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「下賤者だが、なかなか役にたつの」
俺から球を受け取ったそいつは、持っていた球も合わせて手元でヒラヒラと動かす。
「ご苦労であった。褒めてつかわす」
「なら、この建物から出る方法知ってるか?」
恐怖心も何も残っていない俺は、そう尋ねる。
そいつはキョトンとした顔をしながら答えた。
「知っているもなにもオレが閉じ込めているのだ」
「だったら帰せよ!」
俺は思わず突っ込んでしまった。
「やじゃ。お主はなかなか使えそうだからの。魔界に連れて帰るのだ」
「はぁ?」
連れて帰るのだじゃ、じゃねぇんだよ。
犬や猫じゃないんだ。ほいほい魔界に連れて行こうとするな。
そんな俺の言葉など意に介さないそいつは俺の足元に先ほど集めた輝く球を投げつけた。
「ちょっ。せっかく集めたのに」
焦る俺だったのだが、その球は俺の足元をぐるぐると回転する。
その球が足元からどんどん上半身まで回転しながら登り、最終的に頭の上で回転している。
球を視線で追っかけていたために、自分がいる場所が変わっていたことに球が狼男の手元に戻るまで気づかなかった。
「はっ?」
「ようこそ魔界へ。お主の働きを魔王様に報告してしんぜよう」
勝手に連れて帰んなや!
掴みかかろうにも標的が小さすぎる。
「ウォン様。お帰りですか」
そこへ現れたのはこれまた小さな羽の生えた生物だ。
黒い羽にトライデントを持っていることからデビルと呼ばれるやつだろう。
「デビットか、ちょうどよい。こやつを魔王と合わせたいのだ。謁見の予定を入れてくれい」
デビル(ミニチュア)に命令する狼男ミニチュア。まるでママゴトのようである。
よくよく周りを見てみると、うろちょろする生物すべてがミニチュアサイズである。
ベルゼバブやルシファー、アスタロス、サキュバス、インプなど有名な悪魔が多くいる。
そして、そのすべてがサイズ15cmなのである。
そして気づく。建物でかくないか、と。
すべての生物が15cmなのだから、建物自体もっと小さくていいはずだ。
それこそシルバニアファミリーの家のように。・・いや、それでは小さすぎるか。
しかし、ここは天井が先ほどまでいた学校の2倍以上あるように思える。
1フロアの面積自体も広いのだ。
それは何故なのか、考えるに、この高さを必要とする生物が住んでいるのではないか。
こいつらの言う魔王様が、とてつもなくでかいのではないか。
そう結論づけた俺は、喪失していた恐怖心を獲得することに成功した。
ミニチュアサイズで感じにくかったが、こいつらも悪魔なんだと改めて実感してしまった。
少しばかり考え事をしているうちに、デビルは手早く魔王様との謁見を取り付けてしまった。
俺は帰り方もわからないため、狼男に続いて建物を歩くしかなかった。
「この奥に魔王様はいるのだ」
そう言って建物の中でも一際豪華な扉をした部屋へと案内される。
俺の恐怖心など知る由も無い狼男は、パパッと扉を開けた。
「魔王様。人間界より使える人間を連れてきたのだ」
「ウォン! なんてことをしてるの!」
魔王と呼ばれたのは人間の何倍もあるツノの生えた……なんてことはなく、普通の人間であった。
「女の子……」
一気に力が抜け、その場に座り込んでしまう。
「ごめんなさい。突然こんなところに連れてこられてびっくりしたよね。ここは魔界ではあるけど、ここの人たちは怖く無いから安心して」
女の子は俺のところまで駆け寄ると、手を差し出して起き上がるのを手伝ってくれた。
久しぶりに人間と会話できると喜んだ女の子をがっかりさせるのも忍びないので、言われるがままに魔王様とお茶をする。