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01 偽聖女

「エマ•フローレス! 無能な偽聖女は私の婚約者として相応しくない!」


 夜会で突然名を呼ばれたエマは、アレン王子の宣言に呆れながら向き合った。


「同じ婚約者候補のクレアの方が優れているからといって、陰湿な嫌がらせをしていたそうだな。よってそなたを私の婚約者候補から外す」


 完全なる言いがかりである。


「事実無根です。私はクレア様に嫌がらせなど行なってーー」

「黙れ! 未来の王妃に嫌がらせするとは愚かな。もう顔も見たくない」


 エマの主張はアレンに遮られた。


 エマは嫌がらせなど全く見に覚えがなかった。クレアになぜか苦手意識があり、ほとんど関わったことがないのだ。

 その上、王子の婚約者候補から外してほしいと何度もお願いしていたのに、認めてくれなかったのは王族の方だ。


(私が何を言っても無駄なようね)


 すでにクレアが正式な婚約者になることは確定しているような言い方だ。慎重に返答しなければとエマが思案していると、アレンはまたとんでもないことを言い出した。


「だが優しいクレアはお前の将来を心配していた、一生独り身になるのではとな。だから私が見つけてやった。王命だ、ランドルフ家のエドワードと結婚するように」


(はぁ!? おっといけない。つい本音が出てしまうところだったわ。勝手に決めんなアホ王子!ってね)


 静まり返っていた会場から、くすくすと嘲笑が聞こえてきた。


「ランドルフ家って辺境の?」

「呪われた地に偽聖女とはお似合いね」

「魔物に襲われないといいけどな」


(そういえばエドワード様は嫁探しに苦労しているとの噂があったわね……)


 ランドルフ家は隣国と接する辺境に位置し国防を担っている。だがそれ以上に魔物退治という役割が大きい。王都や他の領地ではほとんど見られない魔物の襲撃が多く、呪われた地と呼ぶ人もいる。そのせいで嫁がなかなか見つからないようだ。


「エマ、離れてもお互い聖女として、国のために尽力しましょう」


 クレアは天使の微笑みと呼ばれる笑みを浮かべ、アレンに寄り添っている。


 クレアはコリンズ公爵家の長女で、聖魔法に優れている。コリンズ家はこれまで聖女を多く輩出し、王族との関係も深い。

 真紅の髪が美しく魅惑的な容姿をしており、クレアと目が合うと老若男女問わずその魅力に惹きつけられてしまうらしい。初代聖女に顔が似ていることからも、国民から本物の聖女様と崇拝されている。


「……承知しました。それでは準備がありますので失礼いたします」


 普段は温厚なエマだが、今日ばかりは自分を抑えるのに苦労した。得意の笑顔で本音を隠して優雅に一礼をし、堂々と会場を後にした。王命と言われれば逆らうことができないので、これ以上アホな王子と話しても無意味だと判断したのだ。


 エマの堂々とした姿にアレンも取り巻きたちも面食らった顔をしていたが、クレアだけは天使の微笑みを崩さなかった。


 エマがアレンの婚約者候補だった理由は、聖魔法使いだからだ。スロアニア国の貴族は7才になると、神殿で魔力鑑定を受ける義務がある。エマも7才の時に神殿で聖魔法使いだと鑑定された。


 この魔法が溢れるスロアニア国でも特に珍しいのが聖魔法使いだ。王子に年の近い聖魔法使いが生まれると、強制的に婚約者候補になってしまう。それだけ聖魔法が稀少なのだ。現在国にいる聖魔法使い5人のうち、アレンと同年代はエマとクレアの2人だけだった。


 聖魔法使いは治癒魔法が使えるレベルになると、神殿での務めが始まる。クレアが10才の時に治癒魔法の才能を開花させたのに対し、未だに神殿務めも始まっていないエマ。


 エマの魔法はどんなに頑張っても成長しないままだった。偽聖女と言われ、もはやいつアレンの婚約者候補から外してもらえるのか、一日千秋で待っていたくらいだ。


 エマの意志とは関係なく勝手に婚約者候補にされ、勝手に候補から外された。それも不名誉な形で――。

  

(辺境のエドワード様というと……確か私の2つ上で20才だったはず。優れた氷魔法の使い手と聞いたわ)

 

 エマは馬車に揺られながら、エドワードについて持っている知識を振り絞った。


 エマは社交界に疎い。そんなエマでもエドワードのことは知っていた。エドワードは誰もが見惚れるほど容姿端麗だ。冷酷な表情を終始変えないことと、氷魔法の使い手であることから、氷のプリンスとして有名だった。


(一度だけ夜会でお見かしたことがあるけど切れ長の目に薄い唇、細身だけど鍛えられた身体でまさに眼福だったわね。誰も嫁ぎたくないから目を合わせないようにしていたけど……)


 エマはアホな王子より優秀な美男と結婚した方が幸せになれるのではと考え、イライラが少し収まった。 


♦︎


「辺境になぞ行く必要はない」

 

 エマは王都にある家に着き次第両親に夜会での経緯を説明すると、予想通り父が怒ってくれた。母は倒れそうになったので、今はソファで横になりながら泣いている。


(お兄様が留守で幸いしたわ。いたら王家に殴り込みに行ったかもしれないわね)


 エマのことを愛する長兄ベルマンは出張中のため不在だった。


 落ちこぼれの偽聖女と言われてもエマが真っ当な人間に育ったのは、温かい家族に恵まれたからだ。貴族で魔法が使えないと、冷遇する家庭も多い。魔法もろくに使えないエマの周りは、いつも愛情で溢れていた。


 エマは魔法も落ちこぼれだし、見た目もあまり良くないことは自覚していた。いわゆるぽっちゃり体型なのだ。どんなに食事に気をつけて運動しても痩せることはなかった。

 髪も銀髪に近い色で、アレンからは老婆のようだと不評だった。


 しかし魔法が使えなくても痩せられなくても、不思議と卑屈になったことはなかった。できないものはできない。できることを考えるポジティブ思考がエマの取り得だ。


「王命なのよ。結婚を受けるしかないわ」

「嫌よ! 辺境には魔物が出るのよ?」

「でも辺境と繋がりができるのはいいことだと思うの。お父様もお兄様も、現政権は危ういってよく嘆いてるでしょ?」

「エマ……。ハハハッ! 流石私の娘だ。確かに亡命するには辺境との繋がりは大きな力になる。しかし今すぐ亡命しても良いのだぞ?」


 エマには父の言葉が嘘ではないことがわかった。それほどフローレス家が治める領地レイトンは肥沃で、農作物の栽培にも優れている。エマの父は財務大臣を務めるほどの政治的手腕があり、隣国も快く迎え入れるだろう。


 しかしこれまで亡命しなかったのは、スロアニア国の魔物発生率が他国と比べて極端に少ないからだ。王都では全く魔物に遭遇しない。日常的に魔物がでるのは辺境くらいだ。


 それはスロアニア国に聖女がいるからだという説もある。他国に聖女はいない。スロアニア国に5人も聖女がいるということが奇跡なのだ。


「私たちは魔物について無知です。無闇に領民を道連れにすることはできません」


 お互い譲らぬ性格の父と子の家族会議は何時間も続くかのように思えたが、突然の来訪により中断された。

ゆるゆる設定です。よろしくお願いします。

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