表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

19 攻撃

 国王は昨日の治癒前と同じような状態になっていた。治癒魔法を施したにしては容態が悪すぎる。


「どうして……?」


 エマは取り急ぎ昨日と同様に、国王へ治癒魔法を施した。


「エマ嬢、やはり病ではないのかもしれない。昨日から人の出入りはほとんどない。悪いが部屋を見てもらってもいいか?」

「はい、ミカエル様」


 エマは国王の部屋を見渡した。テーブル、椅子、飾り棚、ソファ、サイドテーブルなど物が多い。


(呪いだとすると呪具か何かかしら……?)

 

 エマは一通り部屋を見たが、怪しい物は見つからなかった。


(呪具でないなら、食べ物か飲み物? でも毒味がされているはずだし……)


 食べ物は部屋には置いてなかった。唯一あるのはサイドテーブルの水差しだが、ほとんど中身は残っていなかった。


 念のためエマは水差しを手に取り眺める。


(黒い粒?)


 よく目を凝らして見ると、水差しの底には小さな黒い粒のような物が数個沈んでいるように見えた。


(ゴミ? これって……まさか黒輝石!?)


 エマは予想外の発見に驚いて水差しを落としてしまうところだった。

 エマの顔色が悪くなりエドワードが駆け寄る。


「エマ、どうした?」

「エド様」


 エマは水差しを持つ震える手に集中すると、確かに黒輝石から感じるのと同じ嫌悪感が漂ってきた。


 エマはこのようなことを考える犯人が恐ろしくなり、小さく震える声でエドワードに告げた。


「黒輝石が……」

「ん? 黒輝石が?」

「この水差しの中に……」

「え!?」


 ミカエルが水差しを先に確認し、続いてエドワードも確かめた。


「エマ嬢が言うなら黒輝石なんだろうが……小さすぎてわからないな」


 ミカエルは水差しの中から、砂粒のように小さい黒い粒を慎重に1つ取り出した。


「エマ嬢、浄化をお願いしたい」

「はい」


 エマが人差し指に黒い粒をのせ、恐る恐る浄化した。すると黒い粒は透明な色へと変色した。


「これで確定だな」


 水差しには黒輝石が粉々に砕かれ混ぜられていたようだ。それを国王が少しずつ摂取し、徐々に体調が悪くなったのだろう。

 毒味は少量しか行われないため、国王以外に健康被害がなかったのかもしれない。


「ミカエル様……」

「エマ嬢、協力に感謝する。後はこちらで調べるから」

「はい」


 ミカエルに退出を促され、エマとエドワードは後ろ髪をひかれながら部屋を後にした。


「エド様」

「あぁ」


 エマとエドワードは重たい空気に包まれた。


「黒輝石がこのような使われ方をするなんて……」

「黒輝石は闇魔法で呪いや病を結晶化したものだ。犯人はそれを知ってて行ったのか?」

「でも闇魔法についての情報は一般人に公開されていません」

「そうだな。関係者か、もしくは闇魔法使いか……」


 エマとエドワードが部屋で疑問を口にしながら待機していると、水差しを国王に用意した侍女が手紙を残して失踪したとの報告がミカエルからあった。


 エマは驚きを隠せなかった。


「失踪ですか!?」

「ああ、手紙が残されていた。黒輝石が設置されている村で育ち、家族を魔物に殺された恨みがあったと」

「そうですか……。でもその侍女は黒輝石が呪いや病からできていることを知っていたのでしょうか?」

「いや、黒輝石のせいだから、黒輝石を設置した国王に飲ませたらしい」


 エマはまた黒輝石の悲しみが連鎖してしまったことに胸が痛くなった。


「侍女のことは現在追跡中だが、じきに見つかるだろう。パーティーは3時間後に始まる。楽しんでくれ」

「はい」


 犯人が見つかったものの、エマにとっては後味が残る結末だった。




 エマはエドワードにエスコートされ、夜会へと足を踏み入れた。入る前から多くの人の視線がエマたちに集中していた。


 エマは緊張しつつ、エドワードの逞しい腕に支えられ優雅に入場した。


 国王は夜会を欠席したため、代わりに王妃がエマとエドワードの功績を讃えた。 


 黒輝石の秘密を暴き、浄化方法を見つけ、世界平和に貢献したと。


 エマの褒賞は事前の希望通り、エマの名前で病院が建つことになった。


 続いてエドワードへの褒賞に移った。


(エド様の褒賞は何にしたのかしら?)


「エドワード•ランドルフへの褒賞は王命だ。王命により生涯聖女エマを妻とする」

 

(え? 王命? 妻?)


 エマは困惑してエドワードに目を向けると、エドワードにウインクされた。


 最初は王命によって無理やり結ばれたエマとエドワードの結婚に、エマは戸惑いや不安があった。


 スロアニア国がなくなったことで、その王命はもはや意味を持たなくなった。


 そして今回の新たな王命。それはエマにとって最初の王命とは正反対の感情をもたらした。エマがエドワードと生涯共に生きられる。そのことを国が保証してくれるということだ。


 エマはエドワードの深い愛を感じた。


 褒賞式の後に、エマとエドワードは初めて人前でダンスを踊った。

 

 2人の距離は腕1本分もない。


「エド様、私驚きました」

「嫌だったか?」

「そんな!」

「良かった。勝手に決めてしまったから、愛が重いと引かれるかと思った」


(愛!)

 

 エマはエドワードにときめいてばかりいた。


「誰にもエマを渡したくない。奪われたくない。ずっと一緒にいてほしい」

「はい、私も誰にもエド様を渡したくありません」


 2人はキスをしそうなほど顔が近づいたが、残念ながら曲が終わってしまった。



 エマはシャンパンで喉を潤しながらダンスの余韻に浸っていると、後ろから「エマ様」と声をかけられた。


「マリア様!」


 振り向くとシャンパンゴールドのタイトなドレスを着こなした聖女マリアがいた。マリアは聖女の中ではエマと1番多く手紙を交わしている仲だ。2人は久しぶりの再会を喜んだ。


「エマ様、おめでとうございます! ダンスも素敵でした!」

「マリア様、ありがとうございます」

「あっ! 紹介がまだでしたね。私の護衛を務めてくださっているクロード様です」 

「聖女エマ様、初めまして。クロードと申します」

 

 マリアに紹介されたクロードは無表情のまま挨拶を述べた。


「初めまして、クロード様。マリア様、護衛はお1人ですか?」

「はい。今日は近くで用事があったので、私もエマ様の褒賞式に呼ばれたんです!」

「いつも護衛がお1人なのですか? それでは道中大変ではありませんか?」

「えっと、私は……」


 エマがマリアの旅について心配していると、背中に人がぶつかった衝撃を軽く受け、相手の飲み物がドレスにかかってしまった。


「申し訳ありません。私、なんだかいつもより酔ってしまって……」 


 倒れそうになる婦人をエマが支えた。


 エマは飲み物でドレスが汚れたことも構わず、その酩酊した婦人を気にかけた。


「エマ様、この方は私が診ますから。エマ様はドレスを……」

「マリア様、ではよろしくお願いします。リリー様。」

「エマ様、お供いたします」


 エマはその婦人をマリアに任せ、リリーと共に女性用の休憩室へと向かった。エドワードも同行すると言ったが、他の人と歓談中だったため「大丈夫、すぐ戻る」と伝えた。


「別の衣装を届けてくれるそうです」

「それは良かったです」


 10分も待たずに侍女が代わりのドレスを持ってきてくれ、着替えることになった。


「私は部屋の外で待機しています」

「はい。リリー様、ありがとうございます」


 侍女にドレスを脱ぐのを手伝ってもらおうとしたところ、侍女はいきなり倒れてしまった。


「えっ!? 大丈夫ですか?」

 

 治癒魔法をする前に、エマはまず部屋の外にいるリリーに声をかけた。


「リリー様!」


 エマが扉を開けると、リリーも床に倒れていた。

 

「え!? なんで? リリー様! どうしたのですか?」


 エマはリリーに駆け寄り、肩を揺すって声を掛ける。


(眠ってる?)


 リリーは外傷がなく、眠っているだけのように見えた。


「聖女エマ!」

「誰!?」


 エマが声の主を確かめようと振り返ると、黒いローブを頭から被った魔道具師のモーリスがいた。


「どうしてあなたがここに?」

「死ね!」

 

 エマはモーリスが魔法で攻撃してくると瞬時に判断し、慌てて防御魔法を展開しようとした。

 

(間に合わない!)


 リリーを守るように抱えながら、エマは身体をこわばらせた。


 攻撃魔法の衝撃を受けると思ったが、代わりにパリンっという音がし、連続してドスンっという音が鳴った。


(間に合ったの?)


 恐る恐るエマが目を開けると、モーリスが額から血を流しうずくまっていた。


「お前! よくも!」


(エド様助けて!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ