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11.ハックアンドスラッシュ


 ダンジョンの主、ディディは近くの街で生まれた。貴族の妾の子だった。母親は物心つく前に屋敷から去った。家では使用人同然に扱われた。

 彼には生まれながらの異能があった。何でも凍らせてしまう能力。

 暑い日に父親に喜んで欲しかった。愛されなくてもいい。少しだけその心を満たせたのなら、それをよすがに生きていける。

家の外に出ることも禁じられていたディディは知らなかった。

 異能を持つものがどういう風に思われて、扱われるのか。

 目の前で凍ったグラスを見た子爵は目の前の使用人を打ち据えて捨てるように言った。

 全身を鞭で打たれ、洞窟の奥の穴の底に落とされた。


 ディディは穴の中で小型モンスターに育てられた。ディディは虫を凍らせて家族を守り、虫は家族の食事になった。大きくなってからは独り立ちして洞窟を出た。

 冒険者となり放浪するうちに、母親は魔族だったのかもしれないと気付いた。魔族の国へ行き探したが見付からなかった。魔族の国は豊かだったが、里心が出て洞窟へ戻り過ごした。そしてある日。


「いやあーできるかなあって思っちゃって」


「わかる」


 スキルで時間を凍らせれば不死になれるのでは?と思いやってみた。


「でもね。生きてる意味が、もうないなって」


 途中で心変わりをした。大規模に発動したスキルの反動が来た。死んでもいいと思った。彼は自分のスキルに殺されることを受け入れた。が、


「最後に一目見たかった。皆で競い、構築を練った、私の輝かしい日々の思い出。魂の片割れ」




 そもそも思い付きで行動するからそういうことになるんだぞ。

 狂ったさみしい短慮の愚か者の体は死んだ。しかしかつて思い余って魂を取り分けて宿らせたデッキのことを忘れていた。魂を宿すほど大切なデッキは倉庫にしまっていたので大規模に展開したスキルの影響を受けず残ってしまった。死にきれずアンデッドと化した愚か者は家から出られず長い時間をここで過ごす羽目になったらしい。どう考えても自業自得だ。一片の情状酌量の余地もない。完全無欠の愚か者だ。馬鹿2匹の教育に悪いから近づかないでほしい。


「デデさん、寂しかったんだなあ…でも仲間と遊んだんが大切ってのはわかるよお!」


 馬鹿が号泣してアンデッドの肩を叩く。埃が飛んだ。ばっちいな。


「じゃあもういいね。安らかに。さようなら」


「うーん、もう一声」


 この短慮おバカが過酷な過去を持ちながら生き抜けた理由をひしひしと感じる。図太いからだ。クロヒョウと同類だ。親近感を抱く前に可及的速やかにこの世からご退去願おう。


「私も引篭り歴ざっと30年…追い出したくば専門業者を呼んでもらおう」


「未練だよなあ」


 どんな未練だ。きっと大したことないぞ。冷たくて暗くて意外と居心地良かったのでもうちょっとここにいてもいいかなー、くらいの理由だ。魂が根暗なのだ。可哀そうな子だな。


「じゃ、いっちょ断ってやりますか!」


「えっ」


 陰りすらない光の馬鹿にはちっとも通じていない。根暗はええー、すぐでなくともいいよお、と囁いている。そんな小さな声では馬鹿には聞こえないぞ。本当に何も考えていないので遠慮なんてするべきではない。


「デデさんのおかげでなんかできそー。時間を凍らせるっての?がアリなら、未練を切るのも剣でいけるだろ」


「本当にいけそう?私失敗したって言ったよね?うわうそお…やる気ぃ…」


 残念だったな、馬鹿は興味のない話は聞いていない。最初の1分と興味のあるスキルとカードゲームの話しか入っておらず、過程や結果はさっぱり無かったことになっている。


「必殺!真空の刃!!」


 更に変化した技名と、何もかもが断たれる音が響いた。

 遺体は光の粒子となって霧散した。









 ディディさんは自分の遺産相続方法と遺体の埋葬方法について長々と語ったあと消えていった。死後の未練が断たれた間際に終活する人って初めて見たし自分はこうならないようにしようと思いました。なんだかんだ、きっちり言い残していったあたり能力はあった人なのだろう。死因は短慮なおバカだったが。デッキは予備を含めてくれるらしい。金属製のケースを6つほど渡される。重い。


 言うだけ言って透明になろうとしたので魔族のことについて教えろと懇切丁寧にお願いしたらカードゲーマー仲間の連絡手帳をくれた。魔族にも個人情報の概念はなさそうだな。魔族の国への行き方は国防上教えられないと言われた。一旦国に入った者が他人に漏らさないように魔術で縛られるらしい。その代わり、国に入った後はゲーマー仲間の伝手を利用してもいい。このデッキと手帳に下げたアクセサリーがあれば私が託したと分かるだろう。まずはゲーマーの集まる場所に行け。こいつとこいつは性根の悪いデッキ構築だったので気をつけろ。こいつは速攻、召喚系デッキ使用者は特に親しいのではじめに連絡を取るならこいつ。なんの情報だこれは。馬鹿2匹は予備のデッキを使って遊んでいた。なんで馬鹿はこういう知識だけはすぐに吸収するんだ。






 山の麓には小さな教会が建っていた。

 無名の寄付者が普請した教会には、身寄りのないものを弔う共同墓があった。めったに参拝者など来ない。他の墓に比べて雑草が生い茂り枯草で覆われている。

 馬鹿は司祭に掛け合って道具を借りて掃除をはじめる。葵はどこをみているのか分からない顔をしてから「旅路で行き倒れた者を見つけましたが忍びなく、遺品だけでも弔ってやれないかと困っています」のポーズをした。年配の司祭は死んだ親猫から離れようとしない子猫を見るような目で葵を見て共同墓地の使用を快諾してくれた。遺品を埋めて教会へと頼まれた相続金を渡した。


「なんまいだぶー」


「南無阿弥陀仏」


 馬鹿2匹が手を合わせている。どう見てもここは西洋風だ。あとクロヒョウはなんでそういうことだけは知っているんだ。


「こーいうのは気持ちでいいんだよ」


「ディディさんはじごくもたのしいよ」


 さらっと地獄行きが決められている。ボクもそう思う。はた迷惑な奴だったから。地獄では虫にでも集られていてほしい。それにしても地獄の底の虫を返り討ちにして食っていそうな奴だった。






 道中は3人でカードゲームをしながら、元の街まで戻った。

 ちなみにボクは全敗だった。野生動物どもめ。手加減というものを学べ。友達を失くしてもボクは知らないからな。





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