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10 未来

「父上、うまくいったのですね」

「あぁ」


 エマが寝静まった後、エドワードはマーカスの部屋を訪れていた。


 王家の結婚式当日に神殿とコリンズ家の屋敷が魔物に襲撃され、黒輝石の製造•売買に関わった者が犠牲になる。そんな都合が良いことは祟りでも偶然起こったわけでもなかった。そのように仕向けた人間がいるのだ。


「直接手を?」

「いや、皆魔物にやられたよ……」


 エドワードはマーカスを注意深く見るが、嘘か真か判断できなかった。


 ランドルフ家と世界各国の王族は優秀な魔法使いを連れ、結婚式の日のために王都入りしていた。積年の恨みが募り、復讐せず平和的に解決する道などもはや残されていなかった。


 アレンとクレアに渡す結婚祝いの品には、黒輝石が隠して使われていた。黒輝石を元ある場所へ返したのだ。そうして各国から少しずつ黒輝石が王都に集まり、魔物を惹き寄せるほどの量になった。


 王家は王都には魔物は出ないと信じきっていた。

 他国は魔物の脅威から国を守るため、優秀な魔法使いの育成を重要視し、十分な費用を割り当てている。しかしスロアニア国ではランドルフ家に任せきりで、王都には魔物と闘えるまともな魔法使いがいなかった。


 各国は協力して、罪なき者へは被害が出ないように神殿やコリンズ家の屋敷以外には結界を張り、魔物をうまく誘導した。その結果特定の場所のみ魔物に襲撃させることができ、同時に一般人への被害は防いだ。


「聖女はどうでしたか?」

「クレア以外は本物だった」

「そうですか……」


 神殿の本物の聖女には黒輝石のことを事前に説明し避難させていた。

 

 こうして罪を犯した者が報いを受ける祟りが出来上がった。

 エドワードとマーカスは、この周到な復讐計画をエマには話さないことに決めていた。エマを悲しませないために。



♦︎


 今日もまたエマはエドワードと共に黒輝石の浄化をする。黒輝石がもたらした人々の悲しみを癒すように。


「どうした?」


 エマは浄化され透明になった黒輝石を見つめている。


「どうして黒輝石に触れただけで浄化できるのか考えていたんです」

  

 エマは以前呪いの剣を解呪したが、その時は解呪魔法が必要だった。


「闇魔法使いの特別な願いが込められているんじゃないかと思って……」

「闇魔法使いの願い?」

「はい。もしかしたら、誰かに浄化してもらいたいという願いが、黒輝石を特別な物にしたのではないかと……」


 エマの優しい横顔をエドワードが愛おしそうに見つめる。


「もし私が闇魔法使いで……もし目の前に病や呪いで苦しんでいる人がいて、自分がその人を救えるとしたら……きっと私も黒輝石を作ってしまったと思います」

「エマ……」


「彼女らはできることをやっただけなのかもしれません。私とエド様が協力して黒輝石を浄化しているように、聖魔法使いと闇魔法使いが協力できていれば、別の道があったかもしれません」


 エマは闇魔法使いがどんな想いで黒輝石を作っていたかはわからない。わかるのは闇魔法使いが黒輝石を作り、世界中を苦しめたという事実だけだ。


 またいつの日か闇魔法使いが生まれるだろう。自分が闇魔法使いだと気づくか気づかないかはその人次第。

 だが同じ過ちを繰り返してはならない。


 聖魔法使いと闇魔法使いが互いに手を取り合い、人々を救う世界が訪れるかもしれない。そんな世界をエマは夢見た。



♦︎


 そして、待ちに待ったエマとエドワードの結婚式の日が訪れた。


「エマ、綺麗だ」

「エド様も素敵です」


 真っ白なウエディングドレスを身に纏ったエマは、エドワードと対面し胸が高鳴った。

 エドワードは普段暗い色の服を着ることが多い。どんな服でも似合ってしまうエドワードだが、白いタキシード姿にエマは惚れ直してしまう。

 

 エマは王子の婚約者候補にさせられた時から、幸せな結婚ができると思っていなかった。いつまで経っても候補から外してもらえず、同年代はみな婚約者が既にいて、一生独身という可能性も考えていた。

 

(こんなかっこいい人が私の旦那様になるなんて……! 幸せすぎるわ!)


「エマ、緊張してる?」


 エマの少し冷えた手にエドワードが優しく触れる。


「少し……。エド様は?」

「……緊張は夜かな?」

「夜?」

「今夜からエマと一緒に寝れるから」


(今夜!? 一緒に寝る!? そうよね、夫婦だものね! どうしよう、どうしたらいいんだっけ?)


 エマはエドワードに熱い眼差しを向けられ、羞恥で顔が赤く染まる。結婚式の緊張など吹っ飛び他のことで頭がいっぱいになった。


(エド様の意地悪ー!)


 普段はエマに優しいエドワードだが、時々急に男のスイッチが入るようになりエマを度々困らせていた。



 エマは大勢の人から祝福を受ける。

 エマとエドワードの結婚式にはエマの家族はもちろんのこと、エヴァンス国の王子も出席してくれた。以前プロポーズを受けたミカエルである。


「ミカエル様が第3王子!?」

「そうだよ! やっぱり私と結婚する?」


 ミカエルがウインクしながら言った冗談に、エドワードはまたもや氷魔法は展開させようとしていた。


「エドワード! それ本気のやつだろ!」


 無意識の魔法ではなかったらしい。


 エマの左手薬指には、エドワードの瞳の色をした大きなブルーダイヤモンドが輝く。


 エマの父と母は、新郎新婦の仲良さそうな姿に嬉し涙していたが、兄ベルマンは悔し涙のようだ。


「エマを幸せにしなきゃぶっ飛ばすからな!」


 エマはエドワードとベルマンが喧嘩しないか心配したが、エドワードはそんなベルマンの肩を抱き、仲良さそうに小声で何か話し合っている。


 大好きな人たちに囲まれ、エマの結婚式は笑顔で溢れていた。

 そしてエマはこれまでにない幸福を感じていた。



「エマ様、おめでとうございます!」

「マリア様、ありがとうございます」


 数日前から滞在している聖女マリアも祝福してくれた。マリアは黒輝石の効果的な浄化方法をエマに習いに来ている。

 

 エマの元へは聖女たちが順番に訪れていた。これから各々世界中の黒輝石を浄化し回る予定だそうだ。


 これでもうエマ1人ではない。エマはずっと抱えていた重荷を分けることができた。

 


 そして数年後、黒輝石が減ったことで他国にも聖女が現れ始めることをまだエマは知らない。


 黒輝石は世界中に散らばり数が多いが、0になる日はそう遠くないだろう――。


(1章 完)

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