークウッド領で1週間も過ごしたころ、エドワードの父で現辺境伯のマーカスが遠征から帰宅した。エドワードが領地に戻ったのと同時に遠征に出てしまい、エマはまだ挨拶できていなかった。


 マーカスもエドワードと同じく美形で、さら大人の魅力が備わっている。失礼のないようにとエマが身構えていると、マーカスはエドワードに熱烈なハグをした。


「会いたかったよー!」

 息子大好きらしい。


 エドワードは「やめろ」と言っていたが邪険にはしていない。落ち着いてエマの紹介にうつると、エマを少し引き寄せ「私の妻になるフローレス家の長女エマです」と端的に告げた。


(妻!? 確かに王命ではそうだけど、それを口実に黒輝石を調べにきたのでは?)


 説明を端折りすぎなエドワードのパワーワードに驚きつつ、エマは自己紹介を始めた。


「エマ•フローレスと申しまーーきゃっ!」 

「エマちゃん!」


 エマにも抱きつこうとしたマーカスを、エドワードがすかさず離した。


「私だってまだ抱擁は我慢しているのです! やめてください!」


(抱擁……我慢……!)


 エマはきちんとマーカスに挨拶しようと意気込んでいたのに、もう白旗を上げたい気分になった。


 3人とも席につきお茶を淹れてもらうと、エマは仕切り直して頑張ろうと気合を入れたが、すぐに白旗をあげた。


 エドワードはなぜかエマのどんなところが好きか話し始めた。エマにとっても初めて聞くことが多く、恥ずかしくてオタオタしてしまった。


 マーカスは「エドワードにもついに愛する人が」と涙を目に浮かべ喜んでいた。似た物親子である。


 エマには30分が1時間にも感じ、とうとう耐えきれなくなり口を挟んでしまった。


「エドワード様! お気持ちはとても嬉しいのですが……そういう話は2人の時に……」

「そうだね! 今度私がどれだけエマに惹かれているか、2人でじっくり語らおう」


(え!? 2人でじっくり……? 私の心臓が持つかしら?)


 エドワードに手を握られ熱っぽい目で見つめられ、エマは現実逃避しそうになったが自分を奮い立たせた。



 そしてようやく王命と黒輝石の疑惑についての話し合いが始まった。


「黒輝石か……」


 マーカスは胸元からペンダントを取り出した。ペンダントトップの黒輝石は、今はもう身につけていないエドワードの指輪のものより一回りも大きい。


 マーカスはペンダントロケットを開き、慈しむように中の写真を見た。

「妻のシャーロットだ」


 今は亡きシャーロット夫人とエドワードの子供の頃の写真だった。シャーロットはエドワードが子どもの頃に、魔物に襲われて命を落としたそうだ。


 写真をよく見せてもらおうと思いエマがペンダントに触れると、身体に異変を感じ思わず落としてしまった。


「すみません! 大事なものを……」

「エマ、大丈夫か?」

「はい……」



「……黒輝石が!」


 マーカスの驚いた声にエマとエドワードがペンダントを覗き見ると、黒輝石は透き通ったガラスのような色に変化し輝きが失われていた――。



 沈黙を切り裂いたのはエドワードだった。


「エマが浄化できたということは、黒輝石はやはり……」

「……呪いに関連しているってことだな」

「私が浄化を?」

「うん。水魔法が使えるようになって、聖魔法のレベルも上がったのかもしれないね」

「……調べることが多すぎるな」


 エマの疑惑が確信に1歩近付いてしまった。でもまだ全容は不明なままだ。


 黒輝石が呪いと関係していることはわかったが、まだ魔物との関係性は不明だ。確かに黒輝石は魔物除けの効果があると言われている。しかしどれほどの効果があるのかはわからなかった。


 他にも黒輝石がなぜクルス領の鉱山でのみ取れるのか、王家や神殿などどれほどの人間がこの秘密に関わっているのかなど、調べなければならないことが山のようにあった。

 敵が誰かわからないが、下手をすれば命取りになるほど大きな山だ。絶対に秘密裏に調査する必要がある。


「エドワードとエマちゃんは国境沿いに黒輝石が設置されていることと、魔物の発生に関連性があると疑っているんだよね?」

「はい。黒輝石のあるところに魔物が出る、そう考えています」

「もしそれが本当なら……国家が転覆するな。世界中からも非難されるだろう」

「私の父もそう心配していました」



(でも私が聖魔法を使えるようになるなんて!)


 エマは黒輝石の疑惑がもし当たっていても、どうすることもできないとずっと不安に駆られていた。しかし聖魔法で浄化できたことで、ようやく希望の光が見えた。


 その後エマがエドワードの持っていた指輪にも同じように触ると黒輝石は浄化されたが、同時にどっと疲れが襲った。


「エマ、浄化は魔力をたくさん消費するようだ。無理をしないで」

「はい」


 疲労困憊しながらもエマは、達成感と希望に包まれていた。

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