18 才能
転移魔法は一般的ではない。
その理由は金銭面が大きく、とても高価な転移ゲートが必要になる。ゲート1つで小さい屋敷が1軒建つほどだ。設置したゲート同士を繋ぐため、出発地と目的地用に少なくとも2つは必要になり、それだけでかなりの金額になる。
次に魔力だ。使用時に膨大な魔力が必要になる。距離にもよるが王宮からこの屋敷まで、1人を転移させるのに上級魔法使い5人分くらいの魔力を込める必要がある。
転移ゲートは結婚祝いとして、ミカエルが「何かあった時のために」と置いていった。もちろんエドワードは断ったが聞き入れてもらえなかった。
使用する時は事前に伝えると言っていたが、急に現れ使用人を驚かせたそうだ。
「だから突然の訪問を謝罪したじゃないか」
悪気のないミカエルにエドワードはため息をついた。
「エマと私は行きますが、後何人連れて行けますか?」
「申し訳ないが君たち2人だけだ。その代わり護衛としてレオンと私直属の者をつけよう」
「レオン様を?」
エドワードは躊躇ったが王族の依頼を断わる選択肢がなく、渋々了承した。
ミカエルがドレスなどの衣装も全て用意すると言うので、エマとエドワードは必要最低限の荷物を持ち転移ゲートのある部屋へと移動した。
「では私とレオンが先に行こう」
ミカエルとレオンが金属でできたドアのような転移ゲートをくぐった。後に続いてエマはエドワードと手を繋ぎながらゲートをくぐると、一瞬眩しい光に包まれ、白い殺風景な部屋に到着した。
数えると20人ほどの魔法使いたちが、魔力切れで疲れ果て息を切らしていた。ミカエルたちが戻るまでずっと待機してくれていたらしい。
「ここは?」
「ここは王宮に隣接している魔法研究所だ」
ミカエルは王子として外交を主に担当しているが、魔法が好きでこの魔法研究所の所長もしているそうだ。
「エマ嬢、魔法研究に興味があるのか?」
エマがキョロキョロ辺りを興味深そうに見ていたので、ミカエルが嬉しそうに声を掛けた。
「はい。エド様と新しい魔法を考えたりするのが好きなんです」
「エマ嬢ならすぐにでもウチで雇おう。大歓迎だ!」
「エマは私の妻なので、ここでは働けません!」
「エドワードも一緒にどうだ? 働く場所は問わない。領地で研究して成果を発表してくれてもいい」
魅力的な提案にエドワードも少し心が動き、また後で研究所の案内をしてもらうことになった。
エマたちはまず先に、王宮にいる国王の元へと向かった。
エマが国王の寝室へ入ると、赤い天蓋付きの大きな寝台に国王が臥せっており、その横には王妃もいた。
天井からは豪華なシャンデリアが吊るされ、壁には大きな絵がいくつも飾られている部屋だった。
「父上、母上。聖女エマをお連れしました」
「エマ•ランドルフ……」
「挨拶はいい」
エマの挨拶を遮り、国王が寝ている身体を起こそうとするが力が入らない。
「急に呼び出してすまない」
「いえ」
国王の声は弱弱しく、身体も衰弱していた。
「お身体を拝見してもよろしいでしょうか」
「頼む」
エマは国王の手を握り、どこが悪いのか見極めようとした。国王のお腹の辺りがエマは少し気になった。
ミカエルが待ちきれず、エマの診断を急かした。
「エマ嬢、どうだ?」
エマは首を振る。
「わかりません。病というよりは呪いのような気もしますが……取り敢えず解呪魔法をやってみます」
エマは魔力を込めて解呪魔法を国王に施した。しかし国王の容態に変化はなかった。
「次に治癒魔法をやってみます」
「あぁ」
エマは何の病気かわからないまま、治癒魔法を国王の腹部を中心に施した。
すると国王の顔色が格段に良くなった。
「おぉ! 身体が楽になったぞ。聖女エマ、礼を言う」
国王の体調は改善したものの、身体は衰弱していたのでまだ安静にしている必要があった。エマは明日も治癒魔法を行うことを伝えて部屋を退出した。
「エマ嬢、父上を助けてくれてありがとう」
「いえ、お役に立てて良かったです」
エマは国王が取り敢えず元気になったことでほっとしたものの、結局何の病だったのかわからずすっきりしなかった。
それからエマとエドワードは2人のために用意された部屋へ案内され、ミカエルからエマの護衛となる者の紹介をされた。
「伝えた通り、エマ嬢にはレオンとリリーが交替でつく」
リリーは背が高く凛とした女性騎士で、剣術も風魔法も得意だそうだ。騎士の制服もよく似合っていた。
「あの、本当にレオン様が私に? ミカエル様はよろしいのですか?」
「私には他の護衛もいるから。レオンが嫌なら他の者を連れてくるけど……」
「いえ! レオン様、よろしくお願いします」
「エマ様、お任せください」
普段のレオンは穏やかだがあまり笑わない。そんなレオンからエマは珍しく微笑まれ、頬がほんのり赤くなったのをエドワードは見逃さなかった。
「他に女性の護衛の方はいらっしゃいませんか?」
「エド様!?」
エマはエドワードを説得し、レオンがそのまま護衛となった。
2人は部屋で休んで豪華な夕食を食べた後、魔法研究所へと案内された。
研究所では魔法使いや魔道具師などが働き、新しい魔法や魔道具の研究•開発などを行っている。
「ロベルト、モーリス」
ミカエルが呼ぶ声に2人の男性が集まった。
「副所長で火と雷魔法使いのロベルトだ。エマ嬢と同じく珍しい2属性持ちだ。こちらは魔道具課の室長で魔道具師のモーリスだ」
「エドワード様、聖女エマ様。初めまして、ロベルトです。お噂はかねがね伺っております」
「モーリスです」
「初めまして、ランドルフ家のエドワードです」
「エドワードの妻のエマです」
エマたちは互いに挨拶を交わした。ロベルトは人当たりの良さそうな男性で、長い黒髪を後ろで一つに束ねている。
モーリスは口数が少ない眼鏡をかけた男性で、ほとんど会話に加わらなかった。魔道具師は魔力の量や強さというよりも、創造力や器用さが求められる。職人気質の人が多いからかもしれないとエマは推察した。
研究所内はエマの興味を引く物で溢れていた。
「これはなんですか?」
「これは生ゴミを肥料に変える魔道具だ。そっちは温風と冷風が出て髪を乾かせる魔道具」
「これは?」
たくさんの魔道具が並ぶ部屋に通され、エマは次々と質問したくなった。
エマの質問に丁寧に答えてくれたのもミカエルとロベルトだったが、研究所にある魔道具の発案・改良はほとんどモーリスが携わっているらしい。
「これもモーリスさんの発明ですか? 私使っています!」
エマは土に挿すと植物の成長を促進させてくれる魔道具を手に取って尋ねた。
「そうだよ。モーリスは天才なんだ」
ロベルトはモーリスのことをべた褒めしていた。
結局モーリスはほとんど話さなかったが、彼の功績がすごいことはエマにも伝わった。
一通り研究所の案内が終わると、エマとエドワードは部屋へ戻り就寝した。
「エド様、魔法研究所楽しかったですね!」
「あぁ! 使ってみたい物がいっぱいあったな」
エマとエドワードは魔法研究所で働くことについて、前向きに検討することにした。
次の日の朝、夜のパーティーに向けてエマとエドワードは衣装合わせを行っていた。
エマのドレスにはエドワードの瞳に近い深い青色で、光沢のある生地が使われていた。ドレスと同じ布で立体的な花がいくつもつけられた、可愛らしく豪華なドレスだった。エドワードもそれに合わせて、黒ベースに青の差し色が入ったスーツだった。
なぜか衣装は2人にぴったりで、微調整する必要もなかった。
「エド様、よく似合っています」
「エマも。私の色を着てくれるなんて嬉しい」
エマとエドワードが2人の世界に入りそうになっているところへ、ミカエルが急に乱入してきた。
「エマ嬢! おっとすまない。取り込み中だったか?」
「いえ!」
「2人ともよく似合っている! 2人にいつか着てもらおうと私がデザインしたんだ」
「ミカエル様が?」
エマは多才なミカエルに感嘆の声をあげた。
ミカエルが他の者に席を外すように伝え笑顔を消した。
「エマ嬢、父の具合がまた悪化した。すぐに来てほしい」
エマとエドワードは着替える暇もなく国王の元へ急いだ。




