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同人誌即売会と悪役顔令嬢  作者: 狐坂いづみ
川崎オンリーイベント編
131/171

第117話 アフターイベントにて

 あかねはちらりと時計を確認する。

 もうほとんどのサークルで頒布も終わり、それぞれが雑談や撤収に興じているように見える。

 早く完売したところが多かったということは、スペース数の割に参加者数が多かったのだろう。


「会場内の皆さん、お疲れ様です。ただいまを持ちまして『今でも元気です』の即売会の部を終了します。ありがとうございました」


 会場内が拍手に包まれる。

 倉敷と児島は明らかにほっとした様子を見せていた。

 だが児島にとっては、ある意味でこれからが本番になる。アフターの司会をすることになっているからだ。

 そのことを思い出したのか、児島がまた表情を引き締める。


「片付けた後にまたお入りいただきますので、一般参加の方は外でお待ちください。十五分後ぐらいを目安に、ご入場ください」


 これ以降は入退場フリーなので、強制ではない。

 だが、多くの参加者は撤収の邪魔にならないようにと一時退出していく。

 

 一方で、スタッフは館内を管理する君堂の前に集まって指示を受ける。

 

「アフターはこっちのAホール側でやるので、机椅子は奥のCホール側に集積ね。サークルさんは急かさないように」


 とはいえまだ机の上に色々と広げているサークルは片手ほどもない。

 完売の時間が早かったこともあり、片付いているサークルがほとんどだ。

 

「えーっと和泉さんと江口橋さんと桐宮さん、地下から台車取ってきて。あ、全然急がないからね」

「了解」

「残りの館内館外組は、C側に机椅子を運んでもらっていいですか。一応Aホールのものから優先してもらって」

「ええ、いいわよ」

「分かりました」


 最低限の指示で、それぞれが自分のやるべきことを素早く認識し行動に移す。

 やはりスタッフの人たちは能力が高いと感心するのだった。

 人が足りていそうなことを確認すると、雀田はあかねとChikiに声をかける。

 

「じゃあ君堂さんに撤収の調整はお任せして、本部組はアフターの準備に移りましょう」

「了解」

「承知いたしましたわ」

 

 即売会が終了しても、スタッフはなかなか落ち着けない。

 だが、誰かの役に立てるというのは気持ちがいい。

 しかもそれが自分と趣味を同じくする人たちの集まりに対してだと思うと、充実感があふれてくるのだった。

 

「目玉商品は後の方にした方が良いですよね」

「となると……神谷晩天堂さんの色紙が良いのかしら」

「んー、今日のイベントポスターが大きくて映えるかも」

「そうですね。ラストはそれにしましょう」

 

 ちょっとしたやり取りが心地良い。


「それじゃあ、机の展開は最小限にして、こまごましたグッズから先に始められるようにしてください」

「分かりました」

「承知いたしましたわ」


 最小限の指示で、やるべきことを理解し行動に移す。

 自分もできていればいいなと、あかねは思っている。




 参加者の再入場から、流れるようにしてアフターイベントが始まった。

 いくつかのサークルで撤収が終わっていないが、許容範囲内だろう。

 

「それでは、次の景品にいきますね!」

 

 アフターの進行は児島がどんどん進めている。

 会場返却の時間までは、まだ余裕がありそうだ。

 向こうの方での撤収も順調に進んでいることがわかる。


「さて次は、事前に告知していたように、直近二ヶ月で献血をした人限定のじゃんけんです!」

 

 元気いっぱいの児島の声を背に、あかねは椅子に座って少し呆けている倉敷を見つけて声をかけた。

 

「お疲れ様でした。倉敷さん」

「瑞光寺さん……ありがとう」

「立派なイベントでしたわね」

「いえ……皆さんのおかげだから」


 児島のじゃんけんに、会場内が一喜一憂の声を上げる。

 本部があった場所からは、どの参加者の顔も楽しそうであることが良く見えた。


「特に君堂さんが神谷晩天堂さんを呼んでくださったからね。申し込み表明のタイミングで追加で10サークル来たから」

「すごいですわね」

「本当に。やっぱり、コネは大事だなって」


 どうも倉敷は『コネ』という言葉にあまり良い印象が無いようだ。

 あかねはひとつ思いつくと、倉敷に向かって頷いて見せた。

 

「そうですわね。人との『繋がり』は大事です」


 あかねが『繋がり』の部分を強調したのが分かったのか、倉敷は意図を理解して笑う。

 

「ふふ。私もこれから『コネ』じゃなくて『繋がり』って呼ぼう。ありがとう、瑞光寺さん」


 最後のふたりが残り、連続するあいこで開場の中が盛り上がる。

 楽しそうにしている人たちの作り出す空気が、疲れた体をねぎらう。

 

「久しぶりの参加というサークルさんが多かったみたいですわね」

「意外に。子育てを終えたタイミングでの復帰だって」

「やはり両立は難しいんですのね」

「会場の一角で子供を預けるところがあったら、参加しやすかったりするのかなあ」

「それは面白そうですわね」

「調整が大変そうだけどね」


 倉敷がそう言って笑った時、じゃんけん大会を見張っていた和泉が参加者を連行していった。

 どうやら後出しのズルをしていたらしい。

 和泉と江口橋に詰められ、連行された参加者が縮こまっている。

 倉敷は自分の出番があるかと身構えるが、ここは和泉に任せてしまっても良さそうだ。


「よく見ていらっしゃるわ。和泉さん」

「さすが……和泉さんにお世話になりっぱなし」


 ため息交じりに言う倉敷の肩を、糸目の女性が優しく叩いた。

 

「好きでやってるんだからいいのよ。やらせておけば」

「冷泉さん。お疲れ様です」


 にこりと笑って答えると、まだ参加者に説教をする和泉に目をやった。

 

「ちょっと責任者やっちゃうと、中々現場にもどれないから」

「そういうものですか」

「だから他のイベントは貴重なのよ。何も気にせず現場をやれる機会はあまりないの」

「冷泉さんもですか」

「私はまあ……まあ、そうかもね」


 倉敷の言葉に、曖昧にうなずいた。

 冷泉は冷泉で色々あるらしい。踏み込んで聞く気はなかったが、そのうち話してくれる機会もあるだろうか。


「また機会があったらお手伝いするわ」

「あ、ありがとうございます!」


 最後の景品の勝者が決まり、イベントはほどなくして終了した。



 そして、閉会に臨んでの倉敷の挨拶。

 それは非常に簡潔で分かりやすく、素直なものだった。


「こうして古い作品の新しい本に出会えたのは、描いてくださったサークルさんと、参加してくださった皆様のお陰です。心から感謝するとともに、これからもまた本を出したり、SNSで語ったり、何かしら発信していって下さい。それがきっと、誰かの力になります。なぜなら、それらは昔私たちに力をくれた作品たちだからです」


 スタッフを含めた何人もがうなずいている。

 どういう形かはそれぞれだが、今の自分を形作る一翼を担っている。

 それは間違いないだろう。

 

「今日は本当に、ありがとうございました!」

 

 こうして、川崎で行われた二十年以上前の作品中心のオンリーイベント『今でも元気です』は、大盛況で幕を閉じた。

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