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同人誌即売会と悪役顔令嬢  作者: 狐坂いづみ
C97冬編
43/171

第38話 2日目 協力者

 

「お嬢様、車を呼んで持って帰りますか」

「今から呼んでも、大泉からここまで一時間はかかるでしょう」

「そうですね……」


 前日作業はひと段落している。明日も朝が早いこともあり、さすがに一時間以上ここに残るつもりはない。

 

「サークルスペースに置かせてもらえるような知り合いがいればいいのですが」


 どんどん搬入されていく印刷所の箱。これらと同じように一晩置かせてもらえればいいのだが。

 知り合いに電話している倉敷も苦戦しているようだ。

 たまたま自分の知り合いで、明日サークル参加をし、今日の搬入物が少なく、気前良くダンボールを置かせてくれるような知り合いはそう都合よくいかないだろう。


「江口橋さん、3日目にサークル参加するようなお知り合いはいらっしゃいませんの?」

「生憎サークルの知り合いは少なくてな……」

「そうでしたか」


 サークルの知り合い、というところで思い当たる人物がいた。

 思い立ったあかねは、すぐに電話をかけた。


『はいー、瑞光寺さん、お疲れー。どしたの?』

『君堂さん、お願いがあるのです』


 サークルの知り合いがいそうで、連絡先を交換している数少ない知り合い。

 とにかく顔の広そうな君堂に、一連の事情を説明する。

 

『何それケチくさい本部だなあ。腐るもんじゃなしいいじゃんね。分かった。ちょっと知り合い当たってみるから待ってて。その代わり明日の朝はちゃんと回収してね』

『もちろんですわ』


 通話を終えると、あかねは息をついた。

 君堂はこれから知り合いを当たってくれるらしい。自分の業務もありそうな中、申し訳がなかった。

 そして、突き合わせてしまった江口橋と倉敷にも時間を取らせてしまった。

 

「江口橋さん、わたくしは間違ったのでしょうか」

「いや、こういうのに正解はない。サークルがあの量を持って帰れない以上、助けるしかなかったな」

「君堂さんにご迷惑をおかけしたかもしれません」

「大丈夫だろ。十分恩を売ってる」

「恩、ですか」


 あまり思い当たらないあかねは、首を傾げた。

 どういうことか確認しようと口を開いたとき、君堂からの折り返しの連絡があった。

 あまりにも早い。


『あ、お疲れー。さっきの件だけど、今日オンリーで一緒だった根岸さんが、456で搬入してるんだって。車で乗るレベルなら持って帰ってくれるらしいんだけど、連絡先教えても大丈夫?』


 根岸さん……髪が外にはねている大人しめの女性だった。車で搬入に来ているということだろうか。

 

『根岸さん、ですか。もちろんですわ。君堂さんにご迷惑をおかけして』

『いいっていいって。瑞光寺さんの頼みだからね。あはは』


 わずか一分で解決してしまった。

 あかねは我がことながら、繋がりの大事さというものを思い知っていた。

 倉敷にあてが見つかったことを伝えると、明らかに安堵した後、またも尊敬のまなざしであかねのことを見つめていた。

 すぐさま着信があった。

 

『こんばんはー……根岸です。今どこでしょう』

『瑞光寺です。今は東4と東5の間の、トラックヤード側に』

『あ、いた……』


 かぶせ気味に根岸の声が聞こえると、すぐに通話が切れた。

 どこにいるかと見まわす前に、背中までの髪を外に跳ねさせた根岸が現れた。

 

「ども」

「ごきげんよう、根岸さん」


 今日は首から搬入員証を下げている。団体名の欄には印刷所の名前が書かれていた。

 長袖も肘までまくられていて、明らかに力仕事をしていた様子だ。

 少しやせ気味の根岸からは、なかなか想像がつかない。

 

「根岸さんは印刷所の方だったのですね」

「そう」


 根岸は短く答えると、四人の背後にあるダンボールの塊を見て理解したらしい。

 

「搬入でもゴミは出るし……車で来てるし、それ……持って帰る」

「申し訳ございません」

「ううん。君堂さんからも頼まれたし……瑞光寺さんにもお世話になった」

「お世話、ですか」

「うん」


 またも思い当たらないのだが、これは大きな借りだとあかねは考えている。

 根岸がいなければ、あと一時間ここで家からの車を待つことになったかもしれない。

 そうだ大泉。

 根岸は何度か大泉に来たことがあると言っていた。キュアプリの最速上映で。

 上映が終わるのは終電も出た後の真夜中だと聞いている。

 

「今度大泉に来られたときは、ぜひ遊びにいらしてください。真夜中でも歓迎いたしますわ」

「本当? とても助かる……始発まで、いつも暇だから」

「ねえ、雀田さん」

「もちろんです、おじょ……瑞光寺さん」

 

 二人の関係をよく分かっていない根岸は不思議そうに雀田を見たが、何となく「お世話になります」と頭を下げていた。

 ちょうど空になったミニバンに江口橋と協力してダンボールを積み込むと、根岸は「それじゃ、良いお年を」と颯爽と仕事に戻っていった。


「あれ、江口橋さん、お疲れ」

「雲雀、お疲れ」


 江口橋が知り合いらしき男に声を掛けられていた。

 聞き覚えがある声と名前だとあかねは思ったが、どこかで会ったかと記憶をたどる前に向こうが話しかけてきた。

 

「そっちの二人は昼間に会ったね」

「あっ、メイドの」


 倉敷のその言葉で思い出した。

 短髪メイド服でゴミ集めを褒めてくれたスタッフだった。

 

「そうです。東5ホール、マミブロック長の雲雀です」


 すっかり着替えてしまって、ベージュのセーターに黒のズボンとなっていたので、彼のことをすぐに思い出せなくても無理はなかっただろう。

 雲雀は東4ホールのスタッフが東5の手前で四人も揃っているのを不思議そうな顔で見た。

 

「どうかしたんですか、こんなところで」

「ああ、実は」


 江口橋が今回のことを説明する。

 いろんな人に説明しているが、知り合いということもあってか、事情を聞いた人はみなこちらに同情的だ。


「本部で預かればいいのに。まあちょっと邪魔だけど。あー、でも今日も警戒態勢敷いてるから厳しいかなあ」

「かなり大きかったしな」

「それこそ手分けして持って帰れってんなら今残ってるスタッフで手分けすればいいのに。大体、アナウンスをさぼってたホール全員の責任でしょ」


 我がことのように憤ってくれている雲雀を、江口橋がなだめている。

 君堂もそうだったが、江口橋もなかなか顔が広いようだ。

 

「それはそうと」


 ぱっと切り替わって、雲雀は友好的な笑みを見せる。

 あかねと倉敷を交互に見て、うんうんとうなずいた。

 

「二人とも、見どころあると思ってたんだよね。なるほど江口橋さんのブロックだったのか。えっと、瑞光寺さんと倉敷さん。どう、次はうちのホールに来ない?」

「まだ明日が残っておりますし、次回のことは考えられませんわ」

「私も友達とスタッフしているので、相談してみないと」

「そっかー。じゃあ検討しといてね、ふたりとも」


 あっさりと引き下がる。

 それにしてもスタッフは口をそろえて「うちのホールに来て」と言うが、お決まりの社交辞令なんだろうか。


「じゃあまた、縁があったら」


 後ろに止めてあったトラックがエンジンを始動する音が聞こえてくると、雲雀は身を翻した。


「外周、車両動きまーす!!」


 東5ホールに、雲雀の声が響き渡った。


 

 

 冷ややかな目でルレロブロック員を迎えた本部だったが、巨大なダンボールが消えたことにはすぐに気が付いたようだった。

 ブロック員を手で制し、江口橋が代表して前に出る。

 

「結局あれどうしたの」

「車の知り合いに持って帰ってもらった」

「ふうん、あっそ。あんま変な仕事受けないでくれよ」

 

 最低限の報告だけ済ませたということらしい。

 江口橋は義理は果たしたと言わんばかりに足早にホール本部から離れた。


「江口橋さん、本部の方はどこでもああいう感じなんですの」

「そうでもないと思うんだが。今日は本部連中は警戒態勢でずっと緊張を強いられていたからな。特にあいつはしばらく現場に出られてなのもあって不機嫌なんだと思う」

「そんな事で周囲に不機嫌をまき散らすとは、あまり格好良くはないですわね」


 雀田も肩をすくめて苦笑いする。

 彼女の場合は何よりも『お嬢様』に不愉快な思いをさせていることを不快に思っているようだが。

 

「悪かったな、瑞光寺さん」

「江口橋さんに謝られることではありませんわ」

「東4に誘ったのは俺だからな」


 確かに、江口橋と同じブロックになるよう登録した。

 だが、だからこそ倉敷と交流を持ち、作家の高村とも再会できたのだ。

 何より江口橋は自分のことを気にかけてくれ、そしてちゃんと助けてくれた。


「誘っていただけたからこその出会いや再会がありましてよ」

「そうか」

「でも、さらなる出会いを求めて、違うホールに行ってもいいかもしれませんわね」


 ほとんどのスタッフは、基本的に担当ホールを変えることはない。

 江口橋のようにホールを渡り歩いている館内担当はかなり珍しかった。

 

「そうだな」


 いつか、その理由を聞いてみたいとあかねは思うのだった。

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