14 白輝石
広場の噴水の黒輝石は翌日無事に浄化し終えた。それでもエマの心は晴れず、いまだにどんよりしていた。
今日もエマとエドワードは何の新婚らしさも無くベッドに横になる。
月明かりが差し込む部屋で、エマはエドワードが起きているか確かめるように囁く。
「エド様……」
まるで助けを求めているかのようなか細い声だった。
「エマ、人にはできることが限られている。1人で背負う必要はない」
「そうですけど……」
エマとエドワードはベッドに横たわりながら目を合わせる。
「エマ、この旅行の目的覚えてる?」
「目的?」
「新婚旅行だよ!」
「あっ! ごめんなさい」
エマは完全に忘れていた。
「忘れていたわけではないんですが……怒りましたか?」
エマは遠慮がちにエドワードを見つめる。エマは1つのことに集中すると他を忘れる癖がある。エマが忘れたことなどエドワードにはお見通しだ。
エドワードの鋭い視線にエマは白状する。
「すみません、嘘をつきました。忘れてました!」
エマの素直な謝罪にエドワードも追及の手を緩め、エマの頬に優しく手を添える。
「一生懸命なエマも好きだけど、エマには笑っててほしい。私にとって1番大切なのはエマだから」
「エド様……」
エドワードと一緒にいるとエマの心は軽くなる。前向きになれる。
「エド様、一緒にできることを考えてくれませんか?」
「できること?」
「はい。浄化以外に私にできることを……」
2人の魔法議論は朝まで続いた。黒輝石の浄化方法を話し合って解決策を見つけた時のように――。
「2人とも、昨夜は寝なかったの?」
「ミカエル様」
エマとエドワードの瞼にはクマがあり、寝不足なのは明らかだった。
「エドワード、やり過ぎだよ! エマ嬢は浄化で疲れてるんだから手加減してあげなよ!」
エマはなぜミカエルがエドワードに怒っているのか理解できなかったが、エドワードが何も言わなかったので話を進めた。
「ミカエル様、昨日エド様と新しい魔法を考えていたんです!」
「新しい魔法?」
「はい! 闇魔法使いが黒輝石を作れたなら、私も何か対になる物を作れないかと……」
「聖魔法で対になる物……」
「まだアイディアだけで何も具体案はないんですけど、黒輝石の効果を相殺するような物ができればと思って」
「なるほど……。考える余地はありそうだね」
こうしてミカエルが持ってきたクラマフの残りの黒輝石を浄化しながら、新しい魔法についてみんなで考えることになった。
「黒輝石は呪いや病を形にした物だから……聖魔法で何を形にすればいいんでしょうか?」
「……形にする必要はないのでは?」
「えっ!?」
「エマ嬢はエドワードの水魔法に治癒魔法を流して黒輝石を浄化している。同じように何か形ある物に治癒魔法を施してみてはどうだろうか?」
「ミカエル様! とってもいい案です!」
(何か形ある物……何がいいかしら? 治癒魔法を込める物……)
エマはふとエドワードにもらった婚約指輪を見る。ブルーダイヤには守護魔法がかけられていると言っていた。
「エド様! この指輪には何の魔法がかけられているんですか?」
「えっと……」
「守護魔法がかけられているからいつも身に付けるようにって言ってませんでしたか?」
エドワードがエマの問いに答えられずにいると、ミカエルが指輪を分析する。
「あー、これは位置探知の魔法と、攻撃を受けた時に跳ね返す魔法だね。後は……」
「ミカエル様! やめてください!」
「位置探知?」
「エマ、言わずにごめん」
「だから指輪を見ると、いつもエド様が見守ってくれているような気がしたんですね!」
「怒っていないのか?」
「何にですか?」
エドワードはエマに怒られずにほっとした。だが1日に何回も、多い時は何十回もエマの位置を確認していたとは言い出せなかった。
エドワードの結婚指輪の内側に小さいダイヤが埋め込まれていて、魔力を流すとエマの位置を把握できる。
ちなみにエマが婚約指輪と重ね付けしている結婚指輪は、小さいダイヤが半周並ぶハーフエタニティだ。もちろんこれにも位置探知の魔法が付与されているが、エマには何も言っていない。
「どうやって石に魔法をかけるんですか?」
「付与魔法を使うんだ」
「付与魔法……」
位置探知のような特別な魔法の付与は、専門家である魔道具師でないと難しいらしい。しかし主属性の魔法なら比較的付与しやすいそうだ。すなわちエマなら聖魔法もしくは水魔法なら付与しやすい。
エマはまだ魔法の付与をしたことがなかった。
エドワードは付与魔法が得意ではないらしく、嫌々ながらミカエルがエマに教えることを許した。
「何に付与させましょうか?」
「ダイヤのような鉱石は付与しやすいと言われている」
「なるほど……」
石は不純物が少ないほど付与魔法がしやすい。だが良質な鉱石を準備するには時間もお金もかかる。
「……これはどうでしょうか?」
エマは浄化され透明なガラスのようになった元黒輝石を手に掲げる。
「黒輝石か!」
「はい。浄化した黒輝石は使い道がないので、再利用できたらなと……」
「やってみよう!」
エマは訓練に励んだが、いつまで経っても付与魔法をマスターできなかった。
「ミカエル様、私無理な気がします」
「うん、私もそんな気がしていたよ!」
エマは1つのことに集中するタイプだ。同時に治癒魔法と付与魔法の2つを器用に使えない。
「いい案だと思ったのに……すみません」
「仕方がない。人間向き不向きがある。エドワードに付与させよう!」
「えっ!?」
エドワードは2人の訓練を見守っていたが、まさか自分が加わることになるとは思っていなかった。
「エマ嬢と魔力の相性が1番いいのはエドワードだ。さぁ、やろう!」
こうしてエマとエドワードは一緒にミカエルから指導を受けることになった。エマの時とは違いミカエルはエドワードにスパルタだった。
エマが付与魔法に挑戦してから数日後、ほとんどエドワードの努力の成果により、エマの治癒魔法は元黒輝石に付与することができた。
「できた! やった! 輝いてる!」
闇魔法により黒輝石が黒く輝いていたのに対し、聖魔法により元黒輝はオパールのような乳白色になり輝いていた。
「取り敢えず白輝石と名付けようか」
「はい!」
白輝石第1号が完成し、次に効果を調べる段階へと移った。
「問題は黒輝石に効果があるかですね」
「エマ嬢、白輝石はもはやそんなレベルではない。世紀の発明と言ってもいい!」
「え? 世紀の発明ですか!?」
「治癒魔法が込められているんだ! 黒輝石と正反対の効果、つまり本当に魔物除けになるかもしれない。それだけではない! この石だけで治癒ができるかもしれないし、他にも様々な可能性がある!」
「それって……」
エマはミカエルの熱のこもった話に圧倒され、少し怖くなった。
いい物が世の中にとって必ずしもいい結果を引き起こすとは限らない。黒輝石の性質の発見が人間の争いを引き起こしたように、白輝石ができたことでまた争いの種になり得ることをエマは懸念した。
「エマ嬢、白輝石の取り扱いは私に任せて欲しい。エドワードもそれでいいかな?」
エマとエドワードは領地に戻ってマーカスに相談したかったので、取り敢えずミカエルに任せることにした。
白輝石の魔物への効果の検証は、ミカエルが行うことになった。魔物を捕まえて黒輝石のみの場合と、黒輝石と白輝石を置いた場合で比較実験するらしい。
実験にはエマとエドワードも誘われたが、エドワードが断った。
「ミカエル様、私たちは実験には同行しません。ナタリーだけ同行させてもいいですか? 私たちは新婚旅行中なので!」
「そうだったね! 安心して任せてくれ。責任を持って調べてくるよ」
ミカエルはまだしも、また新婚旅行だと忘れかけていたエマはハッとする。
(エド様と全然旅行を楽しんでいないわ!)
その夜部屋に戻ったエマはエドワードに疑問を投げかける。
「エド様、実験に同行しなくて良かったのですか?」
「エマ、エマがいたら魔物が寄ってこないだろ? ミカエル様にそのことを知られたくない」
「そうでしたね……」
「それにもうここに来て10日も過ぎた! まだ新婚旅行らしいことを何もしていないじゃないか!」
「そうでした!」
言い訳すると、エマは毎日のように魔力がなくなるまで魔法を使っていたのでヘトヘトだったのだ。
「明日からは楽しもう」
「はい!」
エマは明日からは新婚旅行を満喫することを誓い、エドワードは明日こそエマと温泉に入ることを誓って就寝した。




