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同人誌即売会と悪役顔令嬢  作者: 狐坂いづみ
川崎オンリーイベント編
126/171

第112話 今日の仲間たち

 倉敷千夏にとって、イベント開催は未知の体験だらけだった。

 そのオンリーイベントは、単発の企画。

 主催は自分。補佐に児島三奈。

 梅雨前の今日、川崎市中小企業会館の四階で行われる。

 イベントのテーマは『20年以上前の作品オンリー』

 募集40スペースを上回る44スペースの応募があり、全サークル当選を果たした。

 そこまではごく普通のオンリーイベントなのだが……

 


 少し湿度を感じる朝九時前の中小企業会館前に、今日のスタッフが集まっている。

 倉敷千夏が確認する限り、遅刻者はいないようだ。

 主催の倉敷、児島のほか、瑞光寺、雀田、君堂、Chiki、男性は江口橋、朝日。

 ここまで見るとほぼC99のネノブロックなのだが……

 

「……和泉さんまで手伝っていただけるなんて」

「冷泉に呼ばれたんでな」

「呼んでません」

「……」

 

 冷泉、一条、和泉。東4の桐宮までいる。

 桐宮は江口橋が声をかけたらしい。

 

「借りがあるので返さないと」

「別のところで返してもらえます?」


 糸目を吊り上げて不快感をあらわにする冷泉と、隣で威嚇する一条。

 どうして朝からこんなにピリピリしているのか分からない。

 

「おお怖い。嫌われたもんだな」

 

 和泉は肩をすくめるが、顔は笑ったままだ。

 

「桐宮さんも来ていただいて、ありがとうございます」

「一緒にルレロブロックやった仲だしね。江口橋さんに誘ってもらったんだ」

「心強いです」


 スタッフ枠として想定していた十人よりも少し多い。

 しかも顔見知りが多くベテラン揃い。とても安心感がある。

 多少の人間関係に配慮する必要はありそうだが、それも君堂がフォローしてくれるようだ。


 今日のスタッフがそろったのを見て、倉敷はひとつ手を叩く。

 スッと無駄口がなくなり、注目を集める。

 

「みなさん、おはようございます!」


 噛まずに挨拶できた。

 スタッフの『おはようございます』の返事を聞きながら、心を落ち着かせる。

 イベントは事前準備が九割。そういう意味では完璧に終えている。

 隣の児島からの応援の視線を感じながら、挨拶を続ける。

 

「今日は『今でも元気です』のスタッフに参加してくださって、ありがとうございます。私が代表の倉敷です。そして……」

「補佐の児島です。イベントはこのふたりが中心なので、何かあったら私たちまでお願いします」


 つつがなく最初の挨拶を終える。

 次は……

 

「自己紹介は……いらないかもしれないですね。出席を兼ねてこっちからお呼びします。それと今日の役割もお伝えしますので、お返事よろしくお願いします。まず、館内を全体的に見ていただく君堂さん」

「はーい」


 面倒見が良い君堂なら、安心して任せられる。

 児島とも一致した見解だ。

 

「次に和泉さんにも館内の副責任者をお願いしています」

「おう」

「今日はこのおふたりが現場の中心です。次に体制ですが……」


 順に名前を呼びながら、配置を確認していく。

 

 本部……倉敷、児島、瑞光寺、雀田、Chiki

 館内……君堂、和泉、冷泉、一条

 館外……江口橋、朝日、桐宮

 

「このうち、瑞光寺さんとChikiさんは本部に余裕があるときは館内に出てもらいますし、朝日さんと桐宮さんは館内も兼務で、開場のときそのまま館内に入って混雑対応に当たってもらいます。江口橋さんの休憩は本部とも相談してください」

 

 呼ばれた面々がうなずく。

 ベテランばかりのためか、自分がどう動くかちゃんと理解できている。

 外の待機列の作り方について倉敷と江口橋が話す一方、児島が本部の業務について雀田たちに説明をしている。

 

「今回は、発表から二十年以上経ってる作品に限定したオンリーですが、該当する頒布物がひとつでもあれば問題ありません。つまり最近のゲームの本『も』置いても大丈夫です。その辺は緩めです。回収はしなくて、すべての頒布物の確認だけしてください」


 雀田と瑞光寺がうなずくのを満足そうに見る。

 

「今回コスプレはないので、その受付とカメラの受付がありません。だからちょっと楽かな」

「まあ。少し残念ですわね」

「そうですね」


 コスプレイヤーでもある瑞光寺とChikiがそう口にして、児島は困った顔でうなずく。

 オールバックのポニーテールが小さく揺れた。

 

「コストが高いからねえ」

「コスト?」

「更衣室用の部屋を借りるために追加でお金がいるし、更衣室が離れているから管理するのが大変だし、撮影の管理もしないといけないし」

「……なるほど」

「イベントの華だってことは理解してるんだけどね」

 

 初めてのイベントであれもこれもと手を出す勇気がなかったよと児島が苦笑いする。

 遠くの目標にしている地元のイベント開催では、そういったことも取り入れたい。

 

 そして、館内のことは君堂から説明がある。

 和泉、冷泉、一条、そして外から入る朝日と桐宮が少し緊張した表情を見せている。

 

「混みそうなところを私君堂から。みなさん事前に情報は確認してるかもしれないですが、大手サークルとしてはカタログ表紙も描いてくれてる『神谷晩天堂』が来ます」

 

 前回C99冬では東1ホールのサイドシャッターに配置された大手サークルだ。

 今日はきっち新刊を作り上げ、すでにサンプルのページもSNSで話題になっていた。

 今日の一般参加者のほとんどがこの本を目当てに来ると見込んでいる。

 

「シャッターサークル呼ぶとは大したもんだな」

「家が近いからね」


 横から口を出す和泉に、君堂がさらっと答える。

 表紙の依頼まで仲介したのは君堂だが、特に誇る様子もない。

 

「あと……混雑面じゃないけど要注意なのが、ニチアサの俳優がやってるサークルが来ます」


 東5の面々はすでに知っていることなので特に反応はないが、冷泉、一条、桐宮はどういうことかと首をかしげている。

 

「本自体は古い特撮の分析本なのでそんな並ばないとは思いますが、盗撮とか気を付けてください」


 それはそれで大事な話だ。

 オンリーは雰囲気が緩い分、何をやっても大丈夫と思ってしまう人もいなくはない。

 ネット上でのトラブルを抱えていそうなサークルは見当たらなかったので、大きな問題は起こらないとは思うが。


「あ、もう時間なのでとりあえず会場を開けてきますね」

 

 児島がスタッフの集まりから離れ、事務所フロアへと向かって行った。

 そろそろ切り上げてこちらも会場のフロアへ上がらなければ。

 

「ところで、この会場で初めてスタッフの人は?」

 

 君堂の問いに、瑞光寺と雀田、冷泉と一条が手を上げる。

 残り全員、過去にこの会場でスタッフ経験があるということか。

 

「意外に川崎経験者多いな」

「オンリーやりやすいからね。安いし」


 江口橋のつぶやきに、君堂が笑う。

 展示場の料金が安く、気楽にイベントを開くことができるのはありがたいことだ。

 

「じゃあ経験者、椅子机の台車とかよろしく。未経験者は本部設営ね。設営終わるまで外は江口橋さんだけで良い?」

「任せろ」

「任せた」

 

 にししと笑う君堂を先頭に、ぞろぞろとエレベーターへ向かう。

 その頼もしい背中たちを見送ると、倉敷は残った江口橋に頭を下げた。

 

「それでは江口橋さん、外をしばらくお願いします」

「ああ。一般は適当に散らしておく。ただ20人以上それらしき人が来たら連絡するから、その時にいつ上げるかタイミングを決めよう」


 倉敷は自分を落ち着かせるように、ひとつ深呼吸をする。

 指折り数えた日をついに迎えたのだ。

 

「分かりました。よろしくお願いします」


 沢山の助けをもらいながら、今日自分のイベントが形になる。

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