ポケットガール
いつだって疑える常識は疑うべきだ。
じゃないと、残酷に気がつかない時もあるから。
例えば、食肉だってそうだ。
私達は常に、加工された下等生物を食べている。だが、彼らが加工されている現場に行ったことがある人がどれぐらいいるだろうか。
苦しみながら死んでいく様を見たことがある人は、どれくらいだろうか。
怖いもの見たさで、動画サイトで見た人はいるかもしれないが、実際の現場に行ったことがある人は、どれくらいいるのだろう。
いつも世界は残酷だ。
しかし、立場が変わらないと、それに気がつかないことが多い・・・。
2080年、パイロット達はロケットに乗り、宇宙探索を行っていたが、隕石が衝突し、ロケットが大破し、25歳の青年タオだけが生き残り、無線を飛ばしたのち、引力のある地球によく似た蒼い惑星に不時着した。
そこの星には、酸素があり、ヘルメットなしでも、呼吸が可能だった。
草木が生え、人間によく似た生物がいる。
タオは、星民とコミュニケーションを取るためにジェスチャーを行おうとしたが、その必要性はなかった。
なんと、その言葉は「日本語」だった。
なんとも不思議なことだろうか、この惑星では我々の母国語、母星語である日本語が使えるなんて。
タオは、事情を説明すると、その星の大使に呼ばれ、食事が振舞われた。
「どうですか?このハンバーグ、そして、この唐揚げは。」
「久しぶりに食べます!
地球を出てからというもの、宇宙食ばかりで、まともな食事にありついてないものでして!」
髭の生やした40歳の中年の日本人に近い容姿の大使は、僕がメインディッシュを食べ終わった後に言った。
「それなら良かった。
・・・この肉は多分地球では見かけないだろう。」
「はい!豚肉でもなさそうですし、
羊肉に似てるような・・・でも、違うような・・・」
「ポケットボーイという下等生物の肉です」
「ポケットボーイ・・・ですか?」
僕はこの星の家畜について聞いた。
この星には「ポケット」という種類の家畜がいるらしく、それはとても人間に似ていて知能や知性はあるものの、この星の人間(この星の人間のことをヒュネマカと言うらしい)よりも劣っており、ポケットのメスは、ポケットガール、ポケットのオスはポケットボーイと呼ばれ、基本的にポケットガールは、愛玩家畜として扱われ、ポケットボーイの殆どは食肉になるが、一部の富豪のペットになることもあるが、最期は大抵太らせて食肉加工される。
そのポケットボーイやポケットガールのイメージがつかなかった彼は、猿やチンパンジーみたいなものだろうと思っていた。
タオは腹ごなしにこの星を散策することにした。
その星で、恐ろしい目にした。
その星の公園らしき場所である男性が、小さなボールのやうな物体を投げると、それは裸の女性へと変化した。
続いて眼前の女性がそのボールを投げると同じように小柄な女性が出てきたのだ。
「いけ!俺のメラニウス!ひっかきだ!」
メラニウスと呼ばれた「女性」は、眼前の女性の投げたボールが変化した女性をひっかく。
「負けるな!鳩尾を殴れ」
とても、恐ろしい光景だった。
裸体の女性が殴り合ってるのを2人は笑ってみていた。
僕は恐ろしさに跪いた。
とある中年が僕に声をかける。
「君、大丈夫かい?顔色悪いよ?
胃薬必要かい?」
僕は尋ねた。
「あの、あれは何ですか?」
「あれかい?あれは、ポケットバトルって言ってね、お互いの所有するポケットガールを戦わせるいわゆる、この星、この国の娯楽さ。
君はもしかしてよその星から来たんだろう?」
「はい。」
「この星ではねぇ、ポケットは、愛玩家畜でありながら、様々な用途に使えてね。
ある人はセックスして妊娠させたり、
ある人はポケットを思い切り殴ってストレスを発散させたり、
ある人はポケットを食べたり、
またある人は、快楽のためにポケットを銃殺したりするんだ。
だけど、それはこの星では合法なんだ。」
僕は恐る恐る聞いた。
「何でですか?」
「ポケットは下等生物に過ぎず、ヒュネマカの永遠の家畜で、我らヒュネマカが仕事や学業、人間関係で溜まったストレスを当てるために存在してるのさ。
まぁ、他の動物には暴力を振るったり食べたりすることは、出来ないけど、何故かポケットだけはそれが許される。」
確かに、私たちが動物にやってきたことを置き換えれば納得がいく話だ。
人間達はかなり無残な方法で牛や豚を殺す。
精神的な快楽のために動物を虐待したり、蚊を殺したり、軍鶏を戦わせたり、カブト虫を戦わせたりと、全部自分のために下等生物を都合よく取り扱っている。
その全てのことがポケットには許されているらしい。
タオはそれを聞いた直後トイレで嘔吐した。
その後タオは住民からポケットの話を沢山聞いたり、ポケットの加工工場へ連れて行ってもらったり、様々な形でポケットが迫害されるのを見た。
そして、その夜、タオは何も食べずに悪い夢だと自分に言い聞かせ眠りにつき、朝を迎えた。
気晴らしに原っぱへ行くと、足を怪我した、身長の低い茶髪で鼻筋が通っており、二重で美しい裸体の女性がいた。
彼女がポケットだということは一目瞭然だった。
コンビニエンスストアで買ったガーゼで、彼女の足を治療すると、ポケットは、タオに懐いた。
「アナタ、スキ。
ワタシアナタツイテイク」
そのポケットの容姿は美しく、僕は恋をした。
タオはそのホテルに戻り、服を脱ぎポケットの膣にペニスを入れる。
「お前、膣が広いな。」
「アタシ、ゴシュジンサマ、イラナイイワレ。
ソトニイタ」
「捨てられたってことか。」
「ステル?」
タオは自分の舌とポケットガールの舌と交差させた。
性欲か自己顕示欲か、わからない。
僕はタバコをふかす。
少しでもこの星も悪くないって思えた自分が憎い。
しかし、セックスの後、外へ出ると価値観が変わった。
金属バットで、ポケットを殴っていた25歳ほどの男がいた。
「イタイ・・・イタイ」
「死ねよお!はやくしねよ!」
強く何度もポケットを殴る。
「やめろよ!おまえ!このポケットが何をしたって言うんだ!」
「何もしてないさ。
だけど、今月金使い過ぎて、食うもんがないから、ポケットを調理して、食べるんだよ。
だから今ポケットを殺してる最中だ。邪魔すんな」
ポケットは命乞いをしていた、
「ゴシュジンサマ、ズットスキ。
ソバニイテホシイ。キエタクナイ。
ズットソバニ」
「うるせえ!」
思い切り金属バットをポケットにぶつける直前にタオはとっさにレーザー銃をポケットから出した。
「やめろ。やめないと打つぞ。」
「おまえ、まさか、ポケットボーイだな。
だから、ポケットに同情の心を持ってるんだ。
しねえええ!下等生物!」
タオは彼の胸を銃で撃ち抜いた。
「ゴシュジンサマ!
ゴシュジンサマ!!」
そのポケットは、自分を殺しかけた"ご主人様"に泣きつく。
「そうしないと、君は死んでいた。」
タオが立ち去ろうとすると、そのポケットはついてきた。
「アナタ、ダイジナヒトコロシタ。ユルサナイケドモウイクバショナイ」
タオはアザだらけのポケットに一言つぶやいた。
「僕はこの星でポケットを守って死ぬ。
こんなの見てられない」
タオは、ポケット達を守るために、ポケット達を虐待してると思った者は殺していった。
タオはいつしか、重要指名手配犯となっており、殺した者は地球で言うほどの1000万の賞金が出されるという事で、星民達の殆どは、お金欲しさにタオの命を狙っていた。
50人ほどのポケットガールを解放したタオは極悪人となっていた。
そして2週間が経った時、とある田舎町の無人の馬小屋にタオとそして、タオと最初に出会ったポケットは、2人で寝転んでいた。
タオは、殺される恐怖により、精神的に追い詰められ、こんなことを呟いた。
「もしかしたら間違っていたのかもしれない。
だってそうだ、地球だって同じことをしている。
その対象が人間に似ているか似ていなかが違うだけで、同じことをしてるだけなんだ。
僕は、やっぱりハンバーガーが好きだ。
しかし、牛を殺さないと美味しいハンバーガーは食べられない。
その対象が牛から人間によく似た生物になってるだけでどうして僕は、感情的になってるんだろう。」
「アナタ、マチガッテナイ。
ポケットコロサレナクテスンダ。」
「代わりに多くの人を殺した。
命の重さは、関係ないよ。僕はそろそろ疲れたよ。」
「アナタ、コンバンハ、キスヲスルノデスカ?」
「しようかな」
このキスが最後のキスとなった。
服を脱いで2人が抱き合ってる最中に手榴弾が、馬小屋に投げられた。
「なんだ」
これがタオの最期の言葉になった。
タオとそのポケットは、無人の馬小屋とともに命の終わりを遂げた。
完