71話 久々の依頼
ギレアさんがやってきたあの日から1ヶ月が経過した
あれから帝都では暫くドラゴン襲来の話題で持ち切りとなった
更にその原因がシュヴァインが龍の子供を捕縛したせいだという情報が漏洩し、それに対して良く思わない声が帝都内でちらほらと出ていた
一部の貴族が陛下に何度か直訴しにやって来ていたのも見かけた
国を統治する側の人物が逆に国に危険をもたらしたのだからそういう不満の声が出てくるのも仕方がないだろう
しかしそれも今では下火となり、帝都は前の落ち着きを取り戻しつつあった
肝心のシュヴァインの方だが、なおも捜索を継続中とのこと
フローラさんから聞いた話ではなんでも身を潜める為に作られた隠れ家がいくつもあるらしく、見つけ出すのに難航しているらしい
陛下達もまさかこんな使われ方をするとは思ってもいなかっただろう
早く見つかって厳しい処分が下って欲しいものだ
一方シェラの方はというと、すっかり皆と仲良くなっていた
元々人懐っこい性格なのもあり、打ち解けるのもあっという間で楽しそうに日々をしている
誰にでも愛想が良いこともあって宮殿の給仕達とも仲が良く、小さなアイドルとして大人気であった
ホームシックになるかとも心配して様子を窺っていたが、そんな気配等微塵も感じさせなかった
シェラが完全復帰してからはガーフが戦闘の相手をしてくれている
ガーフが珍しく世話を焼いてくれていて仲良くやっているようだ
幼いシェラに対して母性のようなものが芽生えたのだろうか?
動きのキレが戻ったシェラはやはりドラゴン。そこら辺の魔物なんか軽く一捻りで倒してしまう程の力を備えている
本人も体を動かす事が大好きなようで毎日ガーフと泥だらけになるまで戦っていた
しかし人間の体で戦うのには慣れていないのかちょくちょくつまづいたり転んだりしていて、ドラゴンの体に戻りたいとボヤいていた
ようやく落ち着いてきたのにまたドラゴン騒ぎになるのはまずいので人目があるところではドラゴンの姿にはならないよう注意しておいた
そして僕もこの1ヶ月、オルフェウスさんとの打ち合いにロザリアさんとの練習をひたすらこなして秘孔拳とスキル"並列思考"を習得する事に成功した
僕の体自体にも大きな変化があった
ギレアさんの血を飲んだことによって全体的に能力が大幅に強化されたのとスキル"熱無効化""恐嚇""赫灼撃鉄""龍化"を習得した
熱無効化は文字通り熱に対する完全耐性。恐嚇は相手を怯ませる効果がある
赫灼撃鉄は拳を前に突き出すことによって高温の炎を撃ち出す事ができる中距離攻撃
始めはこれならブレスでもいいんじゃないかと思ったが、試しに使ってみて分かったのはブレスは拡散型で龍の撃鉄は凝縮された一点集中型といこうこと
相手によって使い分けることができる
龍化は龍爪、龍脚、飛翔等のスキルが統合したスキルで全てを同時に発動することが出来る
更に前までは体に纏う形で発動されていた龍爪、龍脚が今は完全に自分の体と一体化していた
シェラにそれを見せると「お揃いだね!」と喜んでいた
アイシャ達も順調に成長し帝都にきて約2ヶ月、僕等はオルフェウスさん達との特訓を終えてロザリアさんは帝都をあとにし、ダインさん、ミカエラさんも自分達のホームへと帰っていった
まだまだ教えてもらいたいとも思ったが、あとはひたすら研鑽を積むようにと言われたので僕等は身につけた能力に磨きをかける為にギルドで依頼を受けることにした
「ギルドの依頼を受けるのも久々だね」
「楽しみ〜♪」
今回はシェラも加わっての依頼だ
前日にそれを伝えた時にはシェラは昨夜からずっとソワソワしていた
それは遠足の前日に楽しみで眠れずにいる子供のようだった
シェラにとっては初めてのこと尽くしだろうから楽しみなんだろう
依頼を受ける前にまだギルド登録をしていない3人の登録を済ませることにした
登録をしなくても僕等がいれば依頼は受けられるので問題はないが、あった方が色々と便利だし登録しておいて損はないだろう
受付に行くとミレーナさんがいたので声をかける
「おはようございますミレーナさん」
「あっリュウヤさん、お久しぶりですね。依頼を受けに来たんですか?」
「はい、でもその前にこの3人のギルド登録をお願いしたいんですけど」
「この子は・・・リュウヤさんの妹さんですか?」
シロエ、クロエはともかく、ミレーナさんが気にしていたのやはりシェラの方だった
シェラの尻尾や角を見ている。先の件もあって気にしているようだがその件に関しては問題ないはずだ
ロザリアさんの話で初めて知ったが龍人のタイプには2種類いるらしく、僕のような人間と見た目が変わらないタイプとシェラのように角や尻尾、鱗が生まれた時から体の一部としてあるタイプ
なので今の姿でいればシェラが本物のドラゴンとバレることはそうそうないだろうと言っていた
「はい、シェラって言います。ほら、挨拶して」
「よろしくね!お姉さん」
「きゅん!か、可愛い・・・」
また1人シェラの可愛さにやられてしまったか
本当にアイドルとしてやっているんじゃないだろうか。シェラの可愛さならたちまち大人気になるはずだ
・・・僕もこの1ヶ月で順調にシスコンへの道を歩んでいるような気がするが、まぁ兄妹ならこれ位思って当然だろう。だってこんなに可愛いのだから!
シェラのギルド登録試験は周りにいた見物客全員を驚かせていた
小さな子供が鉄の剣をその身に受けても傷1つつかず、逆に剣を折ってしまうという到底人間には出来ない光景を目の当たりにすれば驚いて当然だろう
魔力も言わずもがなドラゴンなので人並み外れた量を持っているので文句なしの合格
シロエとクロエも余裕の合格で3人ともギルド登録試験を突破した
そもそもの話、人間の冒険者と基準が同じなのでこの3人が合格するのは必然だろう
「おめでとうシェラ。合格だって」
「やったー♪」
ギルド登録も無事に済んだところで次は依頼決めだ
迷宮以来の魔物討伐ということで一先ず手頃な依頼をこなすことにして、ミレーナさんに依頼を見繕ってもらった
頼まれたのはAランクの依頼でジャイアントオーガの複数討伐。ここから少し北上していったところでジャイアントオーガの数が増えてきているという報告があったのでそれを倒してきてもらいたいという事らしい
先日迷宮で倒した魔物を換金した際にBランクやAランクの魔物が混ざっていたことから、僕等はCランクからAランクにまた飛び級の昇格を果たしていた
Aランクの魔物を倒してもA級にすぐ昇格出来るわけではないが、相当な数があったのでA級の実力があると認められた
皆もオーガ討伐に賛同してくれたのでこの依頼を受けることにした
帝都を出て少し離れた場所まで行くとシェラがドラゴンの姿になり皆を乗せて目的地まで飛ぶと言い出した
確かにドラゴンになって空を飛べば歩いて半日近くかかる時間を大幅に短縮できるだろうが・・・僕等全員を乗せて飛べるか不安だった
「大丈夫!久しぶりにお空を飛びたくてうずうずしてるの。ねぇいいでしょ?」
確かに普段から龍の姿にならないよう過ごさせていたから日頃の鬱憤が溜まっているのかもしれない
シェラ本人がこう言っていることだし、ここなら人目にもつかないだろうから任せることにした
シェラは喜んでドラゴンの姿に戻り背中に僕等が乗るとゆっくりと高度を上げていき移動を開始した
流石ドラゴンだけあって幼くても僕が飛ぶよりずっと慣れていてスピードもかなりのものだった
ただ問題が1つ浮上した。背中に乗っていると風圧が凄くて油断していると吹き飛ばされそうになる
アイシャがロザリアさんから教えてもらった結界のお陰でそれは解決されたが、今度からはもう少しゆっり飛行してもらうことにしよう
「ありがとうシェラ、お陰で凄い早く目的地に来ることが出来たよ」
「久しぶりに飛べて気持ちよかったー♪」
飛び始めてからものの数十分で目的地の山に到着し、ジャイアントオーガは山にある洞窟を住処としていると情報をもらっていたので僕等は周辺にある洞窟を見て回っていった
洞窟付近まで近づき魔力感知で魔物の魔力を確認すると奥から複数の反応があったので進んでみると、ジャイアントオーガの群れを発見した
数にして18体。体長4mはありそうな巨体が洞窟の中にウヨウヨいた
中からは獣等を食べた後の腐敗臭や血の匂いが臭ってきていて、ドラゴンであるシェラは鼻も利くので眉間に皺を寄せて鼻をつまんでいた
「よし、じゃあ行くよ」
小さく声で合図を送りタイミングを見計らい一斉に飛び出した
読んでいただきありがとうございます
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