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16 番外編 エマとの再会

 エドワードは昔から女性が苦手だった。香水臭く華美に装い口煩い、そんな悪いイメージを持っていた。

 

 自分の顔が女性受けが良いことは知っていた。だがホークウッド領出身だと一度知ると距離を置かれた。

 距離を取り陰でこそこそされても、本人は意外と気が付くものだ。それが例え好意的なものであっても、エドワードにとっては不快だった。


 エマが「偽聖女」と蔑まれているのを見る度に、早く王子の婚約者候補から解放されてほしいと願っていた。エマの悪口を言う女性を見ては、女性嫌いが加速していた。


「いったいいつまでエマ様を苦しめるつもりだ! 早く解放しろ!」


 若者が集まった庭園パーティーから帰宅しても怒りがおさまらないエドワードは、心の中で言ったつもりが声に出てしまっていた。

 

「今日も会ったの? 初恋のエマちゃん?」

「……そうです」


 エドワードはマーカスに心の内を聞かれてしまったことに少し気恥ずかしくなった。


 エドワードは正確にはエマに会ったのではなく、見守っていただけだった。エドワードは目立つので、自分が声をかければエマに迷惑をかけると思い、接触は自重していた。


 エドワードがエマを好きであることは、マーカスだけでなく屋敷の者はみんな知っていた。今では話題に上ることも減ったが、幼少期にエマと出会い魔法がうまく使えるようになった時は、何度もエマの良さを力説していたからだ。


 「エマ様は薬草に精通していて……」「エマ様は他の女性とは違って……」など、エドワードが女性のことを楽しそうに話すのはエマだけだった。


 マーカスは子どもだったエドワードが大きくなり、エマを諦めて他の人と縁を結ぶよう勧めたこともあった。しかしエマ以外興味がないとはっきり断られてしまった。


「もう諦めて他の子を探すってことは?」

「あり得ません! 少なくともエマ様が幸せになるまでは……」


 1人の女性を愛する。マーカス自身もそうだったので、やはり親子は似るものだと嬉しくなった。愛する息子エドワードの願いは叶えてあげたいが、王子の婚約者候補というものはとても厄介だった。


「もう我慢なりません!」


 王子アレンはエマのことを邪険に扱う。エドワードは「大切にしないなら自分に寄越せ」と、何度も口から出そうになった。もう1人の婚約者候補のクレアと仲睦まじい姿を見ては、氷漬けにしたいほど怒りが込み上がった。


「殴り込みに行ってきます」

「そうか」

「止めないでください!」

「いや、作戦を立てよう!」

「作戦?」


 エドワードとマーカスは王宮へ殴り込みに行く前に、屋敷の者も巻き込んで作戦を立てることにした。

 名付けて「エマ様解放作戦」だ。


 ホークウッド領の魔物の出現率は年々増加していた。それにもかかわらず、国から補助される国防費は数十年前から変わっていなかった。


 みんなで他にも王の交渉材料となること考えた。


 簡単に言えば、王を煽ってエマを差し出させるという作戦だ。もうすぐエマも成人になるため、そろそろ解放すると見込んでのことだった。


「エドワード様、本当にエマ様との結婚が許可されたらどうするおつもりですか?」

「エマ様はお好きな方はいらっしゃらないのですか?」


 使用人の予想外の指摘にエドワードはたじろぐ。


「エマ様は私のことが嫌いだろうか?」


 使用人はまだ好きでも嫌いでもない段階ではと思ったが、予想以上にエドワードが落ち込んでしまったので焦った。


「エドワード様なら大丈夫ですよ!」

「そうです! 使用人みんなエドワード様のこと大好きで応援していますから」

「そうか……」


 エドワードの一世一代の恋をみんなが応援していた。いや、エマを得られなければランドルフ家は途絶えるかもしれないと心配していた。


 みんなに励まされ、エドワードは作戦を実行するべく王都へ向かった。


 そして王からエマを婚約者候補から外すという言葉を引き出すところまでは良かった。王子アレンが暴走し、大衆の面前で婚約者候補から外すという侮辱をエマに与えた。


 そして王命によっていきなりエドワードとエマの結婚が決まってしまった。


 エドワードはその出来事を聞きつけ、フローレス家へと急いだ。エマが傷ついていないか気がかりな上、強引に結婚話が進んでしまったことへの謝罪がしたかった。


(もっと上手くやるはずだったのに!)


 エドワードは王からエマとの結婚の許しを得られたら、正式に結婚の打診をフローレス家にするつもりだった。



 フローレス家に着くと、エマは悲しみの表情を浮かべていなかったので一先ず安堵した。


「ランドルフ家の長男エドワードです。夜分に突然の訪問、申し訳ございません。この度は私のせいで王命でエマ様との結婚が決まってしまい、大変申し訳ございません」

 

(急に結婚が決まってしまい、さぞかし大変な思いをしていることだろう)


 エドワードは深々と謝罪した。


 エマの父に経緯の説明を求められ、エドワードは説明を始めた。


 王家が隣国エヴァンスの温泉地欲しさに戦争をしかけようとしていること。

 領地で魔物の量が増えているが、国からは十分な費用の支給も魔法使いの派遣もしてもらっていないこと。


「温泉地も魔物が多いことは説明したのですが、我が国の領土になれば魔物も減るなどと根拠のないことをいい始め……だんだん私の怒りも限界に来て言ってしまったのです。ならせめて聖女をよこせと」


(作戦のつもりがイラついて、ついエマ様が欲しいという本音が出てしまった……)



「つまり売り言葉に買い言葉で聖女が欲しいと言ったから、私の愛娘と結婚することになったと?」

「……恥ずかしながら私の伴侶がなかなか見つからない焦りもあったと思います。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


(エマ様しか私の伴侶として考えられず、強引な手を使ってしまった結果です)


 エマが自分のことを「偽聖女」と表現した時、アレンや悪口を言う者への怒りがまた込み上げてきた。


「私は一応王子の婚約者候補でしたが、治癒魔法が全く使えず偽聖女と呼ばれています。今日の様子から王子とクレア様の結婚は既定路線のようでしたし、体良く厄介払いができるとでも思ったのではないでしょうか」

「偽聖女……」


(やはりあいつは氷漬けにでもするべきだったか)


 その後エマにエドワードの指輪を見せてほしいと言われ、近寄る口実ができたことが嬉しかった。緊張し、エマに胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと思ったほどだ。


 エドワードは必死に平静を装ったが、指輪を手渡す際に指が触れてしまい、好きだという気持ちが溢れそうになった。


 家宝として受け継がれる指輪も、本来ならエマに喜んで差し出したかった。それにもかかわらず、エマから「呪い近い物」と言われショックを受けた。

 黒輝石のせいでエマに嫌われ、結婚もダメになるもしれないとエドワードは不安になったが、思わぬエマのお願いに舞い上がるほど嬉しかった。


「私を領地へ連れて行ってくださいませんか?」

(はい!)


 理由が何であろうとも、エマが領地に来たいと言ってくれたので、すぐに連れ帰りたくなるほど嬉しかった。

 

「まだ憶測でしかありません。今なら婚約者として自然に調べに行けますから」


(婚約者! 良かった! エマ様が私との結婚を了承してくれた!)


 エマは婚約者という建前で領地へ自然に行けると言ったのだが、エドワードは都合良く勘違いしていた。そして一生涯守り抜く決意表明をした。


「エマ様は必ず私が守ります」


 エマの父親と話し合い、領地へ旅立つのは3日後となった。エドワードは待ちきれず気もそぞろに過ごし、当日約束の時間より前に到着した。


「エマ様おはようございます」


(なんていい日なんだ! 今日から婚約者のエマ様とずっと一緒に過ごせるなんて!)


 エドワードはエマの前に自然と跪き、手の甲に口付けしていた。


「私、エドワード•ランドルフは、必ずエマ様を守ると誓います」

 

 護衛たちはエドワードが攻め過ぎだとハラハラしていたが、待ち望んだエマを手に入れた(と思った)エドワードは止まらず、まるで別人になったかのように惜しみない一途な愛をエマ注いでいた。

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